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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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50話「ひと月前の出来事」

 カランカ・ランデス王国第二王女ウレーヌの自室は建造物に関係する物、建築や設計についての書物が至る所に置かれていた。壁には和風の掛物、設計図が貼られている。


「ねえ、どういう事? 何でイルーニが帰ってきているの?」


 イルーニの帰還で沸き上がる玉座の間に現れたウレーヌは父であるビルッグ国王から話を聞き、おおよその事情を把握した。

 あなた達、ちょっといいかしら──ウレーヌは今回の第一王女救出の立役者であるユーシャ一行に声を掛け、自室に招いた。どうやらここまでに至った経緯をより詳らかに聞きたいようであった。


「まさか、イルーニが魔物に負けたなんて事はないわよね? でも、実際そのまま旅に出なかったって事は……え、嘘、イルーニやられちゃったの⁉」


 ウレーヌの口から次々と疑問が衝いて出てきていた。口振りから、余程イルーニが魔物に屈した事が──帰ってきた事からそう判断しているだけだが──信じられないようだ。強くなるために鍛錬に励んできた双子の姉をそばで見続けてきたのだろう。こと強さにおいては絶大な信頼を寄せているようだ。


「イルーニ王女は戦闘だけなら全然圧倒してたよ」


 フアムの言葉に耳を傾けたウレーヌは少し考え込む。だとするなら──戦闘以外でどのような問題が発生するか、第二王女は推測した。


「可能性があるとしたら……凌辱、かなあ」

「へ?」

「あいつ、私がくっつくだけでも顔赤くなるくらいだし、そっち方面に全然免疫ないから」


 さすが、ずっと一緒にいるだけはある。姉の弱点を完全に熟知していた。そうであればと納得しかけているウレーヌに、イルーニ王女が放心状態になっている事情についてエーダが説明をする。


「イルーニ王女は思い描いていた旅路と、実際に起こり得る現実との違いに強いショックを受けたようなの」

「な、なるほど……。確かにイルーニは国からほとんど出た事がないし、精神面で未熟な部分があったというわけね……」


 おめえ、よくもまあ抜け抜けと言えたもんだな──ウブな王女の心に最もダメージを与えたエーダの説明に呆れるユーシャだったが、補足も訂正も面倒なので流す事にした。

 あれほど旅に出るんだと息巻いていたイルーニが呆然自失となって帰ってきた事にウレーヌはとりあえず納得はしたようだ。だが、心なしか浮かない顔をしている。何か困っているようにも見えた。フアムは不思議そうに見つめている。


「お姉ちゃん帰ってくるの、イヤだった?」


 そんなわけない──ウレーヌは間髪入れず否定した。不都合なのはイルーニが帰ってきたからではない。問題は別にあった。


「中々思いのままにいかないというか、やりたい事があるのに、専念したいのに出来なくてね……自業自得と言えばそれまでなんだけど、私達、実は一ヶ月前に問題を起こしちゃって……」


 だから今回の事は渡りに船だったのに──どうやら魔物がさらいに現れた事をチャンスと見たのはイルーニだけではなかったようだ。ウレーヌはひと月前にカランカ・ランデスで何が起きたのかを語り始めた。


「一ヶ月前、実際にはそれ以前からの話なんだけど、ここから北にあるトモフの町が魔物に苦しめられているという話がお城にも上がってきていて──」

「あ、それって町に立ち寄っていた旅人達のパーティーが討伐に向かったっていう話かしら?」

「知っているの? なら話が早いわ」


 山麓の町・トモフにて近くの山に巣食う魔物の襲撃に遭っていた話を覚えていたエーダが反応する。ウレーヌは事情を知っているのならと語ろうとしていた詳細を省いて結論を先に述べた。


「結果として、山に巣食う魔物を討伐したのは城を抜け出したイルーニなのよ」

「ふーん、そっか。でも、町の人が救われたなら良かったじゃないか。この話に何の問題があるんだ?」

「イルーニ王女って確か常日頃お城を抜け出そうとしてるんだっけ? 抜け出したのが問題って事?」


 フアムの意見にユーシャが得心するも、ウレーヌは首を横に振った。問題はその後──ため息混じりにウレーヌが話を続ける。

 一足先に魔物の巣に辿り着き、魔物の群れを討伐したイルーニはその帰り道に同じ目的で山にやってきた有志によるパーティーとすれ違う。イルーニはパーティーの強さを肌で感じ取り、そして声を掛けた。


 ──ねえ、力試しさせてくれない──?


「うん、まあ、それで……。その人達を全員ボコボコにしちゃったらしいのよね」

「おてんばっつうか、もはや暴れ馬だな」


 トモフの町を苦しめていた魔物は討伐された。それだけではなくイルーニとパーティーの騒動も国王の耳に入る。ビルッグ国王はイルーニが城を抜け出した事よりも、他国から来て町の力になろうとしてくれた旅人達を叩きのめした問題を重く捉えた。本人は同意の上だからと強く主張したが、娘が今後も力の使いどころを誤るかもしれない事を危惧した国王は、反省を促すため、イルーニに対して自室からの外出を長期間禁止したのだった。


「これだけだと、ウレーヌ王女は何ら関係ないように思えるけど、あの、話にはまだ続きが……?」


 そこ──エーダの問いに、ウレーヌは少しいじけた表情になって壁にある和風の掛物──極東の島国で作られた『掛け軸』というものらしい──を指差した。言われた通りにユーシャが掛け軸をめくってみる。すると──。


「イルーニの自室とつながる隠し通路を作ったの」

「この部屋忍者屋敷か⁉」


 壁に穴を開けたおてんばはイルーニだけではなかった。母から厳命された兵士から厳しく監視されていたイルーニは、ウレーヌによって作られた隠し通路から抜け出したという事らしい。


「でも、王女様達の部屋の出入り口って同じ廊下にあるよ。兵士さんに見つかっちゃわないの?」


 そこ──フアムの問いに、ウレーヌは何食わぬ顔で角にあるタンスを指差した。言われた通りにタンスの両開きの扉を開けてみる。すると──。


「タンスの中のはしごを降りると下の階の食糧倉庫につながっているわ」

「あんた脱獄プランナー⁉︎」


 詰まるところ、姉妹共犯である。問題を起こした張本人のイルーニは外出禁止。脱走を幇助したウレーヌは戒めの意図もあるが、他国との関わりと人の動きを知るべきだと国王の外交の同行を強制されたのだった。そしてある日の馬車に乗った帰り道で誤字脱字のような名前をした引きこもりに目を付けられてしまう事となる。結果として国王の判断が裏目に出た形であった。しかし、双子の姉妹は危機的状況などものともしない。

 城内がざわつき、胸騒ぎがした国王が自室にいた姉妹に玉座の間に来るよう兵士に命じるよりも先にウレーヌは動き出した。いつもと違う物音、不穏な空気。何かが起こっていると察知したウレーヌは謹慎中のイルーニの自室前で見張っている兵士にもいつでも動けるように声を掛け、玉座の間へと向かった。そして──。


「すぐに変な形をした怪物……えぇと、魔物って言うんだっけ? に、捕まってしまったの」


 『え、キモっ』って思ったんだけど──散々な言われようの魔物・ドゴソの目的が王女を連れさらう事だと聞いてウレーヌは閃く。あとは、イルーニがやってくるのを待つのみであった。

 ウレーヌ──! 玉座の間に着くなり、妹の名を叫ぶ。目論見通り、カランカ・ランデス王国第一王女イルーニは現れた。駆けつけた第一王女と、魔物に捕らわれた第二王女。姉と妹、イルーニとウレーヌの目が合う。


 ──イルーニが代わりにさらわれれば、そのまんま旅立てるんじゃね──?

 ──うーわ、ウレーヌ、それナイス──!


 ……。双子のなせる業だろうか。二人は目だけで意思疎通させた。

 即座にイルーニは魔物に飛びつき、脅し、ウレーヌの代わりに捕らわれる。ドゴソが城から離れるその去り際にイルーニはウレーヌの心に何か語り掛けるように目配せをしていた。


 ──私がさらわれてショックを受けた振りすれば部屋に籠って勉強できるんじゃね──?

 ──うーわ、イルーニ、それナイス──!


 ……。魔物の襲来を逆手に取り、目的を成就させようとする。カランカ・ランデスで育った双子の王女はどこまでも強かだった。


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