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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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4話「町へ①」

「うーん……城から見渡して世界が広いってのはよくわかってたつもりだったけど、いざ外に出てみると全然違く見えるもんだなぁ」 


 魔王討伐のため、生まれ育ったオカノウエー王国を出たユーシャは遠くまで広がる雄大な自然に驚きを隠せずにいた。

 そよぐ風に運ばれてくる香りも新鮮で喧騒のない静けさも城内のそれとはまるで違うものに感じた。


「雲も全然見当たんねえし本当にいい天気だなー。なんていうか、旅日和っていうのかなー。水筒で飲み物でも持ってくりゃ良かったわ」


 ……。前回、王妃の言葉に旅行に行くんじゃねえんだよと返したのは一体誰であろうか。

 

 オカノウエー王国周辺は昔は危険で凶悪な魔物も多く、国から一歩出れば命の保証はない程の治安の悪さで有名だったが、今やその魔物も少ない地域となっている。だが、それでも一切の危険がないわけではない。地形に関しても丘陵を下ってしばらくは平地だが、違う大陸を行くとして港町は山を一つ越えた先にある。 

 歩いていくには広大な大地、道ゆく者を脅かす魔物。どれを取っても一筋縄ではいかない旅路である。


 ── ここから南西に向かうとショークニーという町があります。そこの酒場では旅の同行者の斡旋業も兼ねているので訪れると良いでしょう──。


 ユーシャは母の言葉を思い返す。これからを考えれば一緒に旅をしてくれる仲間を探すのが最善だろう。

 自然豊かな情景は程々に、あらためて町を目指す事にした。

 さて、南西か……。そう呟き、ふっと息を吐く。


「…………。……そもそも南西以前にどこが北だ?」


 ……。大して目星もつけず気持ちに引っ張られるまま歩き出した結果、方角が分からなくなった。

 そして何より、ユーシャはその身一つで国を出ていた。地図も持たず、方位磁石もなく、武器も防具も携えず、もちろん金も持ち合わせていない。一体彼は何をしに国を出たのだろうか? 今の姿を見て魔王討伐の為だとはエスパーでもなければ正解できないだろう。

 どうしたものかと思案し、とりあえず太陽を見て大まかな方角を導き出そうとしてみる。


「……眩しいなぁ。5秒と見てらんねえや」


 とっても暢気である。一体誰に似たのだろうか?

 

 それから間もなく、ユーシャは再び歩みを進めた。……逆方向に。


「とりあえず一旦戻るか」


 ユーシャはオカノウエー王国に向けて踵を返した。少しはためらいそうな結論をあっさりと出した。大手を振って飛び出した国に小一時間経たずに戻るとはどうにも恥ずかしい話だが、方角が分からず目印もないというのであれば一度出戻って立て直す。恥も外聞もないが合理的な判断といえる。


「とりあえず丘から眺めりゃ町くらい見えるだろ」


 ……。ユーシャはあくまで自分の五感にこだわるのだった。

 おそらく今現在魔王討伐の旅をゆく自分が縛りプレイをしているかのように丸腰である事に、何一つ疑問を感じていないのだろう。この先が思いやられる現状で一切の悲壮感がないのは、不幸中の幸いか。それとも……。


「────ッ」

   

 その時、何かが聞こえた。

 

 ほんの僅かだが人の声のようにも聞こえた。 

 確信が持てないユーシャは神経を研ぎ澄まし、音のする方向へ耳を傾ける。何かを叫んでる男の声だ。風で揺れる木々の音が邪魔をして判然とはしないが、林の奥から確かに男の声が聞こえる。

 急いで駆けつけると、そこには尻もちをつく青年と二本の足で立つ狼に似た獣が見えた。青年の方も誰かの足音に気が付いており、すぐさまその方向に振り向き駆けつけた少年と目が合う。

 そして、渡りに船とばかりに助けを求めた。


「あのっ、いきなりで申し訳ないけどっ! 手を貸してくれませんか⁉」

「こっちもいきなりなんだけどさ! ショークニーって町の行き方知らない⁉」

「それ今聞く事⁉ こちとら結構のっぴきならない状況なんですけど!!!」


 ……。ユーシャはオカノウエー・ニール・ノンキーナの息子である。つまり空気が読めない。

 そんなユーシャとは対照的に二足歩行の獣は警戒していた。突如現れた少年の出方を窺っているようだ。ユーシャは周囲を見渡して状況を把握する。


「えーと……。そこの変な奴にお兄さんが襲われてるって認識で合ってる?」

「合ってる! それで合ってます‼ 変な奴っていうか魔物です‼ ウォーマルフっていう比較的凶暴な種族!!!」

「……! 魔物か……‼ とりあえずこいつを何とかするのが先だな。お兄さん! ひとまず立てる⁉」

「えっ、あっハイ‼」

「よしっ! 頑張って倒して‼」

「えーーーー!!! お願いします頼むから傍観者に徹しないで!!!」


 懇願する青年だったが、ユーシャの顔つきを見てハッとする。

 ──大丈夫。隙は俺がつくるから──。そう言ったユーシャはおもむろに足元にあった石を魔物に向かって投げつけた。すると警戒していた魔物も一気に臨戦態勢に入る。そんな魔物に向けてここ目掛けて来てみろよと言わんばかりにユーシャは自分の左胸を親指で指す。二足歩行の獣・ウォーマルフは不敵な面構えをした少年に狙いを定めた。


「えっ、あっ、ちょっとっ……え⁉」


 今にも襲われんとしている少年はあたふたしている青年に視線を向けていた。何かを訴える目と右手で後頭部をとんとんと叩くジェスチャーで青年も少年の意図を理解した。そしてすぐに行動に移す。青年は傍に転がっていた太い木の枝を手に取って背後から魔物の頭を目掛けて振りかぶり豪快に打ち付けた。鈍い打撃音が響き、渾身の一撃を受けたウォーマルフは呻きながらよろめく。


「や、やった……⁉」


 今にも倒れるかと思われたその瞬間、大きく吠えながらユーシャに向かって猛然と駆け出した。計算外の展開にユーシャは思わず声を上ずらせる。


「ゲッ‼ 効いてねえのか⁉」


 ──ものの一瞬でユーシャとの距離を詰め、ウォーマルフは今まで何度も獲物に突き立てたであろうその牙で喉元を掻き食らおうとユーシャに襲い掛かった。


 



 


 

 


 


 

「町へ②」につづく。

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