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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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20話「ニスニアール大陸」

 空が赤く焼け始める夕刻。つつがなく航行中のユーシャ達を乗せた船はハウクトー大陸より西のニスニアール大陸北端の港に無事到着した。

 ここの港は船着き場以外には待合場を兼ねた宿屋しかなく、サンミアーク国領の港町コーロとは少し趣きが違うようだ。

 船着き場には船がもう一隻停泊していた。道すがらもすれ違うハウクトー大陸行きの船があったりと昨日の今日で船の往来がこうも活発になっているのかとユーシャ達は驚いたが、聞けば昨日、ユーシャ達が帰還後に疲れ果てて寝てる間にすぐさま出航禁止解除の通達と他国に魔物討伐を報せるための船を出していたのだった。コーロの住民の生活への大打撃に胸を痛めていたサンミアーク国王の迅速な対応である。

 船の整備中、久し振りに顔を合わせた船乗りと宿屋の女将が他愛ない話で盛り上がっていた。魔物が現れるまでは毎日会っていただけに数日だけでも話す事が積もっていたのだろう。

 女将の話の大半はこの港を含む一帯を統治するヒエンルナ国国王の愚痴だった。私達はやっとの思いで金をやりくりして生きているのに国王はそんな事気にも留めちゃあいないと。どうやらこの国の王は金を湧いて出てくるとでも思っているように散財するそうだ。港に立ち寄った兵士の話だとへこんだ鎧を修繕するでもなく倉庫に放置したままなんだとか。だったら自力で直して売り払って自分の懐に入れたいくらいだと女将は息巻いていた。

 

「そういえばお城の西の方を縄張りにしていた山賊がここら辺にも出るようになったらしいんだよ。船が出る前にちょっくらアンタがとっちめてきておくれよ」


 顔なじみの女将の無茶な注文に船乗りは苦笑いを浮かべるしかなかった。力には自信があるが喧嘩はからっきしなんだと、勘弁してくれと言わんばかりに顔の前で両の手を合わせていた。

 山賊はだいたい今くらいの時刻にこの港辺りをうろついているらしい。へこんだ鎧のくだりを話した兵士はその旨を伝えるためにこの港に立ち寄ったのだという。

 それならなおの事──船乗りは待合場の長椅子で休んでいたユーシャとエーダに声を掛け女将のもとに連れてきた。


「ユーシャ君、エーダちゃん。空も暗くなってきたし今日の所はここで休んでいってはどうかな。どうやら山賊が近くをうろついているようだし、わざわざ夜道を旅する事もないんじゃないか? ヒエンルナ城に行くにしろ、他を当たるにしても明日にでもすればいい」


 代金はこちらで払っておくから──この事を見越していたかのようになんと国王の命を受けた兵士から船乗りは宿代を受け取っていたのだった。

 女将さん、よろしく頼むよ──船乗りはそう言って船に戻り、ハウクトー大陸に向けて港を後にする。

 船乗り、ひいてはサンミアーク国王の気遣いを有難く頂戴し、二人は港の宿屋に泊まる事にした。

 そうかい、あんた勇者なのかい──会話の中でユーシャの素性を知った女将はどこか素っ気なかった。




「えぇ⁉︎ もう満室になっちゃいましたよ⁉︎」


 女将の話を聞いた宿屋の従業員は驚いた顔で声を上ずらせた。いつもは程々の客で賑わう港の宿だったが今日に限ってはつい先程の駆け込み客を受け付けて満室となってしまったようだ。

 女将の話が長くなければきっとユーシャが最後の一室を利用できただろうが、人の厚意に甘える手前、勿論そのような事は言い出せない。しかしそうなると野宿か、それとも危険を承知で旅立ってしまうか──思案している二人に仏頂面の女将が声を掛ける。


「住み込み用の部屋が一つ空いてる。今夜はそこで寝な」


 隣に納屋があって臭うかもしれないがね── 満室だからといってそのまま二人を追い出したのではばつが悪かったのだろう。女将はそのような気持ちはおくびにも出さず裏手の部屋に案内した。その際に船乗りから頂いた宿代をエーダに手渡す。


「この部屋は宿じゃあないからね。それで金を取るような阿漕な商売はしないよ。その金は懐にでもしまっておくといい」


 とりあえず今夜の寝床は確保出来た。ふうと息を吐くと、何だかお腹が減ってきた。ユーシャにとって船旅はやはり慣れないもので気分が思わしくなかったが、待合場での休憩と少し冷えた夜道で落ち着いた途端に腹がこなれてきたようだ。

 

「女将さん、何か食べるものないかな」

「そこらの草でも食べればいいだろ」

「シマウマか俺は」


 どうにも雑に扱われた。いや、雑というよりかは発言が刺々しい。何か気に障る事でもしただろうか。

 そうかい、あんた勇者なのかい──思えばあの時、軽蔑の眼差しを向けているようにも見えた。少年ではなく勇者というものを毛嫌いしている? どうにも気になる所ではあったが、ユーシャの関心はガサゴソと隣の部屋から聞こえる物音に移っていた。


「何の音だろ?」

「あぁ、隣の納屋にネズミでも忍び込んだんだろう。最近多いんだ……食うかい?」

「食わねえよ‼」

「あのっ……」


 エーダが二人の会話におずおずと入り込んできた。ユーシャはエーダの視線の先を見やると、そこにはベッドがあった。シーツ、枕、掛布団と綺麗に施されていて特に変哲もないようだが、女将に話し掛けるエーダは少し顔を赤らめていた。


「ベッド……一つしかないんですけど……」


 そういう事か──! 遅ればせながら気づいたユーシャは思わずあっと声を上げた。男女二人にベッドが一つ。この部屋は従業員の住み込み用の部屋で室内には箪笥と机と姿見、そしてベッドと一人暮らすのに最低限の家具しか用意されていなかった。


「あー……二人で寝るのは……さすがになあ?」

「ユーシャが……どうしてもって言うなら…………いいよ。来て」

「そんな流れじゃなくない⁉︎ 女将さーん‼ 他に寝具ない⁉」

「納屋の片隅に藁がある。そこで寝ればいい」

「ヤギじゃねえんだよ‼ そんな所で寝れるか‼」


 何だい知らないのかい──藁を家畜用だと思っているユーシャに女将はつらつらと述べる。どうやら他の国では下に藁を敷いて寝る所もあるらしい。


「すぐに家畜用だと考えるのは短慮だね」

「……そっか。それは俺が物を知らなかったな……女将さん、ちゃんと朝綺麗にするからここに藁持ってきてもいいかな」

「好きにしな。今はヤギがいなくなっちまったからね」

「やっぱり家畜用なんじゃねえか‼」


 さて──いつまでも油を売っていられないと女将は去り際にユーシャを──色々と盛んな年頃の少年を見て釘を刺した。くれぐれも──。


「私に手を出すんじゃないよ」

「出さねえよ‼」


 鼻息荒く去る女将の背中に、エーダは率直な印象を漏らす。


「ねえ……女将さん、あなたに対して態度が変じゃなかった?」

「……え? そう?」


 当の本人は全く気にも留めていなかった。

 鈍感力──。案外ユーシャの真骨頂はそこなのかもしれない。

 




「あれ、思ったよりふかふかだ」


 結局ユーシャは藁の上で寝る事にした。早速転がって寝心地を確かめてみると予想以上の快適さに驚く。さすがに素肌に触れる藁はチクチクするものの、箪笥の中にあった布を掛ければそれも問題ない。

 一方のエーダは女将がこの場を離れた後、途端にしおらしくなってしまった。

 今まで旅してきた二人だったが、思えば四畳にも満たない部屋──床面積も家具を除けば一人がやっと寝転がれる程度──で二人きりになるのは初めての事であった。

 僅かに聞こえる波音。程よい静寂とそろそろ寝る頃合いなのも相まって意識するのか、手狭な部屋でうつむきながら目を背けるエーダに、鈍感なユーシャも気まずくなってしまっていた。

 あ、あのっ──沈黙に耐えきれずエーダが口を開く。ユーシャはびくっとして彼女の方を見やる 。


「し、心配しないでっ! 大丈夫だから、私の服、脱ぎやすくしておくからっ」

「え? あぁそうそうそう緊張して手が震えちゃってさ! どうにも上手く脱がせられないんだよなってバカ‼ そんな心配してねえよ‼」


 頓珍漢なエーダの言葉の陰で、隣の納屋からやはりガサゴソと物音がした。女将さんが言ったようにきっとネズミよと言うエーダに、ユーシャはいや、と同調しない。ネズミにしてはやけに音が大きく感じたのだ。彼にはその理由が辺りの静けさに因るものとも思えなかった。


「……ちょっと確認しに行ってみようか」


 物音が気になるユーシャに怪訝な顔をするエーダはいちいち首を突っ込む事もないんじゃないかとやんわり諫める。女将も言っていたがこの周辺では最近山賊が出没するようになったのだ。物音の正体がそうだとすれば鉢合わせになってしまうであろう事をエーダは危惧していた。


「もしもばったり山賊に遭っちゃったら危ないわよ。きっと身ぐるみ剥がされて……。身ぐるみを……。……私が確認してこよっか⁉」

「お前こそ首を突っ込むなよ⁉」


 何だかエーダの貞操が危ない気がする──結局納屋の確認は断念して、二人は互いの寝床で眠りについたのだった。




 ──ユーシャ、食事の用意が出来たわよ。早く食べましょう──。

 

 食卓に着いたユーシャとエーダは用意された藁を黙々と食す。

 静寂に包まれる穏やかな朝。優しく心地良い香りを感じながら藁を大きく頬張るユーシャは向かいに座って食事を楽しんでいるエーダを見て違和感を覚えた。

 なんと、エーダは衣服を身に着けていなかったのだ!


「何で全裸になってんだよ‼」


 ──ハッとして目をぱちりと開けたそこには、食卓ではなく天井が広がっていた。ユーシャは自分の大きな寝言で目を覚ましたのだった。


 ──何だ夢か──。

 ぼーっと天井を眺めるユーシャに、エーダは心配そうに声を掛ける。


「ど、どうしたの急に……」

「いや、夢を見たんだけどさ……あれ、なんだっけ」

 

 目覚めた瞬間にすっかり内容を忘れてしまったユーシャを首を傾げながら不思議そうにエーダは見つめていた。変なの──エーダの言葉にユーシャも少し笑った。

 次第に頭が冴えてきたユーシャは自分が起こしてしまったのだと思い、ゴメンとエーダに謝る。

 ──そんなユーシャの目にはいつか見た生まれたままの姿の彼女が映っていた。


「何で全裸になってんだよ‼︎」

 

「ヒエンルナ城」につづく。

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