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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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41話「カソカ村」

 かつてフアムと共に生活していたおじさんが暮らしている村。かつて漁師が集まって出来たとされる村。後は滅ぶだけと村出身の兵士長に吐き捨てられた村──ヒエンルナ国領にかろうじて存在するカソカ村はそこにあった。

 カランカ・ランデスから北上し、領境のヘンダーテール川に架かる橋を越え、川に沿ってしばらく歩き、ユーシャ一行は村に辿り着いた。

 ユーシャ達が渡った橋近辺ではいささか急だった川の流れも村に近づくにつれて緩やかになっていた。


「……ここ、本当に人が住んでるのか?」

「ちょっと失礼じゃないユーシャっ! こんな滅んだような所でも風情に感じる人がいるかもしれないじゃない!」

「エーダも大概だろ」


 ……。初めて訪れた若者が失言するほどにカソカ村は寂れていた。

 

「この村の人は今はもう釣りが趣味な人と風変わりな人くらいしか住んでないんだって」


 あそこの家だよ──フアムが奥の家屋を指差し、三人は足を運んだ。

 過疎化が進み、無人と思われる家がチラホラある一方で、フアムのおじさんが住む家は周りの雑草が無く、他の家に生えているような苔も見当たらない。外から見るだけでも生活感が感じられた。

 フアムは一切声を掛ける事なく、扉を開け、傍若無人に足を踏み入れた。勝手知ったる住処ではないユーシャとエーダはおいそれと入らずに外で屋内の様子を窺う事にした。

 誰だ──! 威勢のいい大きな声が響き渡る。外の二人は冷や汗をかく思いであった。私は誰でもないよ──フアムの茶化すような声に更に冷や汗が。二人はいつでも突入出来るよう息を呑んで構える。すると威勢のいい大きな声の主の笑い声が聞こえた。

 『おじさん』の声は高過ぎず、低過ぎず、しかしよく通る。再会を喜ぶ声が面と向かって話しているようにユーシャ達にも聞こえてきた。


「そのすっとぼけた感じはフアムだな⁉」

「判断そこかい」


 ……声色ではなかった。フアムは昔からそのような調子なのだろう。久方振りに訪ねてきてくれた誰彼構わずひょうきんな態度の少女を前に、おじさんは声を弾ませた。


「がっはっは! しばらく見ない間に大きく……は、なってねえな!」


 がっはっは──逐一おじさんは豪快に笑う。


「冒険は順調か?」

「盗賊になったよ」

「悪党になっちまったのか⁉ がっはっは! 早めに足を洗えよ⁉」

「うん、もう足を洗ったよ。今はユーシャ達と魔王を倒す旅をしてるんだ」

「今度は悪党を倒す側か⁉ がっはっは! 随分と極端に振り切ってるなあ!」


 がっはっは──! やはり豪快に笑うおじさんは、かつて共に生活していた女の子が正義か悪なのかは特に頓着はなさそうであった。

 

「それで、お仲間ってのは外にある二つの気配の事か?」

「いかにも。ご名答」


 ……。気配を読まれていた。世界中を冒険している内に感覚が達人の域に到達したのだろうか。そして相変わらずフアムは誰なんだかわからないような返事をしていた。

 奥からフアムが姿を現す。遠慮しないで入れ──おじさんの言葉をフアムから伝え聞いたユーシャとエーダは、後を付いて屋内へと入っていった。


「おう! お前さん達がお仲間か?」


 ユーシャ達は挨拶もままにおじさんと顔を合わせる。にかっとしわくちゃにして笑うおじさんの顔はそれなりに年齢を感じさせた。しかし世界を股に掛ける過酷な生活に常日頃身を置く彼は年齢不相応に見事な──大きく肥大化しているわけではないが、決して細くなく、小さい体積の中にしこたま詰め込んだような引き締まり方をした──体躯をしていた。そんなおじさんの体にさほど驚けないのは、メイド服を着たげに恐ろしい様々なマッチョの残像が頭にあるからだろう。


 仲良くな──! 人懐っこく笑うおじさんにユーシャは訊ねる。フアムとは一体どういう関係なのだろうか。デリカシーのない少年にエーダは慌ててたしなめた。どこまでもおじさんは豪快に笑う。


「がっはっは! そりゃあ不審にも思うだろうなあ! 血も繋がってないのに一緒に生活してたってのはなあ!」


 呼び方から親子関係ではないのは明瞭だったが、血縁関係もない事が判明した。決して疑う訳ではないが、おじさんも疑われるような環境だったのは承知しているようだ。


「良からぬ事はしちゃあいねえよ! 城で兵士やってる弟の面子を潰すわけにはいかねえからな!」


 かと言って、知らんぷりってのも性に合わねえ──おじさんは結論から先に話した。端的に言えば、しばらくの間、身寄りがないフアムに雨露しのげる場所と食事を提供していただけらしい。


「がっはっは……。どれだけ昔だったか。だが、鮮明に覚えてるよ」


 おじさんはしみじみと語り出した。確かあれは──。


「一ヶ月前だったか」

「最近じゃねえか」


 昔と言う程、前の話ではなかった。一ヶ月と聞いてエーダがふと思い出す。かつてフアムが話してくれたトモフの町でのエピソードもそのくらいでは──?


「がっはっは! 何しろパッと会ってパッと別れたからなあ!」

「おじさんと暮らしてたのは二、三日くらいだよ」

「それだけなの⁉」

「がっはっは! 飯食いながら俺の冒険譚を話したら『私も冒険したい』ってよ! 『おう! 頑張れ!』って送り出したワケよ!」


 フアムがおじさんと呼ぶのは過ごした時間が少ない上におじさんが単に名乗らなかっただけであった。『他人』に毛が生えた程度の関係性ながら、よほどウマが合うのか。二人は和気あいあいとしていた。

 結局、おじさんとフアムはどういった出会いだったのだろうか。身寄りがないと言っていたが、冒険の最中に拾ったのだろうか──?


「いや、気付いたらなんか後ろにいた」


 ……。特段驚きはなかった。自分達との出会いそのままだったからである。これこそがフアムであると腑に落ちるようなエピソードだった。

 ──ある日の事。おじさんは長い冒険からここ、カソカ村に帰ってきた。家に入って休む前に収穫した食材を焼いて食べようと振り向くと、そこには見知らぬ少女が立っていた。容易く他者の気配を感じ取るおじさんですら、振り向くまですんとしている少女の存在に気付けなかった。虫の鳴き声に負けじと、小さな女の子のお腹から音が鳴っていた。


 ──おう、どうした? 腹減ってんのか──?

 ──減ってないよ──。

 ──がっはっは! そうか……。……実は一人では食いきれないくらいの量を獲っちまったんだ。残すのは自然に申し訳が立たねえからお前さんも食うの手伝ってくれ──。

 ──……うん──。


 ──フアム、だったか。寝床はどうするつもりだ──?

 ──星空の下で寝るのも乙なものだよ──。

 ──がっはっは! 確かになあ!……だが、毎日それじゃ飽きちまうなあ。弟は城暮らしで帰ってこないから、気が向いたら弟の部屋使っていいぞ──。

 ──……うん──。




「それで、お前さん達は何だってこんな腐り果てた村に来たんだ?」

「自虐も卑下も飛び越えた暴言だな‼」

「おぢたーん。ウチ、砂漠のお城に行きたいぃぃん」

「新たなキャラを出してくんじゃねえ‼ 多重人格者か‼」


 エーダはカソカ村に、というよりはここに住むおじさんに会いに来た経緯と目的を淡々と説明した。事情を一通り聞いたおじさんは日焼けした顔をしわくちゃにして豪快に笑った。


「がっはっは! 向こう岸に渡りたいのか! おう、いいぞ! 協力してやる!」

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