名高い悪女も結局は、その程度の存在だった
R15該当話
そして私たちは毒を煽った。ロゼに盛られた毒を。私だけが飲むはずだった毒を。ジルとふたりで。
十二分な殺意を持って盛られた毒は、過たずふたりに牙を剥き、各国の叡智が集結しているはずの学舎の教職員たちの尽力も虚しく、その命を奪った。
学舎から祖国は遠い。気温の高い時期であったのも良くなかった。死んだふたりを祖国まで運ぶことは叶わず、祖国では申し訳程度の遺髪と、遺品を入れた棺が埋葬された。
はずだった。
ほどなくして、ユラニア侯爵が公表する。実は学舎の叡智により、ユラニア侯爵令嬢ロゼメアリのみ一命を取り留めていたこと。しかしロゼメアリには毒の後遺症が残り、とてもひと前に出られる状態ではないこと。
九死に一生を得たロゼメアリは、ユラニア侯爵領の神殿に身を寄せ、今後は心身を癒しながら、神官見習いとして余生を歩み出すと言う。
稀代の悪女として名を馳せたロゼメアリ・ユラニアの憐れな末路は、しばし世間の話題を賑わせ、しかしすぐに忘れ去られて行った。ひとの噂も七十五日。名高い悪女も結局は、その程度の存在だったと言うことだろう。
噂が飛び交うあいだは、誰がなぜ毒を盛ったのか、さまざまな憶測が飛び交っていたが、噂が下火になるにつれ、そんなことは誰も気にしなくなった。
誰が、なぜ、毒を盛ったのか。どうやって、ロゼメアリは九死に一生を得たのか。なぜ、生き残ったロゼメアリが死んだなどと言う情報が流れたのか。結局なにも明らかにはされなかったが、ひとつ、これこそが真実だとまことしやかに広く語られた噂がある。
いわく、毒を盛ったのはロゼメアリ自身で、恋する相手に思いが通じず、無理心中を計ったのだと。けれど死の淵でなお、恋する相手はロゼメアリを拒んだために、共に神の許へ行くことが出来ず生き残った。そして、命を賭してすら想いを受け入れられなかったロゼメアリは、自分だけが生き残ったことに絶望し、気が狂ってしまったのだと。
ひとびとはそれが真実かも知らぬまま、悪女の身勝手さを罵り、憐れな末路を嘲笑った。そんな噂も、長くはもたずに忘れ去られたが。
神殿に入れられたロゼメアリが、ふたたび表舞台に舞い戻ることはなく。
稀代の悪女はその派手な半生とは対照的に、ひっそりと余生を過ごし、誰とも心を交わさぬまま、若くしてこの世を去った。
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