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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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24話「奪還」

「さて、事情を知らずにというのでは身が入らんだろう。大臣よ、今回の経緯についての説明を──」

「ちょ、ちょっと待って! 俺達が行くのはもう確定事項なの⁉」

 

 話を進める国王をユーシャが声を上げて遮った。そんなユーシャを国王はじろりと見やる。


「勇者よ、まさか怖気づいてはおるまいな? それにだ。落し所としては妥当な線に落ち着いたと思うが……」

「い、いやあ……俺としては少しでも早く魔王の討伐を果たしたいなあって……」

「魔王と私、どちらが大事だというのだ⁉」

「彼女か!!!」


 アジトに行って何を持って帰ってくればいいの──? フアムは大臣に訊ねた。

 ユーシャ達が出会ってから終始すんとしている彼女は贖罪を果たそうと意気込んでいるのか、はたまた困っているから協力しようとしているのか表情からは読み取れないが、既に行く気満々の様子だ。

 ちょっと待ったとフアムに話し掛けるも、構わず説明し始めた大臣の大声で少年の声はかき消された。    

 玉座の間に来た時から気になっていた大臣の声は、感情に関わらず元から大ボリュームのようだった。


「山賊に奪われたのはヒエンルナを象徴する紋章──国章が刻まれた腕輪である!」


 ──話は少しばかり遡る。

 先代国王が崩御し、父の跡を継いで国王の座に就いたアウケ・ピロウゲ・ヒエンルナは王冠が重いと駄々をこね始めた。だが王冠は権威を示すものとしてかぶっていただかなければと大臣は小鳥が逃げ出すような大声で説得したのだが国王は決して首を縦に振らない。ならば他に何か権威を示すものをと代替案を提示したが、宝剣は『これも重い』王笏は『なんか嫌だ』と話は一向に進まなかった。

 そんな中、玉座の間にやってきた兵士長が、ならばいっその事新たに国宝を作ってそれで権威を示してはとガッハッハと笑いながら提案した。

 そうか! それで行こう──! 先代が築いた財をして金ならいくらでもあると、金持ちの家にありがちなドラ息子・現ヒエンルナ国王は金に物を言わせて新たな国宝となるものを作らせた。こうして出来上がったのが国章が刻まれた宝玉を中心に様々な宝石がちりばめられた成金顔負けの腕輪であった。

 それから数日後──。国王は齢が六十を越えて退役した老兵が家を改装して新たに開いた酒場の記念パーティーに招待された。

 同席していた精悍な顔つきの男──国王と同年代くらいだろうか──は国王に挨拶ののち、国王の右腕に装着していたいかにも高級そうな腕輪を眺め、稀に見る見事な装飾品ですねときさくに話し掛けてきた。国王は腕輪を自慢げに話し、その席はまだ酒が入っていないにも拘わらず早くも盛り上がりを見せていた。

 程なくして招待客が一通り集まり、いよいよ乾杯の音頭が取られた。グラスを右手に掲げた国王に男は宝石の中にはアルコールなど水分が苦手なものもあるので腕輪を外すよう促してきた。今回のパーティーを催した元老兵のスピーチがつつがなく進み、乾杯が迫っていると急かされた国王は慌てて腕輪を取り外した。その瞬間である。男は慣れたような手つきとそのスピードで腕輪を持ち去ってしまったのだった。


「何とその男はパーティーに忍び込んでいた山賊の一味だったのだ!」

「くっ……! 酒の席とはいえ不甲斐ない……!」

「まだ酒入ってねえだろうが‼」


 シラフでの大失態な分、余計始末が悪かった。

 つまりは隙だらけのドラ国王の尻拭いをしなければならないという事か──そう考えるとやる気が失せてくるのだが、今更知らぬ顔というのは薄情だろう。さっさと腕輪を取り戻して無事放免と行こうか──ユーシャは気合を入れて臨む事にした。そしてアジトに向かう前に国王に念入りに確認を入れる。


「国王。腕輪を取り戻したらフアムの盗みとかはお咎めなしって事でいいんですよね? 鎧をへこましちゃった事については……」

「無論それも含めて不問とする。もともと鎧は身を守るための物。兵士に怪我はなかったのだからそれも水に流そう」


 金ならあるのだから今後いくらでも作れる──港の女将の言った通りこの国王はお金が湧いて出てくるとでも思っているようだ。何なら鎧の素材まで無限にあるものだと思っているのか。だが、交換条件を呑めばフアムの件を容赦してくれるのだからここは国王は寛大だという事にしておこう。


「よしっ、エーダ。フアム──」


 ──ユーシャが後ろを振り向くと、そこにフアムはいなかった。


「女の子なら、もうアジトに向かったぞ!」

「だったら早く言ってくれよ大臣‼」

「誠にすまない!」


 大臣の謝罪はもはや声が乗った衝撃波だった。

 必ずや、腕輪を取り戻してくれ──! 国王の願いを背に、何はともあれユーシャとエーダは急いでフアムを追うとともに山賊のアジトへ向かうのだった。




「あっ、いた!」


 ヒエンルナ城より西はニスニアール大陸北端の港から続く平原から一転して、砂塵が吹き荒れる荒野となっていた。

 緩やかに上がっていく坂道を進み、ごつごつとした岩場に差し掛かった辺りで一人山賊のアジトに向かおうとしているフアムを発見した。

 何故一人で立ち向かおうとしているのか? 追いつくや否やユーシャ達が訊ねると、少女は事も無げに答えた。


「腕輪を取って来るだけでいいんでしょ? 私一人で大丈夫だよ」

「取って来るだけって……山賊のアジトに乗り込むんだから戦闘になるかもしれないでしょ? 一人じゃ危ないわよ」

「そうだぜフアム。一人で何ができるっていうんだ」

「頭突き」


 ……。……あれ、本当に一人で何とかなりそう──鎧をへこませる程の彼女の攻撃なら人体であればひとたまりもないだろう。しかもアジトの勝手を知っているのはフアムだけで下手をすれば二人は足手まといになりかねなかった。

 どうしよう、本格的に存在意義がない──ユーシャがうろたえていると、助力を必要としていなさそうなフアムにエーダはなおも食い下がった。


「で、でもっ! 多勢に無勢じゃやっぱり危ないわよ! 大勢に囲まれたらどうしようもないじゃない!」

「そっ、そうだそうだ!」


 急に小物臭い腰巾着みたいになったユーシャを無視してエーダとフアムは顔を突き合わせて話している。エーダの説得をフアムは真剣な眼差しで聞いていた。

 

 私達だって囮くらいにはなれる──。


「私が裸にひん剥かれている隙に逃げて!」

「ただの妄想話になってるじゃねえか‼」


 いつの間にかエーダの頭の中ではアジトで山賊に囲まれて絶体絶命のシチュエーションという展開まで話が進んでいた。

 もしかしてこの女、いかにして全裸になれるかを常日頃から計算してるんじゃないだろうな──見られる事への執念にぞっとするユーシャはフアムに一人で背負わなくていいと優しく語り掛けた。


「不測の事態に備えて損はないさ。そうだろ?」

「……うん」


 ユーシャの言葉にフアムは素直に頷く。

 俺達を利用しようとして近づいてきたのなら、最後まで利用してしまえ──ユーシャは少女の目を見つめ、語気を強めて言った。


「フアム、一緒に行こう!」

「いいよ。二人とも急いで」

「あっ、よかったのかよ‼」


 そもそも淡々としているだけでフアムは頑なに拒否などしていない。自分のペースで行動している彼女を一人で解決しようとしていると二人が勘違いして勝手に盛り上がっていただけだった。

 二人を受け入れたフアムは再び山賊のアジトへ歩き出した。笑みを浮かべ、そして小さな声でつぶやく。


 その優しさが命取りになるのであった──。

「不穏なナレーションを入れるんじゃねえ」




 ここだよ──強風が吹き荒れる荒野を進み、岩山に挟まれた人一人がやっと通れるような道の先にある洞窟の入り口を、フアムは指差した。

 成程、人里離れた岩場で砂塵が舞い上がり視界も悪い。加えてこのような細道は何か目的でもなければ通ろうともしないので、強奪を生業としている悪党にとっては絶好の隠れ家だろう。

 ユーシャとエーダはフアムに続き洞窟に足を踏み入れる。入り口までの細道とは打って変わって、中の通路は三人並んでもまだ余裕があるほど広かった。


「こんな場所じゃ見つからないのも無理ないわね……」

「あぁ。山賊もよくこんな所を見つけたもんだな。それとも自分達で掘ったのかな」

「それなりに整備されている所を見ると人工洞窟みたいだけど、そんな労力を割くような人なら山賊なんてやらないんじゃない?」

「確かに。それはそうと、ここはもう山賊の腹の中だ。警戒して進もう。なあフアム──」


 ──だがしかし、フアムの姿はなかった。

 辺りをきょろきょろと見渡しながら会話をしている内にフアムを見失ってしまったようだ。


「あれ⁉ あの子さっきまで目の前にいなかった⁉」

「目を離したら消えるとか、あいつ幻影か何かか⁉」

「ここにいるよ」


 二人は絶叫した。気づけばいなくなり、気づけばそばにいる。神出鬼没のフアムは心臓に悪かった。

 大きな声出すと起きちゃうよ──そんなフアムの声に耳を傾けずに勝手に単独行動をした事を注意しようとすると、不意に視界に入ったフアムの右手にある腕輪を見て目をしばたかせた。


「……あの、それって……」

「これでしょ? 鼻歌交じりにぶらついてた時にお城に描いてあった模様がついてた腕輪を見た事あったんだよ」

「散歩感覚かい」

「フアムちゃん、山賊に気付かれなかったの?」


 この時間、あの人達は大体お酒飲んで寝てるから──飄々としている少女は山賊の活動パターンを完全に把握していた。強がりではなく、一人でも大丈夫だというのはしっかりと裏付けがあったのだ。

 ……。あっさり目的を遂げてしまった。ユーシャとエーダは何も貢献していない事に罪悪感を覚えていた。

 このままで胸を張って帰れるのか? 眠りについている山賊の捕縛でもして、何か手柄を立ててしまおうか──二人は目配せをして、意思を確かめ合う。そして──。


「…………。……帰ろっか」


 戦いになっても面倒だし──。

 

 ……。……こうして国王の腕輪の奪還に成功したフアムとその他の賑やかしは、ヒエンルナ城へと帰っていった。

「南へ」につづく。

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