第368話 これがわたくしのカリスマ性ですわー!
大阪ダンジョン攻略から、はや十日。
やたらと丁寧な文言で招聘されたアーデルハイトは、クリスを伴って探索者協会渋谷支部を訪れていた。
月姫達『†漆黒†』の活躍により、渋谷ダンジョンは既に資源ダンジョンと化している。
立地や規模などから、予てより人気の高かった渋谷のダンジョンだが、その人気には一層拍車がかかっていた。
階層主の有無など、大半の探索者には関係のない話だ。あちらの世界の冒険者とは異なり、現代人はより安定を求めているからだ。
それが良いことなのか、悪いことなのかは置いておくとして――――ハイリスク・ハイリターンを望む一部の強者を除けば、より楽に資源や素材が得られる環境のほうが好まれるのは当然だった。つまり何が言いたいかと言えば、アーデルハイト達が姿を見せた時、それはもう大変な騒ぎになったということだ。
「見ましてクリス、これがわたくしのカリスマ性ですわー!」
「はいはい、分かりましたから早く入って下さい。きっともう皆さんお待ちですよ」
「大変に気分がよろしいですわー!」
元より人気急上昇中、話題沸騰状態の異世界方面軍だったが、先日の大阪ダンジョン配信によってその熱は加速。
そんな状態で突然姿を見せたものだから、人気アイドルのゲリラライブも斯くやといった盛り上がりであった。協会に顔を出しただけでこれほど騒がれるなど、それこそ『魅せる者』や『勇仲』といったごく一部のトップ探索者のみ。そんな憧れの存在へと異世界方面軍もいよいよ上り詰めた、その証左と言えるだろう。
そうして気分を良くしたアーデルハイトがファンサービスに勤しむこと暫し。
待ち合わせ時間を十五分ほどオーバーし、漸くアーデルハイト達は目的地に到着した。
目的地といっても、同じ支部内の応接室だ。支部の玄関から数十メートル、階段をひとつ上がった二階の突き当り。案内係の職員がドアを開ければ、そこには三名の職員が席についていた。おまけに、一人を除いて顔見知りであった。過疎地を遠征していた結果だろうか、或いは騒ぎばかり起こすからなのだろうか。とにかく、協会への伝手だけはやたらと多いのだ。
テーブルの左端に、最も付き合いの長い伊豆支部長の国広燈。
その反対側、テーブル右側には渋谷支部長の花ヶ崎刹羅。
そして最後、やたらと顔の怖い筋骨隆々のおじ様がテーブル中央に。彼こそが探索者であれば誰もが顔を知る男、探索者協会本部長の不二総一朗である。まぁ、アーデルハイト達はもちろん知らなかったのだが。
言わずもがな、錚々たるメンバーである。
そんな者たちがわざわざ待っているあたり、協会内に於ける異世界方面軍の立ち位置は自ずと知れることだろう。
「遅れてしまい、大変申し訳ございませんわ。わたくしの溢れるカリスマが、無辜の民を魅了してしまったようですわ」
「なに、構わんよ。それに大阪の件ではこちらも世話になった。招聘に応じてくれただけでもありがたい」
よく分からないアーデルハイトの言い分にも気を悪くすることなく、穏やかに対応する総一朗。
どこぞの悪徳貴族でもあるまいし、馬鹿げた理由で難癖をつけたりするような男ではない。
「さて、直接顔を合わせるのは初めてか。私は不二総一朗、探索者協会の会長をしている者だ。先日は依頼を受けてくれて助かった、心より感謝する」
「あら、一目見たときから只者ではないと思ってはいましたけれど…………」
「はっは、ただのロートルだよ。では早速で申し訳ないが、本題に入っても?」
「よろしくお願いいたしますわ」
挨拶もそこそこに、威厳たっぷりの瞳でじっとアーデルハイトを見つめる総一朗。
受けた礼儀は同様の礼儀で返すのがアーデルハイトの主義だ。いつものように茶化す――彼女にそのつもりはないが――ことはなく、騎士団長モードで対応するアーデルハイト。こうして今回の呼び出し――――つまりは例の転移門について、今後どうするべきかの相談が始まったのだった。
* * *
「つまり、君たちはアレを破壊するべきだと?」
眉を顰め、少々困ったような表情を浮かべる総一朗。
突如現れた転移門について、地球サイドに属している彼らにはあまりにも情報が足りていなかった。
故によく事情を知っているであろう、アーデルハイトたちを呼び出したのだが――――正直なところを言えば今この瞬間まで、協会側は門の調査と活用を考えていた。配信時に語られた話が真実ならば、あの門の向こう側には未知の世界が広がっていることになる。ことダンジョンに関連する事であれば、地球よりも遥かに理解が進んでいるであろう世界がまるまるひとつ、だ。
もしふたつの世界を行き来出来るというのなら、資源や技術など、得られるものは計り知れない。
無論様々な問題点はあるだろうが、しかしアーデルハイト達を見て、少なくとも異世界人と関係を結ぶこと、それ自体には問題がないと判断していた。
「ええ、絶対に残しておくべきではありませんわ」
が、それを受けたアーデルハイトの答えはノー。
門をあのままにしておくべきではないという、明確な反対意見であった。
「ムゥ…………一応、理由を聞いてもいいかね?」
総一朗の疑問は当然だ。
ダンジョンから産出される資源や素材は、現代世界に於いても既に重要な役割を担っている。仮に――――もしも仮に、異世界人との交流が上手くいったのなら。安全かつ大量にダンジョン資源を輸入出来るかもしれないのだ。それはこの国にとって、ひいてはこの世界にとって大きなメリットになる。反対されたからといって、『はいそうですか』と簡単に諦められるような話ではない。
そんな総一朗の疑問に、アーデルハイトから引き継ぐ形でクリスが解答する。
「まず第一に、魔物の存在です。あちらの世界ではダンジョン外、つまりはそこらの森や山にも魔物が生息しています。あの門がどこに繋がっているかは分かりませんが、最悪の場合は門から魔物が出現する可能性があります。もしそうなった時、こちらの世界では対応が難しいかと」
「むっ…………だが門があるのはダンジョン内だ。であれば、現状とそう変わらないのでは?」
「いえ、こちらの世界とは魔物の基本的な強さが違います。これはお嬢様も、そして拳聖ウーヴェ様も同意見です。こちらの世界で言う階層主クラスの魔物が、門を抜けてぞろぞろと湧いてくる可能性があります」
「それは…………厄介だな」
そう、これはアーデルハイトがこちらの世界へやって来た時にも感じたことだ。
例えばゴブリン一匹とってもそう。あちらのゴブリンとこちらのゴブリンでは、明らかに個としての強さが違う。加えて、そこらを闊歩している魔物の種類も異なる。そして何よりも、あちらの世界の魔物はダンジョン外でも活動出来るのだ。
戦えるのはごく一部の者のみで、おまけに銃器の類が通用しない。
よしんばダンジョン外では一定の効果があったとして、しかし銃器を街中で使用することは当然出来ない。魔物が大挙して押し寄せ、ダンジョン外にまで溢れる可能性はゼロではない。そうした状況になったとき、こちらの世界の人間に対応が出来るのか。
答えはノーだ。
何故なら、こちらの世界には『魔法』が普及していない。戦える人間の絶対数が圧倒的に足りていない。
所詮は確定していないもしも話に過ぎないが、もしもが重なった時のことを考えれば、リターンよりもリスクが勝ってしまう。
「ところで今、『まず第一に』と言っていたが…………」
「はい」
「他にも理由があるということかね?」
「たくさんありますよ?」
あっけらかんと言い放つクリスに、思わず頭を抱える総一朗。
どうやら異世界交流というものは、彼が思っていたより何倍も困難なものであるらしかった。
早いもので、今年もあと僅かですね!
年内の更新は恐らく、出来てあと一回といったところでしょうか。
お気づきの方もいるかと思いますが、本作は既に最終章に入っております。
当然ながらこれからも頑張りって参りますので、是非最後までお付き合いくださいませ!
仕事の都合によってはこれが最後の更新になるかもしれませんが、その際は近況ノートにて事前にお知らせしたいと思っております(大嘘(前科アリ
それでは、メリークリスマス!




