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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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58話「ウィズアルドの令嬢」

 ニスニアール大陸より南に存在する東西に長く延びるマッカチョッカ大陸。大陸東部に位置する温泉の名所として賑わう町から更に東に進んでいくと岸から大きく隆起した山々に囲まれた思わず魔物さえ忌避したくなるような神秘的な泉のそばに大きく立派な屋敷があった。

 その土地にはかつて魔法と呼ばれる技法をもって大陸を支配して名を馳せたウィズアルドという国が存在していた。だがしかし、それも遥か昔の事である。現在その跡地に建てられた豪華絢爛な屋敷には、ウィズアルド王国に君臨した魔法使いの血を受け継ぐ者がその家族と多くの使用人とともに細々と暮らしていただけであった。

 魔法によって築いた栄光は彼方へ過ぎ去り、太陽が煌々と照らすある日の事、ウィズアルドの屋敷では待望のイベントが待っていた。マッチョなメイドが仕えるウィズアルド家領主の愛する一人娘であるマジュ・ウィズアルドがこの地域で成人──大人の仲間入りとされている十六歳の誕生日を迎えたのだ。領主である父も、お腹を痛めて産んだ母も、名家に長く仕えてきた使用人達さえも今か今かとこの日を心待ちにしていたのである。屋敷はおめでたいムードで包まれ、誰も彼もが浮かれていた。──人里離れたこの屋敷が、魔王が復活して士気が上がっている魔物に目を付けられているとも知らずに。


「その日は朝から大賑わいだったわ。領主様とご家族が住む本屋敷と私達使用人が暮らす家屋の間の大庭でマジュお嬢様の誕生パーティーが行われていたの」


 ウィズアルドの領主は寛大な人物で、使用人の家族も迎え入れてくれていた。ウィズアルド家、使用人、その家族、更には多くの来賓とでパーティーは大いに盛り上がっていた。この日ばかりは立場も関係なく、その場の皆が令嬢の誕生日を祝うとともにパーティーを楽しんでいたのだ。

 豪華な食事に舌鼓を打つ人々、はしゃぎまわる子供、招かれた大道芸人の催しに夢中になっている者。まさにお祭り騒ぎである。主役である名家の一人娘は自身が祝われている事よりも皆が楽しんでいる事の方が嬉しかったようだ。笑顔で溢れている光景を満足そうに眺めていた。

 

「ふふふ、人というのは不思議よね。楽しさを感じていると疲れなんて忘れてしまうのか、それとも知らずかずっとはしゃいでいられるんだもの。朝から始まり、なんと日が暮れるまで大騒ぎだったのよ」


 だが、何事も始まれば終わりが必ずやってくる。楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、橙に染まる空の下、招かれた来賓や大道芸人は続々と帰途に就きはじめていた。一緒になって楽しんでいた名家に仕えるメイド達も自分達の立場を思い出したかのようにパーティーの片づけや屋敷での家事に取り掛かる。騒がしい一日が終わっていく様をこの日の主役が名残惜しそうに見つめているその傍らで夕日が沈んでいく。


 ──何とも食べ応えがありそうな人間が揃っているな──。


 日が暮れて、辺りが薄暗くなる時間帯──逢魔が時とはよく言ったものである。来賓とすれ違うように招かれざる客が屋敷の上空で翼を羽ばたかせていた。鳥というにはあまりにも大きい物体──凶悪な魔物が山々に囲まれた屋敷で忙しなく動く人間達をはねぶるように見ていたのだ。

 

 屋敷の中で仕事をしていたメイド達が外にやってきた。メイド長であるゴリエットを筆頭に、筋骨隆々のメイド達が何やら大きな筒と大きな球状のものを抱えて現れたのである。目をぱちくりさせている令嬢をよそに、メイド達は十六歳の誕生日を迎えた彼女を祝うパーティーとは別に、メイド一同からの『贈り物』としてサプライズの準備を着々と始めていた。


「花火ってご存知かしら? お空で火薬を爆発させて様々な模様を表現する素敵なものなのだけど。大人の仲間入りをするマジュ様を祝うこの日が素晴らしい思い出になるように同僚の発案で知り合いの職人さんに作っていただいたの」



 ウィズアルドの令嬢の誕生日。名家の一人娘の門出を華やかに飾るためにメイド達はつつがなく作業を進める。


 ──ゲッヘッヘ……! どいつから食ってやろうか──! 


 闇夜に紛れた魔物は不気味に嗤った。ぞろぞろと屋敷から出てきた獲物に待ちきれないと舌なめずりをする。そして目の色を変えた。魔物の行動が品定めから狩猟に変わる。魔王様による世界征服へのいい景気付けだ──空に佇む魔物はおもむろに羽ばたかせていた翼を閉じた。

 

 よし! 後は職人さんにお任せするだけね──メイド達の準備が終わり、その場から離れはじめた。最後のサプライズのために残っていた職人に手筈通りに任せる。一体何が始まるのか──この後に起こる事など知る由もなく令嬢、その両親、そして使用人達も胸を踊らせながら慣れた手さばきで作業を進める職人の後姿を見守った。

 職人が花火玉が入った筒に火の塊を投げ入れる。すると筒の底に入れていた発射火薬に着火し、瞬く間に大きな花火玉が空に打ち上がった。


「私達も話に聞いていた程度で実際には花火を見た事がなかったから楽しみにしていたの。『夜空に綺麗な花が咲く』だなんて言われても、とてもじゃないけど信じられなかった。だからこそ子供のようにわくわくしたのを覚えている。でも、マジュお嬢様にも、旦那様、奥様、そして私達にもその瞬間を楽しむ時間は訪れなかったわ」


 一体その後何が起こったのか──エーダは緊張の面持ちで、おそるおそる訊ねた。口を開き、答えを返すチョードリーの表情と声には無念さと怒りが入り混じっていた。


 ──魔物は、花火が打ち上がったタイミングで──。


「邪魔しようとわざと花火玉目掛けて飛び込んできたのよ……!」


 ……。


「……いや、偶然じゃねえ?」


 ……。客観的に事実だけを述べると、人間どもを食ってやろうと急降下してきた魔物と令嬢の誕生パーティーの最後を飾ろうとして打ち上げた花火玉が偶発的に空中で衝突しただけなのだが、メイド達は妨害の意図をもってぶつかってきたのだと主張した。エーダとフアムは、何とも言えない表情をして固まっている。まさか──。


「お嬢様のパーティーを台無しにしようとして……?」

「……いや、偶然じゃねえ? 何でそんな花火とやらをピンポイントで狙うんだよ。体張りすぎだろ。もっと他に方法あっただろ」

「一番ショックが大きそうなクライマックスを狙い撃ちしたのかな」

「……いや、偶然じゃねえ? 何だよクライマックスを狙い撃ちって。人間特有のイベント事情とかタイムスケジュールを魔物が考慮しだしたらいよいよ怖いわ」

「あぁ……! あの時の『いっってえあぁぁぁ! まさか俺に気付いて狙ってやがったのか⁉』という魔物の叫び声が今でも耳に残っているわ……!」

「いや、偶然で確定だな! その叫び声が確かならまったくもって偶然だろ!」

「ユーシャ、あなたが魔王討伐を果たそうとするのならこれだけは覚えておいた方がいいわ」

「え? な、何……?」


 場がよくわからない空気になる中、スピードアは自身が感じた事を踏まえて、これからも魔物と相対するであろうユーシャに冷静に助言した。魔物は──。


「『何の罪もない魔物を攻撃しやがって! 必ず落とし前つけてもらうからな!』と、あたかもこちらが悪いのだと責任を押し付ける狡猾な存在だという事を……!」

「互いに被害者面してるだけじゃねえか。しっちゃかめっちゃかになって収拾つかねえよもう何だよこれ」


 混沌の一途を辿った回想はどこに向かうのかと、エーダがメイド達に事の顛末を訊ねた。


「あのっ、それで、その後はどうなったんですか……?」

「屋敷が全焼したわ」

「えっ、そりゃ大変……。……」


 ……。


「何があってそうなったの⁉」


 遡りすぎたり、端折りすぎるチョードリーが語った端的な結末はユーシャ一行の感情までもしっちゃかめっちゃかにさせたのだった。

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