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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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34話「さらわれた王女」

 扉が開き、玉座の間を見渡すと、すぐに場の空気が張り詰めているのがわかった。

 ユーシャ達の後ろから聞こえる足音の間隔が徐々に短くなり、そして側で音が止んだ。


「ここまでの案内ご苦労だったな。そしてユーシャ殿、よくぞ我が国に来てくださいました」


 ユーシャ達に近づいて来た足音の主──兵からの情報をまとめ終わったイーゲン大臣が少し遅れてやって来た。


「僭越ながら私が紹介させていただきますユーシャ殿。あの玉座に鎮座あそばすのはカランカ・ランデス王国を統治するビルッグ国王。そしてその隣が奥方であらせられるヘンビー王妃です」


 イーゲンの紹介で一行の視線が少し離れた玉座の方に向かう。

 カランカ・ランデス王国国王ビルッグ・ルガイン・ランデスと、その妃ヘンビー・ンガイン・ランデスはユーシャ達を見やり、静かに微笑んだ。

 続けて、大臣は国王と王妃にオカノウエー王国の王子が訪ねてきた事を報告した。


「国王! 魔王討伐の旅をしているユーシャ殿がわざわざ訪ねて来てくれましたぞ! 何でも事件の解決に協力してくださるそうです!」

「ユーシャ……? おぉ……! ノンキーナの息子か! 前に会った時はほんの赤子だったが確かに面影がある。大きくなったな……!」

「フフ、久し振り……と言っても私達がオカノウエーを訊ねた当時はまだ物心がついていなかったでしょうから覚えてもないわよね……」


 顔色を窺う限りは、愛娘をさらわれた悲しみは消えてはいまい。それでも訪ねてきたユーシャ達を前に気丈に振る舞う様が見て取れた。


「まったく名付けの話は傑作だったぞ……! 何せ『顔が勇者っぽいから名をユーシャにした』と……! クックック」

「あなた、本人を前にして失礼ですよ。ユーシャ、ごめんなさいね」

「ははは、いやあ随分雑な名付けをしたもんで……」

「だが、あながちそれは間違いではなかったようだな」

「はい?」

「えぇ、そうね」


 困惑するユーシャを前に国王と王妃は声をそろえて言う。


「確かに勇者っぽい顔をしている」


 ……。またか。何回やるんだよこのくだり──勇者などと大してイメージの湧かない顔をしていると幾度となく言われる事にユーシャはうんざりしていた。何だったらこの旅で何度言われるか数えてやろうかと少年は何の気なしに思い付く。さて、今回で──。

 

 ……。…………。……何回目だっけ──?


 ……。今後もおそらく勇者っぽい顔と言われる度にカウントが振り出しに戻っているのだろう。ユーシャの頭の中の消しゴムはもはや強力無比の呪いであった。


「さて、世間話はこれくらいにしよう。娘の顔が今も離れん。ユーシャよ。協力してくれるという事は事情はイーゲンから聞いておるな?」

「申し訳ございません国王! 仔細はこの場に会してからと思いまして話しておりませぬ。噂を聞きつけて城へやって来た彼らを素性がわかったのちにすぐお連れした次第でして……」

「おぉ、そうだったのか。……うむ。では、私から話すとしよう」


 自分が説明をと申し出たイーゲン大臣を制し、ランデス国王は数日前にこの城で起きた出来事をおもむろに話し始めた。

 あの日もいつものようにのどかに時間が過ぎていた。だが、ここ──玉座の間にいても城内の至る所で兵がざわつきはじめたのがわかったのだと言う。


「城を包む不穏な空気……私は嫌な予感がしてな。すぐに兵を集め、二人の娘も自室からここに連れてくるよう命じたのだ」


 二人──? 国王の言葉にピンとこなかったユーシャだが、隣のエーダとフアムは先の門番兵とのやり取りを思い出した。そしてイーゲン大臣がランデス国王夫妻の二人の娘について一行に補足する。

 姉の第一王女イルーニ、そして妹の第二王女ウレーヌ。この二人は二卵性の双子の姉妹なのだそうだ──。


「玉座の間へと続々と集まる兵士達の中で、一際大きな足音を立て門番兵はやってきた。そして息を切らしながらも開口一番こう言ったのだ。『申し訳ございません国王! 魔物の侵入を許してしまいました!』と──。その時だ。離れた所から悲鳴が聞こえた。それが娘の声だと認識した時には魔物がこの場に姿を現していたのだ……!」


 物々しい雰囲気を身にまとい、玉座の間に現れた魔物──四本の足を生やし、太く大きい蛇のような体の竜を思わせる形をしている──は第二王女である双子の妹・ウレーヌを鋭そうな鉤爪が付いた前足で捕らえていた。

 言葉を失い、唖然としている場の人間達を前に竜型の魔物は流暢に話し始める。

 

 ──全く、人間の建物は複雑で敵わんな。だが、我が目的は果たされた──。


「王よ、この娘は頂くぞ! ごちそうさまです!」

「ご、ごちそうさま⁉ な、何を……⁉」

「む? 『いただきます』と『ごちそうさま』はワンセットではないのか?」

「いや、それはそうだが……。っ! まさか、貴様娘を食うつもりか⁉」

「え⁉ この娘食用なのか⁉」

「ち、違う! ウレーヌは私達が手塩にかけて育てた──」

「塩をかけた……やはり食用か⁉」

「違う! 言葉尻を捕えるんじゃない!」



 ……。何だこのアホを煮詰めたような掛け合いは──ユーシャが呆れていると、娘がさらわれ悲しみに暮れる王妃が当時を思い出したのか錯乱気味に後悔の言葉を口にした。


「あぁ! きっと食べちゃいたいくらいにかわいいと思っていた私の気持ちがあの魔物を呼び寄せてしまったのかもしれません……!」

「いやいやいや! 考え過ぎです王妃! そんな事ないって!」

「ユーシャの言う通りだヘンビーよ! それに私も……! 食べたいと思っていたのは私も同じだ!」

「国王! 『くらいかわいい』が抜けてる‼ 寄り添った声が食人鬼の願望みたくなってる‼」


 ねえ──すんとした表情でフアムがユーシャの袖を引っ張る。


「王様ってボケてる人がなるものなの?」

「辛らつだな! 偏見だし、そんな事は……! そんな、事、は……」


 ……。幼い頃から徹頭徹尾ボケてる父を見続けた少年はついに『そんな事はない』と言い切る事が出来なかった。

 そして面倒になったユーシャは適当な言葉をフアムに返す。


「…………王様ってずっと座って動かねえからボケてんじゃねえの?」


 ……。若干話は本題からズレたが、おおよその経緯と取るべき行動が明確になった。


「大臣。さらわれたウレーヌ王女を助ければいいんだよね?」

「いえ……」

「えっ⁉ 違うの⁉ どういう事?」


 違うのですユーシャ殿──首を横に振った大臣は厳しい表情で続く言葉を口にした。


「魔物にさらわれたのは姉のイルーニ王女の方なのです」

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