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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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52話「次の大陸へ」

 ユーシャ一行と、カランカ・ランデス王国第二王女ウレーヌが玉座の間に姿を現した。ユーシャは早々に魔王討伐の旅を再開するのだと、国王夫妻に別れの挨拶を告げた。ビルッグ国王は驚いた表情を見せる。もう少しゆっくりしていくと思ったのだろう。旅を急ぐユーシャ達を忙しないものだと感じたが、その重要性は理解していたので感謝の言葉をあらためて口にして、快く見送った。ユーシャ──ヘンビー王妃も声を掛ける。


「あなたが世に立ち込める暗雲を振り払い、この世界に光を照らす事を、平和をもたらすその日をここから祈っています」


 どこか詩的な王妃の言葉に、国王はにこりと笑い、妻に続いた。


「ハッハッハ! 君が酒の味を覚えたら、その時の武勇伝でも聞かせてもらおうかな……!」


 カランカ・ランデス国王夫妻の言葉にユーシャの表情は和らいだ。国として交友がありながらも今回の来訪が実質的な初顔合わせだったが、まるでかねてから付き合いがあったかのような親近感を覚えるほど、国王夫妻は気の良い人柄であった。

 ……愛娘達の事が絡まなければなあ──。あの猟奇的な反応は決して忘れはしないだろう。ユーシャの心に深く刻まれたのであった。

 では、参りましょうか──国王に城門まで見送るよう命じられた兵士とともに玉座の間の扉を開け、出ようとした時、ウレーヌが一行に声を掛けた。


「旅、頑張ってね」

「あぁ! ありがとう!」

「討伐……えぇと、何を倒すんだったかしら」

「え? そりゃあ、あの……何だっけな」

「魔王だよ」

「あぁそう。それそれ」


 ……。緊迫感がまるでなかった。

 せっかく話題に出た魔王などそっちのけで、エーダは目を輝かせながらウレーヌに話し掛けた。


「あのっ、王女様も建築の勉強頑張って! サスケさんにまた会えるといいわねっ!」


 ウレーヌも笑顔で返す。


「うん! ありがとう! 今度会ったら必ず仕留めてみせるわ!」

「ハンターじゃねえんだよ。射止めろや」


 物騒な物言いをした第二王女は、第一王女イルーニを見つめていた。いつもはきっと元気一杯な姉なのだろう。物憂げな表情のウレーヌに、どう声を掛けていいのか憚られた。一行のそんな視線に気付いたのか、ウレーヌは気丈に振る舞う。

 あいつなら大丈夫。切り替えは早い方だから。それに──。


「ダメならダメで意気消沈したイルーニに寄り添うふりしてあの子の部屋に篭って勉強するとするわ」


 ……。弱った姉すら利用する。ウレーヌはどこまでも強かな女だった。






「兵士さん悪いね。俺達の見送りなんかさせちゃって」


 ユーシャ達が訪れた当初とは打って変わって、城内は活気に溢れていた。何か陽気な音楽が流れているわけではない。だが、空気が、雰囲気がそう感じさせていた。

 かつてオカノウエー王国に赴き、魔王復活の報せを告げた兵士はユーシャの謙遜に意外な言葉で返した。


「いえいえとんでもない! こちらとしても助かりました!」

「助かった? どういう事?」

「えぇ! なんでも僕が長い事国を離れていたものだから体がなまっているだろうって兵士長にしごかれる寸前だったんですよ! いやー、ユーシャ殿と縁があって良かった!」


 フアムが素朴な疑問を口にする。


「私達がお城を出たら呼び戻されるんじゃない?」


 兵士は快活に返す。


「あっはっは! 大丈夫! 逃げ切ってみせるよ。訓練はイヤだからね!」

「いっその事兵士辞めてしまえ」

「そこはしがみつきますよ! 給料が安定してますから!」


 ……。兵士はどこまでも調子のいい男だった。この男を見ていると、果たして他の兵士はどうなのか疑問を禁じ得ない。エーダはろくでなしな兵士に声を掛けた。


「あのっ、街道を塞いでいた岩を全部片付けたのって兵士さん達なんですか?」


 話の流れを鑑みると、眼前の兵士のせいでカランカ・ランデスの兵全体が疑わしいと思っているように聞こえるが、そうではなかった。人間の何倍も大きな岩が人間の身長の何倍も高く積まれていたあの惨状を人力のみで短時間で除去出来るのものなのだろうか。カランカ城からの帰途、エーダはそんな疑問が頭から離れなかった。兵士は視線を左上辺りに逸らしながら語り始めた。


「勿論! と、言いたいところなんですが……。実はですね──」


 メイド服を着た方々が協力してくれたんですよ──ユーシャ達がランデス城を出発してからしばらく後、スピードアと名乗ったメイド服を着た女性が城に現れた。先程の轟音とイルーニ王女をさらった魔物の居場所と何か関係あるのではないかと調査の準備を進めていた矢先に現れたメイドは正にその轟音──街道の崩落について詳らかに報告してくれたのだ。


「どうやらその方々はトモフの町に注意喚起してくれたり、崩落した街道に人が立ち入らないように見張っていてくれたようでして、何より道を塞ぐ岩の除去を率先してやってくれたんです。いやー、何というか至れり尽くせりでした」


 ユーシャは崩落した街道で出会った礼儀正しいマッチョなメイド達に思いを馳せる。


「そっか。俺達もお礼を言う機会があれば良かったんだけどなあ。今どこにいるんだろ?」

「あぁ、それでしたら──」


 街道を塞ぐ岩々をひとしきり片づけ、通れるようになったのちにメイド達は交換条件を持ち掛けた。


「何でも、メイドの方達はもう一人はぐれたお連れの方がいるようで、すれ違わないようにしばらくの間この国に滞在したいと国王に願い出たようなんです。確か三人バラバラの場所に滞在したいとか言っていたかなあ。ちなみに皆様は次はどちらに行かれるんですか?」

「うーん、とりあえず南の方かなあ」

「あぁ、するとマッカチョッカ大陸ですかね。南の大陸に渡るには港町に寄る必要があるんですけど、確かメイドさんも南に向かっていたと思うんで会えるのではないでしょうか」


 兵士はメイド達の行き先と、ここ、ニスニアール大陸の南に存在する大陸──東西に長く延びるマッカチョッカ大陸の名を口にした。


「南の大陸の東側には今はもう殆ど名残がないそうなんですけど、かつて魔法大国と呼ばれたウィズアルド王国という国があったそうなんです」

「魔法⁉︎ 本当にそんなのあったんだ!」

「えぇ、大昔に滅びた力と云われているのですが……。それに、西側では精霊を祀っている古びた祠もありますし、もしかしたら何か旅の役に立つ知識や伝承があるかもしれないですね」

「兵士さんって結構物知りなんですね!」


 ユーシャ達が兵士の持っていた情報に感嘆していると、彼はしきりに謙遜した。


「単純に情報が新しいってだけですから! 城にすぐ帰るのもなんだかなあと思って、マッカチョッカ大陸をふらふらと歩いて、立ち寄った町でぶらついてる時にそんな話を聞いたんです」

「どこまで素行不良なんだアンタ」


 会話の中でフアムがある事に気付く。


「兵士さんは南の大陸を通ってお城に帰ったの?」

「あれ? そういや今の口振りだとそういう事になるのか」


 フアムの予想通り、兵士はオカノウエー王国からの帰路として、ニスニアール大陸ではなく南の大陸──マッカチョッカ大陸を経由してランデス城に帰還したのだと答えた。


「それってすごい遠回りなんじゃないかしら」


 エーダの指摘にも淀む事なく答える。不真面目な兵士はもっともな理由があるのだと言う。それはオカノウエー王国があるハウクトー大陸とその西のニスニアール大陸の間の海域に生じた異変が関係していた。


「オカノウエー王国を出発して山脈を越え、サンミアーク王国を観光してから、さあ帰ろうと港町に行ったんですが……」

「何旅を満喫してんだ」

「いえ、一応魔王復活の報せもついでに伝えました」

「そっちがついでなのかよ」


 ニスニアール大陸に渡りカランカ・ランデスに帰るため、港町コーロに寄ったのだが、なんと海上に出現した魔物の影響で船が出ていないのだった。


「船乗りに理由を訊ねたんですけど、その魔物は通る船を襲うためなのか、えーと……なんかその……海の上で一人浮いてたそうなんです」

「その言い回しだとただただ孤独なだけに聞こえるんだが」


 だが、その表現もあながち間違いではなかった。かつてユーシャの妙策により船で轢かれた魔物・コラーゲンは色々な意味で浮いていた。

 役目を果たし、国に帰ろうとしていた兵士は思わぬ足止めを食らってしまった。本来不要な観光もあらかた済ませ、何もする事がなくなり、途方に暮れていていると先程会話をしていた船乗りが話し掛けてきた。船乗りの言葉は兵士にとって正に渡りに船であった。


「魔物は西の海域に留まっている事から、南から来た貨物船のみ出航の許可が出たそうなのでそれに乗せてもらったんです」


 海上に出現した魔物の問題解決の目処が立たない現状では兎にも角にもハウクトー大陸から離れるのが最善であると兵士は判断した。決して南の大陸を観光してみたかったのではない──兵士はそう強調したのだった。


「結果的にユーシャ殿の旅に役立つ情報をお伝え出来た。結果オーライですよねー!」


 ……。物は言いようではあるが、兵士の前向きな考えは、ただでさえ暢気で前向きなユーシャの旅路を後押しするようであった。

 その後も他愛ない会話に花を咲かす一行。そうこうする内に、気付けば城門まで来ていた。ユーシャは門番兵に挨拶し、兵士に別れを告げる。だが──。


「どうせなら港町までお見送りしますよ!」


 ……。どこまでも兵士はサボる気満々だった。エーダとフアムもどうぞご自由にとでも言わんばかりの姿勢であったが、兵士の浅はかな目論見は失敗に終わる。兵士長に厳命されていた二人の門番兵によって両の腕をがっしり掴まれ、拘束されたからであった。


「ユーシャ殿! ここから旅のご無事を祈っております!」


 ユーシャの瞳に、満面の笑みの門番兵と空虚で物悲しい表情をした兵士の顔が強く焼き付く。カランカ・ランデス王国のさらわれた王女を救った一行の新たな旅立ちは、何とも言えない気持ちとともに始まりを告げた。

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