3話「旅立ち おまけ編」
夜が明けた。
目覚めは良く、陽の光も鳥のさえずりも心地良い。
今日ものどかな一日が始まりそうだ。
「おはようございます! いよいよ旅立ちですね!」
……やっぱりそんな事もなさそうだ。
玉座の間に赴くと、オカノウエー城にて一晩泊まった友好国の兵士が話しかけてきた。
あぁ。やっぱり夢じゃなかったか。
オカノウエー王国王子オカノウエー・ニール・ユーシャは何かしらの思惑があって復活を遂げた魔王を討伐する為、単身旅に出る。今後の苦労を考えると雲一つない青空さえ暗く見えてくるようだ。
旅に出るにあたり、ユーシャは国王に兵を数人連れていく旨を申し出たがにべもなく断られた。
兵が数人減るだけでも自国防衛に難があるのだろうか? それであるなら納得もするがそこはやはりオカノウエー国王。低い期待から更に下方修正が要される。
「大変申し訳ない現在兵は一人除いて全員休暇中で所在が分からんのでどうしようもない本当にすまん申し開きのしようも弁解の余地もございません!!!」
いくつもの並べられた謝罪の言葉とは裏腹になかなかどうして国王は威風堂々としていた。
この国大丈夫か……? ユーシャは以前に聞いた大臣の言葉を思い出す。
「国王がどうしようもなくアレなので我ら家臣がしっかりしなければならない。強い責任と強い結束力。それがオカノウエー王国の強みではないでしょうか」
話半分に聞いていたがあながち間違いでもなさそうだ。
……。──魔王討伐を果たして帰ってきたら野心溢れる大臣に国が乗っ取られていました──。みたいな事になっていなきゃいいなぁ。
世界平和のための船出は余計な事で不安に包まれていた。
「あれ? 兵士さん。もう帰るの?」
城門に向かっていると少し先を友好国の兵士が歩いていた。
国王の厚意で一晩明かしたがそもそもが火急の報せで出向いてきたため、任を果たした以上長居は無用と帰途に就こうとしていた。どうやらユーシャが玉座の間に着いた頃には既に国王への挨拶を済ませていたようだ。
丁度よかった。正直どこへ向かったらいいかもわからないし短い道中お供してもらおうとユーシャは再び話しかける。
「え? 道中一緒に? どうしてでしょうか」
「へ? ど、どうしてというと……?」
言葉が詰まる。何か優しそうだったから二つ返事で了解してくれると思ったが全くもって素っ気なかった。
「お供した道中で王子に何かあっては私程度では責任を負いかねますので。では失礼致します。どうかご武運を!」
「へ、へぇ。あざーっす……」
呆気に取られたユーシャはまるで気の抜けた言葉を返し、兵士は国を後にした。
……。他の国の人間との距離感とはこんなものなのだろうか? 他国の兵士と大して交流をした事がなかったユーシャは真意を測りかねた。
「あらユーシャ。こんな時間にどこかお出掛けかしら?」
城門で呆然と立ち尽くしていると、見目麗しい淑女が声を掛けてきた。淑女の名はオカノウエー・ニール・キレ・イーナ。オカノウエー王国王妃でありユーシャの母である。
「母上こそ。城下町に何か用でもあんの?」
「えぇ。『国王への文句をまくしたてる会』の会合に会長として立ち会うのです」
「そっ、それはどちらかというと王妃として咎めるべきではないでしょうか母上‼」
王妃はとんでもない会の会長職に就いていた。そりゃあ国王があれじゃ支柱のない家屋に住んでいるようなもので文句も言いたくなるだろうけども。
そんな事を考えている息子を母は諭す。どうやら考えがあるらしい。
「それは違いますユーシャよ。民が不満を募らせているのなら咎めるのではなく、先ずは受け入れるのです。そして必要に応じて是正する。弾圧や規制などもってのほかなのですよ。賢いあなたなら解るはずです私のかわいいクソ坊主」
「あッハイ‼ すみません大変失礼しましたお母様!!!」
王妃は会の一番上に立つ事で場を掌握し、民の声を直接聞いて国政に活かしているらしかった。
前言撤回。やっぱこの国大丈夫だわ。母上がいればたとえクーデターを企てたとしてもきっと平然とすり潰す。
ほんの少しだけ肩が軽くなったユーシャは母にしばしの別れを告げた。
「では母上。行ってきます」
「? どこへ?」
「え? 父上から魔王討伐の旅に出るって聞いてない?」
「あら魔王討伐?……。ふーん……そうなの。物好きね」
「あれぇー⁉ はっ母上、そんな言い草はあんまりじゃないですか⁉」
前回、魔王討伐の任を面倒事と言い切った息子とどっこいどっこいである。
しかし軽口を吐いたもののやはり心配なのだろうか。一人旅行く愛息にそれならと助言した。
「ここから南西に向かうとショークニーという町があります。そこの酒場では旅の同行者の斡旋業も兼ねているので訪れると良いでしょう」
最後に、と。もう一言だけ付け加える。
「あなたは世界中を回り、目的を成し遂げ、必ずやこの場所へ帰って来ます」
「……! ……はい」
「その暁には……」
「えぇ。わかっています」
「各地の名産品を買ってきてくれるかしら」
「旅行に行くんじゃねえんだよ!!!」
フフ。その元気があれば大丈夫です。さあ、行ってらっしゃいな。
そう言って王妃は愛する我が子を優しく送り出した。
「……行ったか」
「あらあなた。……えぇ」
息子を見送ろうと姿を現した国王は物憂げな表情を浮かべる。そんな国王に王妃は微笑み、そして語り掛ける。
あの子ならきっと大丈夫。だって……
「あなたという極上の不安要素など一掃するくらい私の濃ゆい血を引いているのですから」
──そう。かつてこの国に潜んだこんな国王では話にならないとクーデターを企てた一派を乗っ取りあまつさえ積極的に率いようとした結果、得も言われぬ恐怖を感じさせ計画を雲散霧消させた私の血をね──。
「……。…………。……クーデターとかそんな事考えてる奴いたの……?」
何にもわかっちゃいない国王と、何なら世界征服さえしかねない王妃の血を受け継ぐ王子の旅が今、始まる──。
「町へ①」につづく。