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9/22

けれどエルフと同じくらい長生きする方法なんて、どの本にも書いてはいなかった。

GW本番につき本日二回目の更新です


R15は保険なのですが、今話に保険を必要とさせた該当箇所がございます

ご注意下さい

 

 

 

「ごめんなさい、ジル」


 部屋に着き、長椅子に降ろされて、まず謝罪を口にした。


「少し文字を記憶するのが得意なくらいで、駒として利用価値が出るなんて、思いもしなかったわ。まして、ジルにまで手を出すなんて」


 辺境では、もてはやされることのない能力だったから。


 考える。


 試験の出来が問題なら、次から手を抜くと言う手もあるけれど、正直、どれくらいが普通なのかわからない。手を抜き過ぎて落第したら本末転倒だ。どうせもうその点で化けの皮は剥がれているのだから、試験は小細工せずに受けることにしよう。


 今日威嚇したことで、ジルに手を出すものがいなくなっていれば良いのだけれど。


「ねぇジル」

「はい」

「どこにも行っては駄目よ?ほかのなにがなくても良いけれど、ジルは一緒にいてくれなくては」


 私にはジルを引き留める権利も力もない。それでも、懇願する。


「必ず一緒にまた、ふたりで帰りましょう。あの、穏やかな場所へ」

「もちろんです。メアリさま」


 ジルが私の顔に手を添え、親指の腹で優しく頬をなでる。


「言ったでしょう。わたくしにとっても、メアリさまとふたりだけ、なにものにも脅かされない生活こそが、楽園であり幸福なのです」

「ありがとう」


 ジルの手に手を添えて、目を閉じる。


「でもね」


 本心でない言葉なんて、ジルの目を見ては言えない。


「あなたが望むなら、あなたは私を置いて、どこへ行ったって良いのよ」


 ピクリとジルの手が跳ねる。


「メアリさま」


 固い声が鼓膜を揺らす。


「そのように、男の前で目を閉じるものではありません」


 温かいものが唇に触れ、思わず目を開く。すぐ目の前に、ジルの大きな瞳があった。満月のような、金の瞳。


「ジ、っん」


 名を呼ぼうと割った唇が、私のものでない舌で塞がれる。頭を片手で掴まれて、ジルの手はこんなに大きかっただろうかと、場違いに思った。


 呼吸を奪われ、苦しくなる。息が上がる。


 ぱたぱたとジルの背中を手で叩いた。


 それでも解放はされず、意識まで溶けかけたころ、ようやくジルの顔が離れた。


 身体が必死で、空気を求める。


「っ、カヒュッ、ごほっ、ごほごほっ」


 慌てる身体は呼吸さえままならず、喉につかえた空気に咳き込む。


「大丈夫ですか、メアリさま」


 そんな私の背を、恨めしいほど正常な呼吸のジルがなでる。


「ごほっ、っんで、こん、な」

「許されるなら」


 こちらを向いたジルの目は、ぞくりとするほど真剣だった。


「今すぐあなたを連れ去って、どこかに閉じ込めて隠してしまいたいくらい、あなたが好きです、メアリさま」

「それ、は」

「今したような口付けなど生温いほどに、あなたを乱して、暴いて、ぐちゃぐちゃにして、わたくしのことしか考えられなくなれば良い。そう言う、好きです」


 ジルの言葉を、疑うつもりはない。ずっと一緒にいたのだ。嘘か本当かくらいわかる……と思う。今までそんな気持ちに気付いていなかったから、自信はないけれど。


 ジルは私が好きなのだ。だから、私が地位もなにもなくしても、愛して、養ってくれるつもりがある。


「こんなところ、出て行って、ふたりで暮らしましょう、メアリさま」


 けれど。


「駄目よ」


 その、愛は、いつまで続くだろうか。なにも成し遂げられず、与えられた役目もこなせない。そんな私が、いつまで愛して貰えるだろうか。


「貴族に生まれたからには、家と国を守る義務がある」

「貴族らしい暮らしなど、しては来なかったのにですか?」

「いいえ。今までの私の暮らしは、民の税であがなわれていたもの。この身は血肉の一滴に至るまで、私の自由にして良いものではないわ」


 名声も、人脈も、必要ない。けれど。


「メアリさま、「だから」」


 ジルの手を掴み告げる。


「父から命じられたこの役目だけは、全うする。無事に過ごして、ユラニア侯爵家を守る。けれど」


 一度だけでも、侯爵家の娘としての役目を果たせたなら、それで自分を許そう。そして。


「終わったら、それで今までの恩は返したことにするわ。ただのメアリになる。そのときまだジルの気持ちが変わっていなければ、残りの私の人生は、ジルにあげる」


 そのときジルの気持ちが変わっていないなら、たとえいつか捨てられても良い。ジルの手を取り望みを叶えよう。


「本気で、言っていらっしゃいますか?」

「本気よ。指切りしましょうか?」


 ジルの小指に私の小指を絡めて歌う。


「指切った。ね。私、約束は守るわ。ジルに嫌われたくないもの。だから、もう少し協力してくれる?私、ジルがいないと駄目だもの」

「あなたは、」

「嫌いになった?」


 それならそれでも良い。私はあの辺境に戻り、ジルは自由になれば良い。


 そう思ったのにジルは私を腕に閉じ込め、ぎゅ、と苦しいくらいに抱き締める。


「嫌いになんて、なりません。なれませんよ。日毎ひごと夜毎よごとに、あなたが愛しくなるのですから」


 私にとって、それは喜ばしいことだ。けれど、ジルにとっては、どうだろうか。


 ジルはエルフだ。私の残りの人生を全て捧げたとしてもきっと、ジルの人生の十分の一にもならない。


「賢者の石でも、作れたら良いのに」


 この学舎の蔵書は豊かだ。


 けれどエルフと同じくらい長生きする方法なんて、どの本にも書いてはいなかった。

 

 

 

つたないお話をお読み頂き、ありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

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