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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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35話「行動開始」

「ウレーヌ!」


 ランデス王国第二王女ウレーヌを手中に収めんと、ランデス城に侵入してきた竜型の魔物が玉座の間に現れてから数刻、騒ぎを聞きつけた第一王女イルーニが場に姿を現した。

 魔物に捕らわれているウレーヌを見た瞬間、姉のイルーニは妹の名を叫び、間髪を入れずに魔物に飛び掛かった。そして──。


「……っ! イルーニは……ウレーヌを助け出し、身代わりとなる形で魔物に捕まり連れていかれてしまったのだ……!」


 本来の目的だった妹のウレーヌではなかったが、姉のイルーニを抱えた竜の魔物は空を飛び、そして去っていったのだった。

 ランデス国王は何も出来なかった悔しさを一切包み隠さず、そして己の無力さを恥じた。

 ユーシャはそんな国王を慮る。普通の人間からすれば魔物は異形ともいえる存在である。そんな魔物を相手に妹を守ろうと躊躇なく行動した姉が勇敢だったのだ。

 当時の自分を国王は自嘲気味に話す。全く情けない話よ……。魔物が現れてから娘を連れ去っていくまで私は──!


「『何だか体が長いなあ』──そう思う事しかできなかった……!」

「情けないっつうかもはや素っ頓狂だよ‼ 『体が長いなあ』って、国王は気が長いなあ‼」


 国王の後悔にイーゲン大臣も続く。魔王討伐の旅をしているユーシャ殿からすれば自分達など立ち尽くしていただけの臆病者だとみっともなく映るでしょうと──。

 そんな事はないと否定する少年を意に介さず大臣は眉間にシワを寄せ、何も出来なかった当時の自分を悔やんだ。私はあの魔物を見た時に固まってしまった……! もしやこやつは──。


「『人間ではないのか……⁉』──と!」

「…………。うんまあ今の時代多様性っすからねー。そりゃあね。もしかしたら蛇みたいな長い体の竜みたいな人間だっている、ワケ、あるかーい‼ どんな塩基配列してんだそいつは‼」

「も、申し訳ありませぬ……! 勉強不足ゆえにその、塩基配列とか遺伝子などはあまり詳しくないもので……!」

「えっ⁉ い、いやっ、今のはただのツッコミでそのっ、気にしなくていいっていうかその……こ、こちらこそ申し訳ない‼」


 真面目な分、大臣の方が始末が悪いな──何だかいたたまれなくなったユーシャはフォローが欲しいのか仲間のエーダとフアムを交互に見やる。

 そんな空気を読んでか読まずか、フアムは王妃に双子の妹・第二王女のウレーヌの現況を訊ねた。

 

「ウレーヌは無事です……ですが、やはり自身の身代わりとなって姉がさらわれてしまったのがショックだったのでしょう。今は……自室で引きこもりがちになっているのです」

 

 王妃は目を伏せ、俯いたまま答える。そんな王妃とは対照的に国王は前を向いていた。落ち込む妻の肩に手を回し、きっと大丈夫だと励ます。


「あの魔物が何を企んでいるのかは解せぬが、一縷の望みはある! あの子は……イルーニは武術を嗜んでおるではないか! この国の誰よりも強いのだ! きっと無事でいるはず!」


 兵にとっては面子の立たぬ話だがな──! 強がりか、それともそう信じて疑わないのか、あるいはその両方か。毅然と振る舞う国王を見ても王妃の表情は晴れなかった。

 曇りがちな笑顔で王妃はユーシャ達に齢二十二を数える自身の娘達について話す。

 幼い頃に観覧したカランカ王国で行われた武術大会での武闘家の雄姿に心を奪われ、そこから武術を極めんと鍛錬を重ね強くなっていった姉のイルーニと、極東の島国からふらりと現れたサスケによって造り上げられていく町・トモフを見て、設計などの建築に強い関心を示し、その道を志した妹のウレーヌ。この双子の姉妹はとことん対照的なのだと言う。アウトドアの姉とインドアの妹。我を強く押し通す性格の姉イルーニに対して、妹のウレーヌは他を優しく気遣う性格なのだそうだ。


「ウレーヌだって……自分だって辛いでしょうに……それでも時折、私の所に来ては『イルーニだったらきっと大丈夫よ』と言ってくれて……っ! あぁ! 目に入れても痛くない我が子らを瞳の中に閉じ込めてしまえたら守れたのに……!」


 不謹慎ながら何だか詩的だ──こんな状況でも気品と教養を失わない王妃の懺悔に、ユーシャはどう声を掛けたらいいか思い悩む。


「いっその事、こんな役立たずな女の腹をかっさばいてその中にあの子達を隠してしまえば良かったんだわ!」

「怖い怖い怖い怖い‼ なんつー猟奇的な懺悔してんだ‼」


 ……。一気に気品と教養が吹き飛んだ。

 比較的小柄な王妃の腹をかっさばいたとて、成人の娘など入りはしないだろう。狂気を孕んだ王妃の懺悔に対するユーシャの強烈なツッコミに、当の王妃は思わず目をぱちくりさせる。

 慌てて謝罪するユーシャを見て、王妃の表情は僅かに晴れてきたように見えた。くすりと微笑み、王妃は少年に向けて言葉を掛ける。


「ふふっ、随分とヤンチャなのね……! でも、魔王討伐を果たすのならそのくらい逞しくなければいけないのかもしれません」


 ですが決して忘れてはいけません、親愛なるオカノウエーの勇敢な王子よ──先程吹き飛んだ気品を取り戻した王妃は、親交を結ぶ彼の国の少年に強さだけでは駄目なのだと諭した。


「ヤンチャの中にも雨に濡れる猫に傘を差すような優しさを忘れずにねユーシャ」

「それはヤンチャじゃないですねエピソードオブヤンキーですね」


 なにはともあれ、悲しみに曇らせていた王妃の顔にも光が差してきた。あとは王女イルーニを救い出し、この国の日常を取り戻すのみである。ユーシャは気合を入れた。


「よっしゃ! 行動開始といこうか! 国王、王妃、大臣! 絶対に王女様を助けるよ」

「うむ……! すまないが宜しく頼むユーシャよ」


 ほんの数日いないだけなのに、常日頃から強さを試す旅に出たいと城を抜け出そうとする娘に手を焼いていたあの頃が懐かしい──愛娘がいない日々に寂しさを募らせた国王は魔王討伐を果たさんとする勇者に命運を託した。

 必ずや娘を、イルーニを救い出してくれ──! 


「あの──城を抜け出そうと壁を蹴り開け床を掘り天井を破壊するおてんば娘を──!」

「おてんばのライン遥かに超えてんだろ‼ やってる事が脱獄する奴のそれじゃねえか‼」

「あのっ、それで魔物がどこに行ったのか目星は付いているんですか?」

「脱獄囚はどこに連れていかれたの?」

「フアム! 一応王女様だから!」


 正真正銘の王女ですユーシャ殿──! 真面目に訂正を入れる大臣は、探索した兵から集めた情報を基に魔物が飛び去っていった方角を推察した。恐らく奴は──。


「北、または南、もしくは西、あるいは東だと思われます!」

「何もわかってねえんじゃねえか‼」


 救出は前途多難を予感させた──。

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