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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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49話「帰還」

 ユーシャ一行は、カランカ・ランデス王国第一王女イルーニを連れて無事ランデス城に帰還した。

 イルーニを拘束してカランカ城を出た直後、カソカ村のおじさんがロープを持ち帰り、ランデス地方に戻る手立てを失ってしまった事にエーダが気付いて一行に動揺が走った。しかしユーシャ達のもとに兵士が駆けつけた事でそれは杞憂に終わった。ランデス兵の登場は崩れ落ちた岩々が取り除かれて街道が再び通れるようになった事を意味したからである。

 ユーシャ達が城門に姿を現し、すぐさま門番兵が報告に向かうと、とてつもない速度でイルーニの母ヘンビー王妃がやってきた。

  

「あっ、王妃! イルーニ王女を──」


 ユーシャが王妃に声を掛けようとしたその瞬間、王妃の姿を見失った。そして気付いた時には魂が抜けたように上の空のイルーニ王女をその手に抱いていたのだった。目にも留まらぬ早業である。


「あぁ! 何という事なの⁉ こんなにも痛々しい姿になって! 怖かったでしょう、辛かったでしょう。でも、もう大丈夫よ!」


 もう二度とあなたを離しません──。ヘンビー王妃はひとしきり話しかけた後、ユーシャ一行を見やり、感謝の言葉を述べた。そしてすぐさま愛娘に向き合う。


「もし私が花ならば、その愛らしさで、その香りであなたを癒せるというのに! さあ、まずはドブにまみれた魔物臭を取るため体を洗いましょう! 私が全てやってあげますからね!」


 特に魔物を庇い立てする気はないのだが、何とも酷い言い草だった。移動を始めた王妃と王女にユーシャ達もついていく。呆然としている様子のイルーニの顔を何度も見やるヘンビー王妃は、次第に苦しそうな表情に変わっていった。


「あぁっ、やはりダメ! あなたのそんな姿を見ていられないわ!」


 王妃は左腕をイルーニの腰に回し、慈しむような表情で顔を近づけた。


「蜜のような甘いキスで! 私の愛で活力を! さあ、目覚めて──」

「落ち着いて下さい王妃! なんだか危険な香りがします! 毒は盛られてないよ⁉ キスしても目覚めないよ⁉」


 愛が重いヘンビー王妃が娘を思い暴走していると、奥からどたどたと重そうな足音を立てて威厳漂う髭をたくわえた一人の男がやって来た。


「おぉ! イルーニ様……! 良かった……本当に良かった! 心配しましたぞ……!」


 ランデス王国と併合した旧カランカ王国の国王であったイーゲン大臣はイルーニの帰還を噛み締めるように感激の声を絞り出し、張り詰めた表情を綻ばせた。ユーシャ達に向けた顔は泣いているようにも見えた。


「皆様もよくぞご無事で……!」


 大臣は感無量と言わんばかりに声を詰まらせる。感謝の思いをどう伝えればいいかと二の句を継げないようだった。

 ──何と、申し上げればよいか──。


「言葉がさっぱり出てこない! 頭が足りず誠に申し訳ございません!」

「どこを謝ってんだよ‼」


 ……。大臣は相も変わらず上体を腰から四十五度に頭を下げ、もはや何に対してなのか不明の謝罪の言葉を口にした。

 お疲れのところ、大変申し訳ないですが──イーゲン大臣は王妃と王女、そしてユーシャ一行に玉座の間に来るよう促した。状態はどうであれ、一刻も早く国王に愛娘の顔を見せてあげたいようだ。ユーシャ達は快諾し、他者など見向きもせずにイルーニにまとわりつくヘンビー王妃を娘共々無理矢理引き連れて王が待つ玉座の間へと向かった。






「ユーシャ、そして勇ましき仲間達よ。此度の働き、誠にご苦労であった!」


 玉座の間にて、第一王女の帰還に歓喜に湧く兵士達と、感情を抑えているのかどこか平静な面持ちで鎮座するビルッグ国王にユーシャ達は暖かく迎えられた。


「ふっ、済まぬな。本当は諸手を挙げて喜び駆けつけたかったのだが……」


 どうやら今か今かと朗報を待ちわびていた国王は、玉座の間に取り急ぎやって来た門番兵からの一報を聞いた途端に全身の力が抜けて立てなくなってしまったというのが実情のようであった。


「情けない話だが、今は体裁を取り繕うのが精一杯よ。だが、再びイルーニの姿を見れた事に比べればどうでもいい話。ユーシャよ、本当に良くやってくれたな……!」

「あ、王女の事なんだけどさ、物理的なダメージはないと思うんだけど、ちょっと精神的なショックがあるというか、その……」


 よい──全てが何事もなくイルーニを帰せなかった事に引け目があると受け取られたのか、国王は安心させるような笑みを浮かべて、ユーシャの言葉を遮った。


「傷つき、凍てついた心を溶かし温めるのは我々家族の役目だ。我が子が帰ってきた。それが何より。君達が気に病む事はない」


 ……。仲間の全裸至上主義の女が主な原因なんだけど──ユーシャは真実を口に出来ずに、苦しさだけを募らせた。

 苦笑いを浮かべるユーシャは不意に思い出す。結局、ビルッグ国王はどういう人物なのだろうか。ユーシャの父・ノンキーナ国王が治めるオカノウエー王国とこの国は友好的な関係にあるのだが、ユーシャ自身に何か関わり合いがあるわけでもなく、断片的な情報で想像だけが膨らみ恐怖心を忍ばせていた。

 ユーシャは少しだけでも解消してみようと人物像の掘り下げを試みる。時にユーシャよ──少年が声を出すより先に、鎮座するビルッグ国王が娘をさらった魔物について訊ねてきた。


「八つ裂き、細切れにして、ちゃんとこの世から消滅させたのか?」

「いえ、何がちゃんとかわからないけど、悪役も青ざめるような倒し方はしてないです」


 ……。夫婦そろって猟奇的か──? ユーシャの中のイマジナリー国王が明確になりつつあった。しかし魔物憎しという気持ちはわからないではない。果たして娘をさらう相手が盟友の息子であった場合、どういう反応をするのだろうか。好奇心に駆られた少年は、前置きとしてイルーニの強さを褒めそやした。国王は我が事のように嬉しそうな顔をしている。


「ふふ。うむ、そうか……。あの子は志を持って鍛錬に励んでいたからな」

「途中まで魔物を圧倒していたんだ。すごい強かったよ」


 和やかな会話の中、ユーシャは緊張しながらも切り出してみる。


「旅についてきてくれたら頼もしいだろうなあ。いやあ、俺が連れさらっていきたかったぐらいだったよ!」


 瞬間、少し空気が冷えたような気がした。

 そうか──ビルッグ国王はゆっくり瞬きをし、わずかに真一文字から口角を上げて笑った。


「はっはっはっはっは」


 ユーシャも乗じて笑ってみる。


「えと……はは」

「はっはっはっはっは」

「……」


 目が笑ってねえ──。ユーシャは生まれて初めて抑揚なく地を這うような寒気を誘う笑い声を聞いた。そして、あの時の判断が処される瀬戸際だったのだと察したのだった。

 これ以上ここにいる理由もないからさっさと旅立とう──ユーシャはエーダとフアムに声を掛ける。未だ失意の中にいるイルーニと力の限り愛でる危険人物の方を見やり、挨拶をしようと姿勢を正して国王に面と向かう。


「イルーニ!」


 ユーシャが口を開いたと同時にわずかに上ずった声が聞こえた。その方向──玉座の間への扉の方に振り向くと、そこにはイルーニ王女とそっくりな女性──瓜二つとは言わないが、外見や特徴が数多く似通っている──カランカ・ランデス王国第二王女ウレーヌが立っていた。

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