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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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43話「カランカ王国」

「がっはっは! 少年は王子様だったのか! フアム! 玉の輿だ玉の輿!」


 大仕事をこなしても疲れた素振りなど微塵も見せないおじさんは吐き散らす系男子ユーシャの出自を知るや否や小さな少女に縁を結ぶ事を勧めてきた。

 脱ぎたがるくせにどこかウブなエーダは顔を赤くして慌てふためく。お嬢ちゃんも玉の輿に乗っちまえとおじさんは豪快に笑う。

 玉の輿の意味がわかってないフアムはきょとんとしていた。だが──。


「いえーい」


 ……。とりあえずおじさんのテンションに乗ってみた。

 エーダが話をすり替えるように喋り出す。


「あっ、あのっ! 砂漠に降り立ってみると予想以上に暑いわよねっ! 一刻も早くお城に向かわなきゃ! ね? ユーシャっ!」


 うん──。ユーシャはゆっくりと頷いた。

 ……。ユーシャが大人しい。そんな彼を尻目に、辺りを見渡すフアムが何かを発見したようだ。


「あっちに建物があるよ。あれ、海に浸かってるのかな」


 うん──。ユーシャはゆっくりと頷いた。

 フアムの疑問にはおじさんが答える。


「あぁ、カランカ王国の王族は昔はあそこの宮殿に住んでたんだそうだ」


 うん──。ユーシャはゆっくりと頷いた。

 ……。顔面蒼白の少年は、何故だか菩薩のような穏やかな顔をしていた。エーダが彼を心配そうに見つめている。


「……ユーシャ、あの、大丈夫?」

「……うん」


 ユーシャはゆっくりと頷いた。 

 

「そんなに詳しくはないんだが──」


 ユーシャの事はさて置き、おじさんは併合する前のカランカ王国について語り始めた。

 かつて、カランカ砂漠を領地としていたカランカ王国の人間は砂漠西部に存在する宮殿と、そこから更に西の港町を居住地としていた。

 現在の地理に照らし合わせてみれば西部なのだが、カランカの民が暮らしていた当時は宮殿が砂漠の中央部であった。

 今も昔も、この国を悩ませているのは、ランデス王国との併合の決定打となった海岸侵食である。

 まずは海面上昇の煽りを受けて港町が徐々に海に飲まれていった。避難した町民を受け入れようにもその数は多く、広大な面積を有する宮殿だとしても、それぞれの世帯が恒久に健全な生活を営むには難しい面があった。それならばと当初は宮殿付近に町を建造する計画が挙がっていたのだが、設計に時間を掛けている間にも侵食は加速度的に進んでしまっていた。

 このままでは宮殿もいずれ沈んでしまう──。王国の要人達で討議した結果、まだ猶予がある内に宮殿がある位置よりも海抜が高く地盤が安定している場所に建造し、移住する。カランカ王国新都市計画に着手したのだった。そして完成された、全国民が暮らせるほどの大きな城に移り住んだのは今から五十年前の事であった。


「結局、その城も数十年程度で離れる事態になっちまった。がっはっは……大自然の前じゃあ人間はちっぽけだって事だ」


 そう語るおじさんは、どこか口惜しそうな顔をしていた。他国の人間であるおじさんがこんなにも詳しいのは、冒険帰りに立ち寄ったトモフの町での酒盛りで町の人間が色々と教えてくれたかららしい。


「がっはっは! ジャンクっていうじいさんが繰り返し喋るもんだから覚えちまった! あのじいさん、コップを口につけてる時以外はずっと喋りっぱなしでよ!」


 ……昔も今も相変わらずか──。

 のべつ幕なしに喋り倒す男・ジャンクじいさんの名前が出てきただけで既に高い気温が更に何度か上がった気がした。


「酒の席にはジャンクに負けず劣らずの暑苦しいじいさんもいたなあ! なんとそのじいさんはカランカ城を設計した大工なんだそうだ!」

「えぇっ! まだ存命なんですか⁉」

「あぁ。その時までは、な」


 おじさんが初めてトモフの町を訪れたのは今から十年ほど前で、次に訪れた時にはもう亡くなっていたそうだ。『砂漠の彫刻』と評される城を設計したその老人は、実に百二十年もの時を生きたのだった。


「がっはっは! 驚くべきはそこじゃねえ! 百歳過ぎても大工の若い衆の誰にも体力で負けなかったらしいぞ!」

「もはや人間じゃねえな」


 ユーシャが小気味よくツッコんだ。先程までげっそりとしていた少年は、いつの間にか輪の中に入っていた。顔色も良くなっている。どうやらおじさんが話している間に調子を取り戻したようだった。中々どうして、素晴らしい回復力である。


「おう! 元気になったか少年!」


 ユーシャは頷き、おじさんに別れを告げる。


「じゃあ行ってくるよ。おじさん、協力してくれてありがとう!」

「がっはっは! お安い御用だ!」


 頑張れよ──! おじさんはそう言って、大木と繋がっているロープを体に巻き付け、立ち寄る価値のない腐り果てた村へ泳いで帰っていった。

 河口流に翻弄されたユーシャのコンディションも無事回復した。かくして一行は、あらためてカランカ城へ足を進めるのであった。


「よしっ、サクッと行って救出だ!」


 元気になったユーシャに引っ張られ、三人はカランカ城への灼熱の旅路を行く。

 だが、意気揚々と進む一行は旅を急ぐあまり重大な事を見落としていた。豪快なおじさんがうっかりロープを持ち帰ってしまった事に、そして帰路の打ち合わせをしなかった事に気付いていなかった。

 そんな事も露知らず、未だ崩落で街道が塞がっているカランカ砂漠からランデス城へ戻る手立てを失っていたユーシャ一行は、自信をともなった笑みに満ち溢れていた。

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