実験用のメスなら使えるけれど。
昨日三回更新しています
「ロゼメアリ嬢」
廊下で呼ばれて振り向けば、王弟子息だった。彼に話し掛けられるのは、初めてだ。
「少し、話がしたい」
「なんでしょう」
「ここでは出来ない。僕の部屋へ。従者も一緒で構わないから」
通された部屋で王弟子息は、案じる目を私に向けた。
「毒を盛られたと聞いた」
「ええ、まあ。食べる前に気付きましたが」
「ああ。大事なくて良かったよ。犯人は、こちらで探す。危険な目に遇わせて、すまなかった」
王弟は王位継承権を持っている。順位は低いが、このご子息もだ。王族が臣下に頭を下げるわけには行かないのだろう。頭をこそ下げなかったが、伏せた目は謝意を示していた。
べつに、
「殿下の責では、ないでしょう。学舎の落ち度です」
「それでもあなたは、我が国の貴族だ。学舎に来ているのも、我が国の要請だろう。僕には王族として、民を守る義務がある。二度目がないよう、対策を、」
「今後の食事は、ジルに任せますので、お気になさらず」
私が作れたら良かったが、残念ながら生まれてこの方、鍋も包丁も持ったことがない。実験用のメスなら使えるけれど。
「それではそのあいだ、ロゼメアリ嬢の身を守れるものがいなくなるだろう。良ければ護衛を、」
「必要ありません」
答えたのは、ジルだった。
「お嬢さまのお世話は、すべてわたくしが」
「それで彼女になにかあれば、国際問題にもなりかねないのだよ。万全を、」
「お嬢さまを預けるに足る、信頼がありません」
「ジル」
その言葉は自国の王族に対して、失礼だ。
「わたくしのいないところで、他人をお嬢さまに近付けるなど、考えられません」
私の咎める声を無視して、ジルはきっぱりと宣言した。
見知らぬ護衛を付けたくないと言うことには同意するが、もう少し言い方があるだろうに。
「申し訳ございません、私の従者が失礼を」
頭を下げてから、ただ、と続ける。
「私はあくまで"ロゼメアリ"のスペアです。死したところでいかようにも誤魔化せますから、殿下の手を煩わせることはありません」
王弟子息が反論を返す前に、もちろん、と言葉を継ぐ。
「そうならないよう、細心の注意は払います。ひとりになるときは鍵の掛かった部屋に。出歩くことは致しませんし、ジル以外に戸は開けません」
はっきりと告げて、口を閉じる。
王弟子息は、私たちが折れる気のないことを悟ったのだろう。息を吐いて、せめて、と言った。
「護符だけでも持っておいてくれ。スペアがいようが、いまいが、知り合いが死ぬのは見たくない」
王族とは思えない善良な方だな。そう思いながら、差し出された護符を受け取ろうとして、
「ありがとうございます」
「ジル」
先んじて手を伸ばしたジルが、王弟子息から護符を受け取った。
「重ね重ね、従者が失礼を」
「いや」
善良な王族は、苦笑して首を振った。
「それくらい警戒が必要な状況と言うことだろう。主人を守る立場として、正しい姿だ。その調子でどうか、ロゼメアリ嬢を守ってやってくれ」
「言われるまでもないことです。わたくし自身の命よりも、大切な方ですから」
臆面もなく言いのけるジルに、釘を刺す。
「そうだとしても、命まで懸けて守る必要はないから、いざと言うときは自分自身の命を守るのよ」
「心得ております」
胸に手を当てて微笑んだジルが、王弟子息から受け取った護符を私に渡すことはなかった。
つたないお話をお読み頂き、ありがとうございます
一時間後にもう一話行きます
次は短いです
続きも読んで頂けると嬉しいです




