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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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53話「港町への道中」

 空が鮮やかなオレンジ色に染まる夕暮れ時、ユーシャ一行はカランカ城より南の港町・スーノに向けて歩いていた。

 ニスニアール大陸に大きくそびえるゴッツィーナ山脈が太陽を遮り、山陰に入っているからか吹きおろしの風は余計に冷たく感じる。かつて父とともに旅をしていたエーダの助言により、灼熱の砂漠の旅に備えて買っておいたマントはエーダの言った通りに寒さの中でも重宝していた。冷風は露出している肌には強く当たっていたが、体を包むそれは体温を奪わせない。だが、ユーシャ一行には気候よりも重大な問題に直面していた。ユーシャとフアム、そして旅慣れしているエーダさえあからさまに表情を隠せていない。後悔してもしきれない。一行の思いは一致していた。


 ──もっとしっかりと休むべきだったな──。


 ……。思えばニスニアール大陸北部のヒエンルナ国領を出てから寒暖差が激しいカランカ・ランデスを縦横無尽に動き回る彼らは箸休め程度にしか休憩を挟んでいなかった。いくら若くとも体力は無限にあるわけではない。いつもはすんとしているフアムの顔にも疲弊感が色濃く出ていた。ユーシャはエーダとフアムに陳謝した。エーダはすかさず気遣いを見せる。


「ユーシャ一人の責任じゃないわよ。私達も何も言わずについてきちゃったわけだし」


 エーダに続き、フアムも恨み言は言わないと弱弱しくも口にする。


「でも八時間以上旅したら必ず一時間の休憩を入れるとか十五歳未満には旅をさせない法律とかを設けて違反したら罰するべきだね」

「司法に訴える気満々かい。何だそのどっかにありそうなルールは」


 だがしかし申し訳ねえ──。体が小さく負担も大きかろう少女にユーシャは平謝りするしかなかった。おそらくカランカ・ランデス王国のさらわれた王女イルーニを救出するという責務。加えて猟奇的な部分が随所に見える国王夫妻が鎮座するランデス城ではその緊張感で疲労を感じていなかったのだろう。そして一段落ついた今、溜まっていた疲労が一気に押し寄せてきた次第だった。


「それにしても……港町が全然見えてこないな」


 ユーシャ達が現在進んでいる道は進行方向から見て右手にゴッツィーナ山脈、左手には標高こそ低いが起伏が激しい山々──かつてトモフの町を苦しめていた魔物が巣食っていたトゥータン山も含まれる──が連綿と続いていた。至極真面目で融通の利かないイーゲン大臣の言った通りゴッツィーナ山脈は複雑に湾曲した形をしており、目的地である港町が一向に目に映らない。先がまるで見通せない状況も疲労を感じさせる要因になっていたのだった。

 ユーシャの足が止まった。その場で少しうつむき思案する。数秒ののち、顔を上げて仲間二人へ振り返るとユーシャは真剣な表情を見せた。そして──。


「ランデス城に戻るか」


 ……。暢気で大らかな少年は恥も外聞も気にしない。意気顕揚に城を出ておきながらどの面下げて戻ろうというのか──怪訝な表情をするエーダに自身の判断が間違っていたとユーシャはあらためて素直に認めた。ランデス城へ踵を返し、英気を養おうという提案を受けてフアムが飄々と返す。 


「そうだね。王女様の部屋のいい匂いを嗅げばどんな疲れも吹き飛ぶよね!」

「そんなニュアンスかけらも含ませてねえよ! 俺を変態にカテゴライズさせるんじゃねえ‼」


 疲れているはずの二人の疲れを感じさせないやりとりにエーダが口を挟んだ。


「え、でもっ……港町はともかく海には近づいているわよ? 私はそのまま進んだ方がいい気がするけど……」

「へっ? そ、そんなことわかるの⁉」


 ユーシャを思わず目を開いてエーダを見やる。エーダは風に吹かれてなびいている自身の髪をつまみ、説明を始めた。


「さっきから髪の毛がぱさついてきているの。潮風に吹かれて髪の中の水分が失われている証拠よ。きっと海が近くなっているんだわ。あっ、それに──」


 エーダが耳を澄ませるよう促すと、どこからかぼおっと低く伸びる音が聞こえてくる。おそらく船の汽笛なんじゃないかしら──エーダは風や音から現在地を推し測っていた。父との旅の賜物である。ユーシャは驚嘆の表情を見せる。


「よし! じゃあこのまま進もう!」


 ……。翻す決断が早い。ユーシャは手のひらをくるくる返す事にまるでためらいはなかった。そしてフアムを見やり、優しく、そして後ろ暗さを感じさせながら声を掛けた。


「フアム、ごめん。港町までもうちょっとだと思うから頑張れるか?」

「いいよ。今は歩みを進める方がいい匂いに包まれるより大事だもんね」

「いつまでそのボケ引っ張んの⁉」


 果たして当てつけのつもりなのだろうか。変態のレッテルをユーシャに貼り付けようと目論むフアムはすんとした表情でユーシャの方針に同調する。もうすぐ港町で休める──その思いが、少しだけ一行の足取りを軽やかにさせた。


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