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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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16話「サンミアーク城」

 ハウクトー大陸南西部サンミアーク国領に存在する港町コーロ。元来は船や人々が往来する活気ある町だったのだが、周辺の海域に魔物が出現し、被害が広がらないよう船の往来が禁止されて以来人という人で賑わう町は生きる活力を奪われてしまっていた。この町の、そして自分達のためにも魔物を倒す──。二人は国王に出航許可を貰うべくコーロより北のサンミアーク城を目指す。

 サンミアークは大陸を横断するベリロング山脈を背に城壁の中に歴史を感じさせる城と町並みが広がるいわゆる城塞都市である。港町を後にしたユーシャ達は頑強な城壁に囲まれた城へと駆け足というには遅く、歩くというには速い足取りで向かっていた。エーダは焦りと緊張が入り混じった表情をしている。父が手違いで海に座す魔物に襲われる可能性が出てきたからだ。彼女の焦燥感が伝わってくるような歩調に後れを取るまいとユーシャが追いかける形で二人は進んでいた。そんな彼女を見て、ユーシャは思案に耽る。気が急くまま町を飛び出したのだが、時間が経って落ち着いてきたのか父の安否を気にかけるするエーダをよそに極めて冷静に現実的な観点でユーシャはエーダの父の事を考えていた。


 ──人類未踏の域に達しているっぽいお父さんならむしろ魔物を返り討ちにするんじゃね──?


 エーダの父は世界中を旅していた。人類未踏の地へ向かったと思えば、地球全土に広がる海をその身一つで泳ぎ回り、本人が発言通りに行動しているならば北極で全裸という心身ともにぶっとんでいる人間の極致とも言える存在だろう。しかしその娘はそんな化け物じみた父を本気で心配している。それは顔を見ずとも後姿だけでも十分伝わっていた。ユーシャは息を切らしながら歩くエーダを呼び止め、励ますように優しく肩をたたく。


「お父さんはきっと大丈夫だよ。それはエーダが一番わかってるんじゃないか?」

「ユーシャ……そう、かな? ううん、きっとそうよね。ごめんなさい取り乱しちゃったみたいで」


 ユーシャの気遣いに落ち着きを取り戻したエーダはかつての出来事を話してくれた。ある日、幼きエーダは父と母に連れられて山にピクニックに来ていた。家族団らんでランチを楽しんでいたその時である。美味しそうな匂いにつられてか、冬眠明けで気が立っている子熊が突如姿を現したのだ。泣きじゃくる娘。必死に子を守ろうとする母。そして……子熊を瞬殺する父。ほっとしたのも束の間、一家に安堵の時間は訪れてはいなかった。子熊の親が怒り狂って襲ってきたのである。さらに泣きじゃくる娘。必死に子を守ろうと抱きかかえる母。そして……親熊を秒殺する父。──命まで奪うつもりはない。だが、次に俺の前に姿を見せたら──熊の親子は父の台詞を最後まで聞く事なく逃げ出したのだった。


「そんなお父さんなら、きっと大丈夫よね……!」

「……お父さん、人間やめてない?」


 ユーシャに違う心配が生まれた。ユーシャはエーダの父のエピソードを聞く度に自分の存在感が薄まってゆくのを感じた。何だろう、自分という存在がとても粗雑に見える。──あれ? 俺って本当に必要なのかな。最終的に俺ではない誰かが魔王討伐を果たすのではなかろうか──? 励まされて幾分表情が柔らかくなったエーダをよそに、ユーシャの心は言い知れぬ不安に包まれていた。そうこうする間に、高い城壁に囲まれたサンミアーク城は目の前である。


「おぉ! ユーシャ殿ではないですか!」


 城門を警備している兵は姿を現したユーシャを見るなり快活に声を掛けてきた。サンミアークとはユーシャが生まれる前から交流があり、幾度となく訪れたユーシャも兵士と気心が知れた仲となっていた。最後にここへ来たのは数年程前になるがそれでもお互いに顔を合わせれば時間の壁を感じさせなかった。ユーシャは兵にサンミアーク城を訪れた経緯を説明すると二つ返事で玉座の間に案内してくれる事になり、それどころか兵によってはこのような非常時に頼もしいくらいだと歓迎されていた。門番兵はユーシャを見送ると、その後ろをついていく女の子を見やる。不思議そうに見返すエーダをよそに門番兵はユーシャに近づきひそひそと話し掛けた。


「ユーシャ殿、後ろの彼女は旅のお仲間……ですかな?」

「あぁ、エーダって言うんだけどさ、すごい頼りになるんだ」

「それは心強い限りですが、その、道中あまり羽目を外しませんよう……」

「またその心配かよ‼」


 関所の兵といい、どいつもこいつも要らない心配しやがって──。ユーシャは兵の小言にげんなりとしたが余計なお世話かと言われれば、オカノウエーの王子とサンミアークの王女の関係性を考えると決してそうとは言えなかった。だが今はそれよりも海の魔物を何とかしなければいけない。兵士に連れられて二人は玉座の間へ向かうのだった。


「おぉ、ユーシャよ! よくぞ参った! 何も便りを寄越さずというのは随分急ではないか」


 長い髭をたくわえた国王は久し振りに会う隣国の王子を温かく歓迎してくれた。ご無沙汰していますと挨拶を済ませ早速本題に入ろうとするユーシャだが、国王はクロイエが直に来るから話はその後でと、気が急く少年を制した。クロイエって──? 一体誰なのかとエーダがユーシャに訊ねようとしたその時、奥から足音が聞こえた。果たしてブロンドの髪をなびかせた美女が玉座の間に現れたのである。


「久し振りねユーシャ。今日は私の身と心すべてを奪いに来たのかしら?」

「開口一番がそれかい! 久し振りに会って言うセリフじゃねえだろ‼」

「相変わらず小気味いいツッコミをするのね。世界中の誰よりも『小』という字が似合ってるわ旦那様」

「そんなもんが似合ってたまるか」


 サンミアーク国王が笑みを浮かべながら二人のやり取りを眺めている傍らで、初めてこの場を訪れたエーダは目を見開いてユーシャの顔を見ていた。美女がエーダの存在に気付くと同時にユーシャも紹介がまだだったと、エーダの紹介と一緒にいる経緯を話した。国王と美女もエーダに挨拶をするも当の本人は固まっていた。挨拶を返さない以前にもはや言葉が届いていないという感じだった。──旦那様──? エーダはおそるおそるユーシャに綺麗なブロンドの髪をした彼女の事を、そして先の言葉の真意を質した。


「彼女はクロイエ。国王の娘でこの国の王女だよ。それで、えーと……俺の……許婚」


 ………………。


「えええええ⁉」


 その瞬間、エーダの顔が一気に赤くなった。蒸気でも噴き出すのではないかというような顔色をした彼女は心底恥ずかしがった。少年と僅かながらに過ごした時間が心地よく、少しでも一緒に居れたらいいと過酷な旅に同行した自分を恥ずかしいと思ってしまった。──まさか、将来を決めた相手がいただなんて──。エーダはいたたまれなくなり大声でごめんなさいと発してこの場を去ろうとした。──お待ちなさい──。そんなエーダをサンミアークの王女は呼び止めた。彼女はエーダの事を何も知らない。だが、一連の様子を見て、同じ女性として、ユーシャの旅に同行している女の子の気持ちを汲み取ったのだ。そして高らかに宣言する。──私は彼と人生を添い遂げる──と。しかしそれはエーダの心をいたずらに傷つけるためではない。クロイエはエーダに優しく語りかけた。


「ユーシャの側室は三人まで考えています。あなたは第一の側室として私が許可しましょう」

「俺の意思を差し置くなよ!!!」

「あっ、あっ、あの、ユーシャっ、ふふふ不束者ですがそのっ」

「ねえ待ってぇ‼ エーダさん一旦落ち着こう⁉ 人の言葉に流されちゃダメだよ‼ じっくり時間をかけて結論を出そう⁉」


 愉快だと国王は笑う。そして、城内の皆が笑い事じゃねえという少年の叫びを耳にしたのだった──。




 あくる日の朝。港町コーロの船着き場には新しい服を設えたユーシャと変わらずユーシャの旅に同行するエーダ、そしてユーシャの許婚であるクロイエの姿があった。昨晩の国王との話し合いの末にこの国で現在禁止している船の出航許可が下りたのだ。ただ──。


「はぁ⁉ クロイエも船に乗る⁉ いや、待ってくれよ! 魔物を倒すために行くのわかってるだろ⁉ 危ないから考えなおせって!」

「いいえ。今回現れた魔物はサンミアークの領海での話、つまりは我が国の問題なのです。あなたはマイダーリンとはいえ他国の人間です。この国の問題を他人任せにしてただ報告を待つなどとは民衆に示しがつきません。責任者として私が立ち会います」


 ……。シラフでマイダーリンとか恥ずかしくねえのか──。何よりそこが気になったがそれはさておき、ユーシャはこれ以上の反論は無駄だと押し黙った。この国の姫は一度こうだと決めたら頑なであると、そして幼い頃からこの国を背負う覚悟を持っている事を知っていた。自分が何を言っても聞かないだろう。国王は愛娘が危険が伴う航海に同行する事をどう思っているのだろうか──?


「問題はない。ユーシャよ、そなたがいる。何より」


 君の血を信じている──。国王が最後に付け加えた言葉の意味はよく分からなかったが、齢十六の少年をよくもまあそこまで信じてくれるものだ。兎にも角にもやるしかない。もしもの時は海の底で共に永眠しましょう──。そんな諦観しているクロイエの言葉も発奮材料になった。あとは操舵手の到着を待つのみ──なのだが、何分出航が急遽決まったもので、腕利きの操舵手の手配が遅れていたのだった。


「困ったものね。私は早く船に乗りたいのに」

「子供か。初めて乗るんじゃあるまいし」

「しょうがありません。本日は私が船の舵取りをしましょう」

「ええ⁉ クロイエお前そんな事出来んの⁉」


 クロイエはユーシャへ向けて穏やかに微笑む──。


「生まれて初めて船に乗ります」


 このままでは船が沈没する──。その場にいる者は皆、この国の王女の暴走を必死で止めた。

「海の魔物」につづく。

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