十年前に会ったはずの姉の姿を思い出そうとして、首を傾げる。
本日二回目の更新です
「はえー……びっくりだね……」
父の話を聞いたのち、ひとまずと客間に通された私は、無駄に豪華なソファに座って呟いた。
「まさかロゼが、そんなことになっているなんて」
これまた十年前に会ったはずの姉の姿を思い出そうとして、首を傾げる。なにぶん十年前なので、父以上に記憶に残っていなかった。双子なので、私に似てはいるのだろうけれど。
「引き受けるのですか?」
お茶を淹れたジルが、私の前にカップを置きながら問う。そのまま横に座るのは、私のわがままを聞いてくれた結果だ。
辺境の家にはジル以外にも使用人がいたが、みな日々の暮らしに精一杯で、お茶や食事に付き合ってくれる相手はジルしかいなかった。
ジルが私の侍従であり、家庭教師であり、友であり父母であり兄であった。
「国と、家の盛衰が掛かっていると言われると、さすがにね」
断るわけにも行かないだろう。
「家が没落しちゃうと、生活できなくなるし」
「メアリさまおひとりくらい、わたくしが養えますよ」
「あはは、ありがとう。嬉しい。でもねぇ、見て」
隣に座るジルに、両手を掲げて見せる。
日焼け知らず、手荒れ知らずの、白く細く柔い肌。
辺境でこんな手の持ち主は、私しかいなかった。
「この手じゃあ、家事も野良仕事も出来ないわ。今までは使用人がなんでもやってくれたから大丈夫だっただけ。使用人を雇うお金がなくなったら、私みたいな役立たずは、生きて行けないの」
ジルだっていつ、なんにも出来ない私に嫌気が差すかわかったものではない。ジルに頼って家を棄てて、そのジルにさえ棄てられてしまったら、それこそ路頭に迷って野垂れ死にだ。
「メアリさまは役立たずなどではありませんよ。お気付きでないかもしれませんが」
「ジルは相変わらず褒め上手ね」
くすくすと笑って、いつでもそばにいてくれる肩に寄り掛かった。
「ジルが一緒で良いと言うお話だし、期間が過ぎれば戻って良いのだもの。そう無茶なお話ではないわ。そうでしょう?今までただ生かして貰って来たのだもの、曲がりなりにも貴族の娘として、最低限の役目は果たさないと」
餓えも寒さも知ることなく、労働のひとつもせずに今まで生きて来られたのは、私が貴族の娘で、誰かが代わりに食い扶持を稼いでくれたからだ。与えられた分を還すことは、逃げてはいけない義務だろう。
「それがメアリさまの判断であるならば、わたくしは従いましょう」
「ありがとう」
それに、令嬢と従者でいる限りは、ジルがそばにいてくれるから。
つたないお話をお読み頂き、ありがとうございます
前話ほどでなくても今話も短い件
続きも読んで頂けると嬉しいです