十年振りに会う父は、記憶より随分と老けて見えた。
十年振りに会う父は、記憶より随分と老けて見えた。
「ええと、侯爵閣下におかれましては、ご機嫌麗しゅう……?」
「ああ。久し振りだな、メアリ」
供をしてくれた侍従のジルにご挨拶をと促され、カーテシーを披露した私を見て、父はどこかほっとしたような顔で頷いた。
「ひどい怪我や病気をしたと言う報告は聞いていないが、不自由なく暮らせていただろうか。困り事はなかったか?」
「侯爵閣下がジルを付けて下さったお陰で、苦労のひとつもなく暮らせております」
父と言えどほぼ他人のような相手なので、受け答えもよそよそしくなる。
「そうか。不自由な思いをさせてすまなかったが、無事に暮らせているなら良かった。ジルも、娘をよく支えてくれていること、礼を言う。ありがとう」
対する父は、まるで父親のような口振り。いや、事実父親なのだけれど。
父に礼を言われたジルが、無言で頭を下げた。
私が一歳でこの家を出されたときから専属の侍従を続けてくれていると言うジルは、故郷を追われたエルフで、見た目には私とそう変わらない年齢だが、実際は父より年嵩らしい。美しい亜麻色の長髪に、満月のような金色の瞳。小柄で身軽で、見た目だけなら少年にすら見えるような外見をしている。
それにしても、なぜ私はここに呼ばれたのだろう。
追い出されて以来、私がこの家を訪れたのは十年前の一度きり。七歳の誕生日に、神官から洗礼を受けるため呼ばれたときだけだ。
七つまでは神の内。この国では七歳でやっとひとりの人間として認められるため、七歳の誕生日を迎えて初めて洗礼を受けられる。普通であれば神殿に行って受けるものだが、貴族の場合は家に神官を呼んで洗礼式を執り行うことも多い。
私は対外的には存在しない子供のため、神殿で洗礼が受けられず、姉の洗礼式に隠れてついでに洗礼を受けさせて貰った。
それ以外では家に呼ばれることも、家族が私の住まいを訪ねて来ることもなく。手紙の一通ですら、この家との関わりはない。もちろん資金的な庇護は受けていたし、父の口ぶりから予想するに、どうやらどこからか暮らしぶりの報告は行われていたようだが。
内心首を傾げる私に代わって、ジルが口を開いた。
「それで、此度はどのようなご用向きでメアリさまを?」
「ああ。心苦しいこと、なのだが」
父が歯切れ悪く言いよどむ。
「メアリ、ジル、お前たち、"ロゼメアリ"の噂は知っているか?」
"ロゼメアリ"?
「いいえ。噂も届かぬ辺境の、山奥で暮らしているもので」
今度こそ実際に首を傾げた私の言葉を、ジルが代弁した。
「ロゼメアリって、侯爵令嬢のことですよね。なにか良くない噂でも?」
ロゼメアリ・ユラニア侯爵令嬢。ここ、ユラニア侯爵家直系のご令嬢で、対外的には四男一女のユラニア侯爵家、唯一の娘だ。
私の双子の姉である、ロゼが対外的に名乗っている名前である。
つたないお話をお読み頂き、ありがとうございます
完結まで書き上げてから投稿しているので
今作は予約投稿期間中に垢BANでもされない限りはエタりません
投稿も滞りません
やったね!
なんなら短編で投稿しても良かったくらいの
短いお話なので
最後までお付き合い頂ければ幸いです
細かく区切って完結まで日刊で行きます
一話の文字数がまちまちで
短いものは二百字ギリギリです
あらかじめご了承下さい
続きも読んで頂けると嬉しいです