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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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33話「噂の真偽」

「私は兵達の報告をまとめてから国王のもとに向かう。ユーシャ殿の案内はお主に任せたぞ」


 ではユーシャ殿、失礼致します──風格の漂う大臣は国王がいる玉座の間への案内を外での任務から帰ってきた兵士に任せ、いそいそと自室に戻っていった。

 ユーシャ達は顔見知りの兵士のおかげで身分が保証され、あらぬ疑いが晴れたのちに国王への謁見が叶う事となった。というよりも魔王討伐の旅をしているユーシャ達の腕を見込んで現在のこの国の問題の解決に是非協力してほしいと助力を要請されたという方が正しい。ランデスとオカノウエーの国王同士の交友関係がある間柄か、忍ぶ恥もないといったところか。

 玉座の間に向かう途中、若い兵士はとてもフランクな口調でユーシャに話し掛けていた。


「いやー、まさかまたユーシャ殿と会えるとは思ってもみなかったですよー! お仲間も増えて何よりです。魔王討伐の旅は順調ですか?」

「まあ、どうなんだろう? 何を以て順調かどうかって感じだけど」

「あっはっは! それもそうか! 一筋縄じゃいかない旅ですもんね!」


 あの時、兵士さんが旅に付いて来てくれればちょっとは楽になったかもね──軽く嫌味に聞こえるような事をユーシャは言って、それを聞いた兵士は笑った。


「嫌ですよめんどくさい」


 ……。兵士ははっきりと冷淡に言い放った。

 かつて祖国オカノウエーから一人で旅に出る事に不安を覚えたユーシャは、魔王復活の報告ののちにここ──ランデス城への帰路に就こうとしていた若い兵士に道中のお供をお願いしてにべもなく断られた事があった。その際の理由は『ユーシャが何かあった時に責任を負いかねる』といったものであったが、きっとこっちが本音なのだろう。


「兵士のお兄さん、あの髭の大臣は偉い人なの?」


 慎ましくしているエーダとは対照的にフアムが二人の会話に割って入ってきた。

 背後から聞こえた少女の声に兵士は振り向く。するとたった今フアムの存在に気付いたのか驚いた反応で少女を二度見し、そして何事もなかったかのように質問に答えた。


「確かにイーゲン大臣は風格あるからより偉く感じるかもねー。あの人って元は併合する前のカランカ王国国王だったからそう感じるのも当然かもしれないな」


 この国はかつてカランカ王国とランデス王国としてそれぞれ独立していた別の国であったが、自然の猛威に徐々に領地が削られていき国の存続が危ぶまれたカランカと、そんな友好国の行く末を憂いた隣国のランデスとで両国合意の元、併合して現在のカランカ・ランデス王国となった経緯があった。

 器の大きいランデス国王は、国名にカランカの名を残す事に加えて二頭政治──最高権力者が二人いる政治形態──にしようとカランカ国王のイーゲンに持ち掛けた。だが、礼儀を重んじ、恩義を決して忘れないイーゲンは至れり尽くせりの状況を恐れ多く感じた。そして自国民に頭を下げ、ランデス国王の厚意を丁重に断った上で旧カランカ国王はランデス国王の配下となる事を選んだのだった。


「一国の王だった人なのに汗水たらして働くんだよ。凄いなあとは思うけど、大臣は楽したりサボりたいって思う事ないのかなあ。自分にも厳しい人だから疲れないか心配になるよね」

「兵士さんはサボりたいの?」

「それはもう常にサボりたいさ!」


 フアムの質問に、兵士は力を込めて答えた。


「楽できるならそれに越した事はないからね! 適度に力抜いて息抜きしないと人生なんて生きていけないよ!」


 ……。ある種、至言だった。

 そして、そんな楽をしたがる兵士にエーダは本題を切り出す。


「あのっ、大臣が探索した兵がどうのって言ってましたけど……それはやはり王女様の、という事なんでしょうか」 

「……。質問に答える前に確認しておきたいんですけど、それは誰から聞いた話なんですか?」

「いや、確証のある話じゃないんだ。町でそんな噂が流れてたってだけなんだけど」

「あぁ、そういう事だったんですね。うーん、どこから洩れたのかなあ」

「じゃあ、この噂は本当って事ですか……?」


 エーダの噂の真偽の確認に、兵士は苦しい表情で頷いた。

 今回の事件は彼がオカノウエー王国に魔王復活の旨を報告してから城に戻るまでの間に起きた出来事らしい。


「まさか私が各地を観光している時にそんな事が起きていようとは……!」

「暢気かアンタ‼ 任務終えたからって脱力しすぎだろ‼」

「だ、だってこんな機会滅多にないから……! それに暢気というならそれはオカノウエーの専売特許じゃないですか!」

「国で括んなよ‼ 暢気なのは俺のオヤジだけだ‼」


 あなたも十分その血を引いている──旅の中でその事実を目撃していたエーダとフアムはユーシャをじっと見つめていた。

 とにもかくにも王女が魔物にさらわれたのは確かな事らしい。

 暢気な兵士は帰還して間もなく大臣に顛末を聞かされて、すぐさま探索班に参加して城外に出たためこれ以上の事は詳しく知らないのだという。


「お兄さんはサボりたい人なのに帰ってすぐに働いたんだね」

「正直休みたかったんだけどね。でも願ったり叶ったりだったよ。もしもまた魔物が襲ってきたら怖いからね!」


 ……。よくこんな奴に他国に魔王復活を報せるような大役を任せたな──今までの話を聞くに、この若い兵士なら情報を確実に届けなければならないという責任重大な任務から真っ先に逃げそうに思えたが、何と兵士はその大役を自ら志願したらしい。


「だって、その間は国を離れるワケだから訓練をサボれるじゃないですか!」


 この男は何故、兵士になったのか。それが不思議でならなかった。

 確かに厳しい訓練からは逃れられるのだろう。だが、オカノウエー王国に向かうためには魔物が巣食う野を一人で進まなくてはならない。もし魔物の群れにでも遭遇したらどうするつもりだったのだろうか──。


「あっはっは! それは全然問題ないですよ! なんたって私には行商人から買った魔除けの聖水がありますからね!」

「行商人? それってまさか……」

「えぇ、トモフに住んでいるあの行商人です! 彼が売っていた聖水は並みの代物ではないそうで、世界のどこかにあるといわれている『コッチキチャヤーヨ泉』から作られた通常の倍以上の効果がある聖水らしいんです!」

「へ、へえ……そうなんだ。それじゃあ結構高かったんじゃない?」

「それがですね、格安で売ってくれたんですよ!」

「え⁉ 嘘だ⁉」

「本当なんです! その聖水は通常のものより十倍の値段の二千Gする上に、魔王復活の影響を受けて需要が高まり、原材料の不足で他の地域では二万以上の値で売られているそうなんですけど、外での任務は大変だからと言ってですね、なんと他の地域の半額の一万Gで売ってくれたんです!」


 高い出費でも金で解決できるならそれに越した事はないですからね──! いい買い物をしたと嬉々として語っている兵士とは対照的に三人の表情が曇る。

 変な名前の泉があるかどうかは知らない。聖水の価格が高騰しているのかも、他の地域の流通状況も分からない。だが、行商人の言葉が脳裏をよぎる──。


 ──世の中の流れを知る事や、知識、見識を身につけなければ簡単に足元を見られてしまう──。


「ねえ、ユーシャ……」

「あの兵士のお兄さん……」

「あぁ……行商人にぼったくられたな……!」


 ユーシャ一行から憐憫の目で見られている事にも気付かずに、若き兵士は意気揚々と玉座の間への扉を開けた。

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