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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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48話「覚悟」

 魔物を倒した。問題に一段落つけたユーシャはイルーニの視線に気付く。同じく蹴りを得意としていた王女は目を丸くして呆気に取られていた。鍛えに鍛えた自分の実力を上回る者に出会ったのだ。ユーシャが王女のそんな様子に戸惑っていると、イルーニが感嘆の声を上げた。


「す、凄いっ! あなた凄い強いのね!」


 あまりにも素直な感想にユーシャは少し恥ずかしくなる。イルーニは劣っているという気持ちよりも自身より強い者がいるという喜びの方が勝っているようだった。


「あなたと旅が出来たら私ももっと強くなれそう! そして旅の中で手に入れた力はカランカ・ランデス王国を守るための力になるんだわ!」


 ……。こじつけも甚だしいな──。『何が何でも旅について行ってやる』そのような執念を感じた。イルーニが勝手に旅に出ようが構わないのだが、一度城に連れ帰ってこの国だけの問題にさせないと自分の命が危ぶまれる。こうなったら──。


「王女様。国王と王妃は嫌い?」


 ユーシャは情に訴えた。いいえ、大好きよ──イルーニは躊躇なく、強い表情で否定した。ユーシャの質問に対して、この機を逃せば旅立てる機会は遠くなってしまうとイルーニも情に訴える。


「小さい頃に誘拐されて、そして今回の件があったでしょ。お父様もお母様もおそらくもう外に出る事は許してくれないかもしれない」


 イルーニは沈痛な面持ちで話した。一人で旅に出るという選択肢がいつの間にか彼女に無くなっているのは、ユーシャ達にとっては幸いであろう。後は説得するだけなのだから。

 イルーニはうつむいた後に少し口籠る。何か逡巡しているようだったが、意を決したのかユーシャを見やり、再び口を開いた。


「あまり家族の事は話したくなかったんだけど……特にお母様! あなた達は知らないでしょうけど、あの人すんっっっごい愛が重いのよ!」


 うん! 何かすんっっっごいわかる──! ユーシャは心の中で全力で頷いた。──いっその事、こんな役立たずな女の腹をかっさばいてその中にあの子達を隠してしまえば良かったんだわ──! 愛娘をさらわれ、思い詰めたあの時の猟奇的な懺悔は、愛を超えて狂気を感じさせた。イルーニ──そんな愛を向けられた側からすれば、それは重くも感じるだろう。狂気を愛に滲ませた母・ヘンビー王妃は誘拐事件解決ののちにとんでもない行動に出る。娘と互いの腕を手錠で繋ぎ、そのまま数ヶ月も過ごしたのだ。もう二度とあなたを離さない──母は胃もたれするような重い愛を冷たい鉄の拘束具に込めたのだった。


「お母様に捕まったら最後なのよ! 間違いなく拘束されて、今度は数ヶ月じゃ済まないかもしれないの! だから私を連れてって!」

「いや、そんな事言ったって、アンタを連れて帰んないと俺達の命も危ないんだって!」

「何でそうなるのよ! お父様達を何だと思っているの⁉︎」

「アンタが城に戻らなかったら俺達がこの国から王女をさらう形になるんだぞ! もしその事が知られた時に国王の矛先が俺達に向かわないって保証できるか⁉︎」

「……多分お母様の方が積極的にあなた達を刺すわね。ご愁傷様」

「悼むな!」

「わかった! わかりました! 私があなたを守ります。さあ、一緒に逃げるわよ!」

「何でだ! もはや何の旅だよ‼」


 このままじゃ埒が明かない──そう思った時、ユーシャに妙案が浮かぶ。すぐさまエーダに訴求的な眼差しを送った。


「エーダ! お父さんと旅した時に何か過酷な体験ってなかった⁉」


 旅の経験豊富なエーダに語ってもらおう──強気な王女がそれで怯むかどうかはわからない。だが、今はどんな手を尽くしてでも突破口を開かねばならない。魔物よりも手強い敵がここにいるのだ。


「え、え? えーと……っ、何だろう……。大きい怪鳥に襲われた時はさすがに命の危険を感じたかなあ……。こんなのでいい?」


 エーダのエピソードに王女イルーニは不敵な笑みを浮かべた。


「ウフフ! 旅に出ればそんな体験もできるのね! 上等よ! それでこそ力の試し甲斐があるってもんだわ!」

「王女様。強いだけではいいわけじゃないと思うの。知識や、それに覚悟だって必要になってくる局面もあるわ」


 覚悟──その言葉にイルーニは鈍い反応をした。エーダはユーシャを見やる。そのまま続けていいよ──ユーシャは頷き、先を促した。エーダはイルーニの目を見て、言葉を紡いだ。王女様──。


「あなたは、時に全裸になる覚悟はありますか?」

「……?…………。……?」

「……」

「……」


 ……。


「あなた何を問うてますの⁉」


 全裸が趣味の女の問いで止まった時を、ユーシャはツッコミで切り裂いた。『裸』の化身・エーダは至極真面目な表情をしている。それが却って真意を図りかねる事態になっていた。だが──。


「え、え……え? え? は、ははは、はだっ、裸⁉」


 ……まさかの効果覿面だった。イルーニ王女の顔がみるみるうちに赤くなっていく。いや、真っ赤という方が正しいほどに赤い。しかも顔だけではない。耳や首元から鎖骨、少しだけ出ている胸元まで日焼けしたように真っ赤である。瓢箪から駒というべきか。素っ頓狂な女の戯れ言が、わがまま王女の牙城を崩した。


「え、え、なな、何でっ? え? どういう事……?」


 痴女の言う事なんて真に受けないでいいよ──セリフが喉元まで出かかっていたが、ユーシャは何とかして飲み込んだ。何を言っても絶対に引かなかった王女がたじろいでいる。この機を逃すわけにはいかない。


「さっきも言ったけど、私がお父さんと旅をしていた時に怪鳥の急襲に遭ってしまった事があったんだけど、どんなに逃げても私だけを追いかけてきたの」


 エーダの父が何とかして囮になろうとするも、怪鳥は父の事などまるで相手にせず、エーダだけを狙いに定めて襲い掛かるのだった。まさか性別の問題なのだろうか。いや、違う。父の豊富な知識と洞察力が解決に導いた。


「もうダメだと思った時、お父さんが叫んだの。『上着を脱げ』って」


 怪鳥は、エーダが身に着けているローブのキラリと光るボタンや金属の装飾を目掛けて襲い掛かっていたのだ。言われるがまま身に着けていたものを遠くへ投げ捨てると、案の定怪鳥はローブの方へ向かっていった。その隙を狙い、父は見事怪鳥を倒したのだった。


「お父さんの知識、そして私自身ためらいなく脱ぐという覚悟が出来ていなければ危機は脱出できなかった。旅では強さだけでは解決できない問題だって出てくると思うの」


 ……結構ちゃんとしたエピソードなのかよ──。ユーシャは驚きを隠せなかったが、一つ解せない事がある。上着だけなんだから、全裸は関係ないだろう。


「あの時はとにかく必死で、勢い余って下着まで全部脱いじゃったのよ」

「本能に露出がインプットされてんのかよ。余計に手間掛かってんじゃねえか」


 しかも結局全裸は関係なかった。


「それに、魔王討伐という危険な旅なら裸にひん剥かれて『くっ、殺せ』という状況も」

「それ、ひん剥かれる前に言うセリフじゃね?」

「脱いで色仕掛けをする局面も」

「くのいちじゃねえんだよ」

「時には裸一貫で」

「ただの熟語じゃねえか」


 ──イルーニはおもむろに自分の体を色々と触り出した。真っ赤な顔はさらに赤くなり、今までの凛とした姿からは想像つかないほどにうろたえていた。


「そ、そんな……裸だなんて……わっ、わたし胸ちっちゃいし……下の形も」

「おい‼ 変な事口走んじゃねえっ‼」

「変……や、やっぱり変かな」

「そういう意味じゃない‼ 王女の発言の中に不適切な、いや、俺も誤解を招く言い方だったかもしんない! それはゴメン‼」


 王女はきょろきょろと周りを見渡す。他人事のように眺めているフアムが目に入り、話し掛けた。


「あなた、年端も行かないように見えるけど……あの……あなたも……ぬ、脱ぐ覚悟が出来ているっていうの……?」

「そうだよ」

「っ⁉ そ、そんな……っ!」


 うそだよ──フアムの剽軽な切り返しも、エーダによって歪められた冒険の常識に驚愕したイルーニの耳にはもはや届いていなかった。


「し、知らなかった……。強さだけじゃダメ……そ、そんな覚悟が必要だったなんて……」


 王女の様子を、ユーシャは虚無の表情で見つめる。──違う。違うんだ。俺はこんなアクロバティックな説得を求めてたんじゃない──しかも発端はユーシャである。結果として自分が性的なハラスメントをけしかけた事に少なからず罪悪感を覚えた。しかしこれはチャンスである。


「……エーダ、フアム」


 ユーシャは仲間に呼び掛けた。エーダとフアムの二人で呆然と立ち尽くす王女の左右の腕をそれぞれに組ませて拘束する。そして──。


「今のうちにさっさと帰ろう」

 

 カランカ・ランデス王国国王夫妻の思いを託されたユーシャ一行は、さらわれた第一王女イルーニを城に連れ帰らんと、砂漠の城・カランカ城を後にしたのだった。

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