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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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1話「旅立ち 前編」

 遠雷が響く。

 夜空を裂く稲光はまるで凶兆を報せるようだった。




 とある大陸のとある一国、丘陵の上に位置するオカノウエー城。

 皆が寝静まり城内が静寂に包まれる中、城門にて些かの喧騒が聞こえた。そしてその後二つの足音がかつかつと響き、その音は徐々に玉座の間へと近づいていった。


「こんな時間に穏やかではないな。一体何があったというのだ」


 穏やかな夜半に似合わない慌しさを連れて眼前に現れた門番兵と友好国の兵士に不穏な空気を察したオカノウエー国王は厳しい面持ちで訊ねた。


「こっ、こんな時刻に参上仕るご無礼をお許しください……‼」


 そう言って二の句を継ごうとする兵士を国王は遮る。


「そんなに焦らずとも良い。どうやら火急の報せのようだが呼吸を整えるゆとりくらいはあるだろう」


 笑みを浮かべながら自身を落ち着かせようとする国王を見た兵士は切羽詰まって引きつっていた表情を緩めた。そして……


「で、一体どうしたというのだ?」


 ……。間髪入れずに国王が聞いてきた。

 ……? 今、呼吸を整えるよう促してくれたような……? 幻聴だろうか。


「どうした?早く言ってくれ」


 落ち着かせたり急かしたりと忙しない国王に困惑した兵士は半ば呆れながら伝える。


「先代勇者により倒されたはずの魔王が復活しました……‼」


「……!!! そ、そうか……」


 兵士の言葉を聞いた国王の表情は一層と険しさを募らせた。

 しかしそれは決して青天の霹靂ではない。


「門番兵よ。我が息子を……ユーシャを連れてまいれ!」


 ついにこの時がやってきたと、国王は意を決していた。そして兵士にも声を掛ける。


「遠路はるばるとご苦労であったな。今日はここで晩を明かすといい。おーい、他に誰かおらぬか」


 国王は部屋に案内するため自国の兵を呼びつけたが、しかし誰も来なかった。


「あの、他の兵は休暇を取っていますので今城内に兵は私しかおりません」

「へっ? そうなの⁉ えっ、そなた一人を残して全員⁉ 誰がそんな許しを出したの⁉」

「お言葉ですが国王。ご自身で許可を出しておられました。まぁ平和だからいいんじゃない?と言って……」

「えっ!!!……っ、ワシ、そんなこと言ったの⁉」


 オカノウエー国王は哀れにも自身が発した言葉さえ覚えていなかった。


 たとえ魔王が復活せずとも城を一歩出れば魔物がうじゃうじゃいるというのに、兵を一人残して他全員に休暇を取らせるとはくだを巻いた酔っ払いにすら劣る判断力のない愚行である。


「うん! しょうがない‼ では大臣、大臣はおらぬか?」


 過ぎた事は致し方なしと切り替えた国王は、次に大臣を呼びつけたが、大臣は来なかった。


「あの、大臣も一緒に休暇を取っておられます。国王が許可を出してました。ついでに沢山のお土産を期待しているぞと付け加えて」


 国王の記憶にございませんのやりとりを面倒くさがった門番兵は経緯を矢継ぎ早に並べる。

 国王は顎に手を当て少しうつむき、何かを考える。考えに考え、そして……。


「……大臣が何を買ってくるか楽しみだな‼」


 もはや現実逃避に近い言いぐさだった。


「……なぁ門番兵よ。オカノウエー国王って」

「何も言うな。何も……言うな。我らが国王は単に記憶力がなくボケていて抜けていてずぼらで雑でいい加減で心許ないだけの心優しき優秀な国王なのだ‼」


 この国は一刻も早く優秀の基準を見直した方がいい。他国の兵は魔王とはまるで関係ないところで絶望感に打ちひしがれた。





「国王! 王子を連れて参りました!」


 数刻後、門番兵に連れられて一人の少年が姿を現した。


「おぉ、彼が……。……⁉」


 門番兵の声に振り返った他国の兵はやってきた少年の顔を見るにぎょっとした。

 何故なら少年は憤怒を詰め合わせたような表情をしていたからだ。


「来たか息子よ。しかしどうした。何故そんな顔を」

「ッ今何時だと思ってんだ!!!」


 玉座の間に少年の怒声が響き渡る。どうやらベッドの中でうとうととしてようやく眠りに入るその瞬間に門番兵に起こされたらしい。

 門番兵は怯えていた。向かう途中にもし俺が鬼だったらとんでもないことになってるからな、と鬼の形相で睨まれたからだ。


「……っ!…………ごめん!!!」


 国王は堂々と謝った。その様は風格さえ漂っていた。


「……はぁ。ったく……こんな時間に何の用だよ」


 国王の堂々とした振る舞いに半ば呆れた少年は自分が起こされた理由を尋ねた。国王は窓の外を見やる。


「この空を見よ。お前は何も思わないのか?」

「……? いや、夜だなぁとしか思わないけど」

「ふむ、確かにそうだな……」

「……」

「…………」

「……?」

「……それだけ?」

「他に何があんだよ」


 オカノウエー国王とその息子はアホみたいな会話をなおも続ける。


「見よ! 世界はこんなにも漆黒に染まって」

「そりゃ夜だからな‼ 白夜じゃねえんだから暗くもなるでしょうね!!!」

「お前を呼び出したのは他でもない。他でも…………ないっ‼」

「そのタメはなんだよ。この前も言ったけどゴキブリが出たくらいで呼び出したんならビンタだからな」

「馬鹿者。ゴ〇〇リなどではない。今回出たのは魔王だ」

「あーそうかい。魔王ね……。……は⁉ 魔王⁉」


 ……まさか魔王もゴキブリと同じ並びにされるとは思いもよらなかっただろう。

 その点に関しては憐憫の念を禁じ得ない。


「魔王って……なんかけったいなイメージのあれか……? 出たって……何で?」

「何でってそれは……兵士よ、何故だ?」

「おそらく世界征服の他に何もないかと……」


 会話を重ねるごとに滑稽が極まっていく。

 

 とにかく、と国王は続ける。


「何はともあれ、魔王が十六年ぶり何度目かの登場だ」

「甲子園の出場校紹介か!……んで、だ。その魔王とやらが出てきた事と俺が起こされた事の何の関係があるわけ?」

「まったく、まだピンと来ないのか……お前の抜けたところは一体誰に似たんだか……ワシか⁉」

「うるせえよ。一人で問答すんな」

「息子よ。お前を呼んだのは他でもない。ちょっと行って魔王倒してきてくれ」

「……そんなおつかい感覚で頼む事なの⁉」


 しかも消耗品のストックがなくなったから程度のニュアンスだった。














「旅立ち 後編」につづく。

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