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第332話 ポンコツ系朴念仁

 先の閃光魔術シャイニングウィザードを皮切りに、目に付いた魔物達を根こそぎ刈り取ってゆく一行。無用な戦闘を避けるのがダンジョン探索の基本な筈だが、しかし今回に限っては違う。『完膚なきまでにボコボコにする』というアーデルハイトの宣言通り、見敵必殺方式が採用されているからだ。


 無駄な戦闘を避けるどころか、魔物の気配を感じた途端に大喜びで突撃してゆく同行者達。特に『魅せる者(アトラクティヴ)』の活躍は著しく、中でもレベッカのはしゃぎぶりは凄まじかった。


 普段のダンジョンとは異なり、浅層からオーガが出現するような異常事態。しかし米国産のヤンキーは、知ったことかと言わんばかりに魔物を蹴散らしてゆく。そんな様子がリスナー達に好評で、同時視聴者数は既に大変な数字になっていた。


 さもありなん。

 今この場に居るのは、人気の高いトップ探索者ばかりを集めた、いわばドリームチームだ。加えて『魅せる者(アトラクティヴ)』目当ての海外勢も大量に流れてくる。つまり、これまでの配信とは規模からして異なるというわけだ。


 そうしてダンジョン探索が順調に進む中、何やら真剣な顔でぶつぶつと呟く男が一人。先のアーデルハイトの戦いを見て以降、ウーヴェはずっとこの調子であった。


「……恐ろしい技だ。足を踏み台にすることで相手の動きを封じる。何よりも展開の早さだ。ほんの僅かな時間で、立て続けに相手へと選択肢を叩きつけることが出来る。一手誤れば首が飛ぶと考えれば、対人技としては相当にレベルが高い」


 戦闘狂の彼にしては珍しく、周囲で行われている魔物狩りにはまるで興味がない様子。この程度の魔物と戦うよりは、先ほど見た閃光魔術シャイニングウィザードとやらの考察を行うほうが、まだ有意義だと考えたのかもしれない。


 そんなウーヴェの若干気持ち悪い姿を眺めつつ、月姫(かぐや)はクリスに問いかける。米産チンピラ達が大暴れしているおかげで、思いのほか暇なのだ。


「……なんか拳聖さん、すっごい悩んでますよ?」


「あの方はストイックと言いますか、根が真面目ですからね。こちらの世界に来てからは、なんというか、その……ポンな部分ばかりが目立ちますが」


「でも、良いんでしょうか。折角の新技なのに、あっさり解析されちゃうんじゃ……」


 そっと視線を前方へ向ければ、そこにはヤンキー達と一緒に魔物を蹴り飛ばしている師匠アーデルハイトの姿が。その楽しそうな表情ときたら、自身の必殺技が丸裸にされることなど、まるで危惧していない様子であった。


「問題ありませんよ。恐らく、あの技は二度と使われないでしょうし」


「えっ」


「新技だの必殺だのと嘯いていましたが、とどのつまりは最近目にしたモノを真似しただけです。アニメや漫画に出てくる必殺技を真似したくなるのと同じですよ」


「あー!確かに私も、小さい頃はよく真似してました!」


「あの感じだと、多分もう飽きてますね。というか……下手をするともう忘れてるかも知れません」


 クリス曰く、アーデルハイトにとって剣技以外の全てはお遊びであるとのこと。彼女にとっての絶対は剣技に他ならない。足技や徒手空拳による攻撃を行うこともあるが、それらは剣技を活かすため、剣技へ繋げるためのものに過ぎない。格下相手の遊びでもなければ、剣技以外を決め手(フィニッシャー)とするなど、天地が返ってもあり得ないのだ。


「え、じゃあ拳聖さんの考察は……?」


「残念ながら無意味ですね」


 月姫(かぐや)がウーヴェの方へ視線を送る。

 未だブツブツと対策を講じている拳聖へと、彼女は心の中で静かに合掌した。




       * * *




 梅田ダンジョン十階層。

 階層主が大きな音を立てながら、その巨体を地面に身を横たえた。


 ここの階層主は『単眼の巨人(キュクロプス)』と呼ばれる魔物であった。単純な強さがどうというよりも、その巨体を活かしたリーチと強靭な耐久力が厄介だと言われている。強さでいえば、一層で出現したオーガよりも少し上といったところだろうか。初級のパーティならば死闘、中級で苦戦、上級パーティともなれば問題無く倒せる、といった程度の相手である。


 そんな『単眼の巨人(キュクロプス)』の死体には、まるで衝角で貫かれたかのような風穴が空いていた。他に外傷は見られず、ただの一撃で倒されたことが見て取れる。こんな芸当が出来るものなど、異世界からやってきたイカれ七人衆以外にはあり得ないだろう。


「やっぱいつ見てもスゲェなァ、オイ」


「ぬぅ……俺もいつかあのくらい出来るようになるだろうか?」


 レベッカが素直に感嘆し、ウィリアムはそのあまりの光景に冷や汗を流す。どちらかといえば、ウィリアムの反応こそが一般的であろう。レベッカはどうやら、既に感覚が麻痺しているらしい。それほどまでに凄まじい一撃であった。


 :ひぇ……

 :こういうの見ると、やっぱ団長と同じ枠なんやなって……

 :誰だよモザイク系男子とか言ってネタにしてたやつ……

 :完全に漫画とかゲーム世界のそれなんよ

 :いや、こないだの模擬戦でヤバさは分かってたろw

 :こんなんが店員やってる世紀末ファミレスがあるらしい

 :なお店長らしき女性に引きずられていく光景がデフォ

 :店長最強説浮上


 再び見せつけられたウーヴェの強さに、リスナー達は改めて恐怖した。アーデルハイトの性格や振る舞いは、既に多くのものが知るところである。しかしウーヴェは謎が多く、情報らしい情報が殆どないのだ。おまけに彼は寡黙で、我が道を征く孤高系男子である。愉快で華のあるアーデルハイトと違い、得体の知れない部分がウーヴェにはある。有り体に言えば、ちょっと不気味で怖いのだ。


 実際にはただのポンコツ系朴念仁なのだが。


「あら……腕は落ちていないようですわね。わたくしがボコボコにしてしまったせいで、しょぼくれているかと思いましたのに」


 先ほど出番を譲ってもらった事もあってか、今回のアーデルハイトは後方腕組勢と化していた。偉そうに鼻を鳴らしながら、悪役令嬢っぽいコメントを零す。偉そうに組んだ腕の上で、双丘が偉そうに揺れる。


 しかしそんなアーデルハイトのコメントにも、ウーヴェは一切の反応を見せなかった。ただ顎に手をあて、真剣な表情で思索に耽るばかりである。


「……待て。回避する方法ではなく、逆に攻撃へと転じるべきでは? 足へと拳を叩き込めばどうだ……? 重心が残っている以上、回避は困難な筈。そうして体勢を崩したところで、必殺の一撃を―――」


 ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、隊列の最後尾へと戻ってゆくウーヴェ。その姿はミステリアスというより、もはや単なる陰キャであった。


「あ、またブツブツ言ってる。無駄なのになぁ……」


 そんなウーヴェへと、月姫(かぐや)は再び合掌を送るのだった。

もうちょっと話が進むはずだったんですけど……

気がつけばポンコツの話だけで一話使ってしまいました……


PS.味噌飽きました

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― 新着の感想 ―
団長の組まれた腕の上にある柔らかいモノに顔を乗せたいです
練り梅良いですよ。食中毒予防にも。
味噌の種類を変えてみてはどうでしょう。我が家では麦みそを使ってますね
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