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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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31話「ランデス城へ」

「ランデス城なら山道を南にまっすぐ進んだ先だよ。途中の分かれ道を東に行くと以前にこの村を襲った魔物の巣がある山に出るから間違えないようにね」


 冒険者パーティーが倒し損ねた生き残りがまだいるかもしれない──若者の忠告をありがたく受け取り、ユーシャ達は取り急ぎランデス城に向かう事にした。


 王女様が魔物にさらわれた──。あくまでも噂の域を出ないものと思っていたが、ニスニアール大陸最南端の港町からトモフに戻ってきた行商人の話がその噂に信ぴょう性を持たせた。




「オメエ何だオイ久し振りじゃねえかオイ長い間この町を留守にしやがってよ! 商売はどうした商売は上手くいってるのか体は悪くしてねえか元気にしてたのかちょっと待ってろ今飲み物持ってきてやっからな⁉」

「お疲れ様です。商売は順調でしたか?」

「うーん。まあまあかな? はは、やっぱり物を売るって難しいねえ」


 白髪の男・ジャンクの言動も行動も一切気にも留めず若者と優しそうな顔をした行商人は会話を始めた。

 だが、行商人の様子がどこかおかしい。会話の中、彼をよく見てみると話を聞いているようで聞いてないような、当たり障りないような話に言葉が詰まっているような、何かに気を取られて会話に集中できていないようだった。


「あの、なんだか上の空みたいですけど……長旅でお疲れでしたか? だとしたらごめんなさい! 気が利かなくて!」

「い、いやぁそういうんじゃないんだ。その、港町でさ……その、異様なっていうか」


 異様──? 気もそぞろな行商人はなにやら不穏な言葉を口にした。一体港町で何があったというのか。ユーシャ達も固唾を呑んで聞いていると行商人は浮かない顔を更に曇らせて話を続けた。港町である噂が流れたんだ──。


「そう、異様というか、不謹慎というか、不穏当、いや、何だか黒い風の噂が……」

「凝り性か。どんだけ表現にこだわってんだ」

「え、噂ってまさか……!」

「王女が魔物にさらわれたっていうんだよ」


 どうやら港町でも若者が聞いた内容と同じ噂が流れているようだった。

 噂の出どころを知らないかと若者は行商人に訊ねるが、文字通り風の噂──どこからともなく流れてきたのだという。

 『王女が魔物にさらわれた』以上の話が一切出てこず、それを裏付ける根拠となるものもない。若者は噂以上の域は出ないかと嘆息を吐いたが、行商人の話はそこでは終わらなかった。

 最初の内は盛況だった商いも日が経つにつれて客足が遠のき、ここらが潮時と店を畳んで港町を離れた行商人は道すがらに目に入ったランデス城を見て、せっかく近くを通ったのだから国王に挨拶でもしていこうかと不意に思い至った。それにもしかしたら城の人間の誰かが売れ残った商品を買ってくれるかもしれない──行商人は朗らかな声で城門に立っていた兵に話し掛けた。


「ちょっと兵士に従来の十倍の価格で吹っ掛けてみたんだ」

「悪徳業者かアンタ‼」

「はは、もちろん冗談で言ってみただけだよ。まぁ十倍でもいいって言うなら売るけど」

「商魂たくましいな‼」


 たくましいどころかもはや恐ろしくすらあった。優しい顔をして利益を出す事に抜け目がない行商人は言う。法外な値段だろうと買い手がそれで良しとすれば売買は成立するものなんだ──。だから世の中の流れを知る事や、知識、見識を身につけなければ簡単に足元を見られてしまう。


「僕は民に警鐘を鳴らす必要悪でありたい」

「詭弁も甚だしいわ」

「冗談だよ冗談。ハハハ冗談さゲッゲッゲ」


 笑い方がえげつなくて冗談に聞こえない──そんな異様で不謹慎で不穏当な黒い行商人は兵士との商談ののち、国王へ挨拶をと城門を潜ろうとするも今日に限っては止められてしまった。いつもなら誰でも謁見できるはずなのだが、ここ数日は国王は誰にも会おうとしていないのだという。理由を訊ねてみても言葉を濁すばかりで、とにかく今国王は謁見できる状態じゃないと突っぱねられてしまった。

 さすがの行商人も城を包む重い空気と兵士の深刻な表情に自分の存在が場違いに感じたようだった。


「兵士の顔を見たらね、もう……商売にならないなって」

「まだ言ってんのかよ」


 商売第一って感じねえ──そう感想を漏らすエーダに行商人は目を光らせた。


「あぁお嬢さん。素敵なローブをお召しになられているけど、この装飾品を身に付ければもっと綺麗だ。もう買うしかないね。買おうか。今ならこの壺もオマケして十倍価格の所を五倍程度で勘弁してあげるよ。聡明なあなたが好機を見逃すはずもない、そうだよね?」

「え……じゃあ」

「買わねえよ⁉ エーダ、お前に似合うものは俺が決める。俺の言う事を聞け」

「ユーシャ……。う、うん……」


 ……。行商人の押しに流されたエーダの前にユーシャが立ちはだかり、そして見事押し返した。百戦錬磨の行商人は油断も隙もありはしなかった。

 売れる時に売り、売れる物を売る。それが僕なのさ──悪びれもしない行商人はキリッとした表情で白い歯を光らせて笑った。そしてすぐに話を本筋に戻す。

 商売上がったりだと帰路に着こうと踵を返した行商人の背中に門番兵が少し聞きたい事があると声を掛けた。


「『道行く途中で空を飛ぶ魔物を見なかったか?』って聞かれたんだ。僕は何故そんな事を聞くのかと返したらしどろもどろになって最近魔物が増えて物騒だから気をつけろって言うんだけど、それが何故だかはぐらかされたように感じてね。だから探りを入れてみたんだよ」


 兵士の忠告にあなた達もどうかお気をつけてと行商人は返す。そして兵士の気が緩んだ瞬間を見計らって──国王や王妃、あぁそうだ。そして王女様達にもよろしくお伝えください──そう付け加えた。


「『王女様』と口にした時に兵士の顔が明らかに強張ったんだ。その後の受け答えもぎこちなかった。少なくとも王女様の身に何かあったのは間違いないんじゃないかな」


 さすがというべきか。仕事柄か品の買い付けや品を卸す相手、そして自らが店頭に立った際の客など幾人のもの人間と向き合ってきた行商人は表情を読み取る事に長けていた。その頭脳と洞察力で兵士の違和感を見逃さず、ランデス城に起きた異変を感じ取ったのだった。

 王女の身に何かあった──表情を険しくしたユーシャの袖をフアムが引っ張る。どうやらフアムにはこの後のユーシャの取る行動がわかっていたようだ。


「ユーシャ。お城に行くんでしょ?」

「フアム……。あぁ! エーダもそれでいいだろ?」

「うんっ! 事情を知っちゃったからには知らんぷりって訳にもいかないわ!」

「おうおうおうおう! 何だオメエらもう行っちまうのか忙しねえ奴らだな!」


 いざ、ランデス城へ──決意を新たに町を出ようとしたユーシャ達の前に飲み物を持ったジャンクじいさんが戻ってきた。


「オメエら元気がなくなったらよお天道様と向き合えなお天道様からよ陽の光をもらえばよ元気になれっからな走って疲れたら休め休んで元気になったらまた走れ! 元気でやれよ気を付けて行けな!」


 相変わらず句読点のない喋りだったが、体に気を付けて元気でな──そんな気遣いを持ってジャンクは見送ってくれた。

 一方的に喋り、そして豪快に笑いながら水を飲む彼を見て、表情を緩めたユーシャ達は行商人の方を見やる。行商人の手には何も持っていないようだ。


 ──ちょっと待ってろ今飲み物持ってきてやっからな──⁉


「……じいさんが今飲んでる水、行商人に渡すやつじゃね……?」


 ……。ユーシャ一行は、どこまでも自由奔放なジャンクじいさんに呆れながらトモフの町を後にした。

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