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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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44話「カランカ城」

 カランカ砂漠──登っては下り、下っては登る。十数メートル程の高低差がある砂漠の道をユーシャ一行は進みゆく。

 人間の身長を遥かに超える高低差はあるものの、そびえ立つカランカ城が隠れる程ではなかった。

 この砂漠に遮蔽物が一切ないというのは、目的地を見失わないという意味では好都合だったが、一方で頭上の太陽を遮るものもないという事である。燦燦と輝くそれが、辺り一面に広がる砂の世界を焦がすように照り付けていた。


「何だろう……。暑いは暑いんだけど、何か空気がカラッとしてるっていうかさ、風も結構吹いてるし耐えられないような暑さじゃないんだな」


 生まれて初めて砂漠に降り立ったユーシャが率直な感想を口にした。彼の背中にエーダが答える。


「そうねえ。最初から暑いと想定しているからそれ程でもないって感じるのかもしれないわね」

「ふーん。街道の向こうっ側にいた時にこの砂漠から来た風は無理だろってくらい熱く感じたのになあ」

「ランデス側は涼しかったから、相対的にというか、余計にそう思ったんじゃない?」


 あぁ、そういう事か──エーダの一言で腑に落ちたユーシャは、大人しく歩いているフアムを見やる。相も変わらずにすんとしている彼女は砂漠の暑さをどう感じているのだろうか。


「全身が沸騰しそう」

「えぇ⁉ 大丈夫?」


 エーダが心配の声を漏らす。

 二人の間に挟まれながら、先頭を歩くユーシャの歩調に遅れる事無く付いていっていたフアムはどうやらこの暑さが体に堪えていたようだった。日光対策のために装着したマントも暑さに拍車を掛けているのだろう。さすがに一切遮蔽物がない砂漠のど真ん中でのんびり休むというワケにも行かない。マントとともに購入したフードを目深に被り、余計に陰のある表情に見える少女に具合はどうか訊ねた。


「このままだと私の殻の中が固まっちゃう」

「哺乳類に殻なんかあるかい。いつから卵になったんだお前は」


 ……。どうやらボケる余裕はあるようだ。


「まあ盗賊から足を洗ってからかな。今の私は冒険家の卵ってね」

「やかましいわ。うまい事言ってんじゃねえ」


 顔は赤いが、さほど深刻ではないのかもしれない──とりあえずそう判断したが、気温が四十度を超えるカランカ砂漠ではもしもの事があるかもしれない。三人はカランカ城に向けて歩調を速める事にした。




「うわあー……! 間近で見るとでかいなあ」


 少しばかり高い砂丘を越えて、カランカ城に辿り着いた。思わずユーシャが感嘆の声を上げる。

 トモフの町の住民・ジャンクじいさんは城の位置を砂漠の中央部と説明していたが、今や陸の端と言っていいだろう。海岸侵食によって水際が数十メートル先にまで迫っていたからだ。


「あれ? お城の中が町になってるよ」


 城に足を踏み入れた三人は、飛び込んできた光景に思わず目を疑った。巨人でも屈まずに入れそうな門をくぐると、そこには城内であるにも拘わらず町並みが広がっていたからだ。

 『砂漠の彫刻』と評されている砂が固まって出来た砂岩で造られた城は大まかに二つの階層に分かれていた。

 多くの民が住んでいたであろう下層部は巨大な城壁内部に多層階の建物がすっぽり収まっている──いわば町そのものに屋根を取り付けたような──構造になっており、中央の大階段から上る上層部は幻想的なドーム状の王宮が悠然と構えていた。 

 下層部は直射日光は遮られ、城壁の高窓から入ってくる風が涼やかに感じる極めて過ごしやすい環境となっていた。


「よし! 日光が当たらないんならマントを羽織ってる必要もないだろ!」


 ユーシャにとっては厚い布地のマントに身を包んでいるのが余程煩わしかったのだろう。嬉々として取っ払い、身軽になって爽快感に溢れた少年に続いてフアムもマントを脱ぐ。露出した素肌に風を受け、気持ちよさそうに大きく息を吐いた。エーダは砂漠の暑ささえも大して苦にしていなかったのだが、二人を見て、おもむろに自前のローブの前ボタンを開け、脱ぎ始める。──そして彼女は全裸になった。


 …………。


「なんで⁉」


 ユーシャは最小の言葉で、最大の疑問を口にした。


「え……何でって、二人がマント脱いだから、私も脱がなきゃいけないのかなって……」

「同調圧力を感じなくていいって! いや、そこじゃない‼ 何でローブの中なんにも身に着けてねえんだよ‼ 何だ⁉ 痴女が新たなフェーズに入ったのか⁉」

「そっ、そんなんじゃないわよっ! 川で濡れてひっつく感覚が気持ち悪くて中だけ脱いでたの!」


 砂漠を移動の最中、驚く事に先を歩くユーシャとフアムに一切遅れを取る事無く、エーダは上着のローブはそのままに中の衣服だけを脱いだのだった。


「移動中どうやって脱いだの⁉ え⁉ フ、フアム! こいついつ脱いだの⁉」

「ユーシャの大きな背中にズッキュンキュンで気付かなかった」

「うるせえ! そんな大層な背中してねえよ! だがしかしありがとう!」


 ユーシャは何故か感謝した。そして間髪入れずにエーダに裸体を隠すようマントを投げつけた。


「あ……私の裸……イヤ、かな……」

「え⁉ や……ちがっ……え、何これ誘導尋問⁉ 俺は今何か試されてんの⁉」

「いつ脱いだのかはわからなかったけど、エーダが途中から何か布を抱えてるなあっていうのは気付いてたよ」


 マイペースなフアムは流れをぶった切って二人の会話に割り込んだ。


「あぁ、乾いたらすぐ着ようと思って手に持っていたのよ。裸にローブ一枚っていうのは、フフッ、さすがに変態かなって」

「全裸になりがちなお前にとってはもはや程度の問題じゃねえか」


 ──不意に三人が揃って押し黙る。何かを感じ取ったその時である。僅かな揺れとともにドン、と何かが固い部分に激突したような大きな音が響いた。


「な、何だ? 今の……」

「もしかして魔物が王女様を攻撃した、とか……?」


 そうだ、さらわれたイルーニ王女を助けに来たんだった──! 先程の暢気な会話とは打って変わって危機感を募らせたトリ頭は険しい表情で大きな物音を立てた王宮のある上部を睨む。話している暇などない。ユーシャはどんな時も痴女の心を忘れない痴女に服を着るように急かす。


「エーダ、さっさと服を──」

「さあっ、早く行きましょう! ユーシャっ、フアムちゃん!」


 ユーシャが振り向いて声を掛けようと思った時には、エーダは既に乾き切った中の服をしっかり身に着けて、ローブをしっかり着こなしていた。


 ……。


「あれえ⁉」


 さながら舞台役者のような早着替えだった。

 いざ、王女のもとへ──王宮へと大階段を急ぎ足で上る中、ユーシャはフアムに訊ねる。


「なあ、エーダがいつ服着たのか見えた?」


 ううん──フアムは首を横に振った。


「エーダのおしりって桃みたいだなあってぼーっとしてたら、気付いた時には服でおしりが隠れてた」

「……。……。その……その情報は……必要……ないだろ‼」


 合間合間の沈黙は思春期の少年の煩悩と理性に揺れる葛藤を表していた。

 

「ユーシャっ! いた! 王女様と魔物っ!」


 悶々としているユーシャとフアムより一足早く王宮に辿り着いた桃尻のエーダは声を張り上げた。

 大階段を上り切ると、等間隔に並ぶ列柱の上にアーチが掛かった屋根が付いた廊下に出た。その廊下の先にある大広間は玉座の間だろう。開放的な高天井の芸術的なデザインの玉座の間に足を踏み入れると、ユーシャ達が入ってきた入口に背を向けた雅な衣服を身に着けた女性と、さらに奥には四本の足を生やし、太く大きい蛇のような体の竜を思わせる形をしている魔物がいた。

 想定外の登場人物に、振り向いた女性──カランカ・ランデス王国第一王女イルーニは何事かときょとんとしている。見た所、怪我をしている様子もなく至って元気そうであった。

 無事か──ユーシャ一行が安堵したのも束の間、奥の竜型の魔物が鬼の形相を浮かべ、凄まじい勢いでこちらへ向かってきた。ユーシャは魔物の突進に思わず唖然としたが、素早い足取りでエーダとフアムの前に守るように立ちはだかった。カウンターで蹴りを繰り出してやろうと半身に構える。襲い掛かった魔物は勢いままに、その大きな口を開いた──。


「た、助けてくれーーー‼」

「……。……。……。え……やだ」


 ……。予想だにしなかった魔物の懇願を、いまいち状況を読み込めていないユーシャはとりあえず拒絶した。

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