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第326話 あァン……?

 空いた皿等は既に片付けられており、現在は食後のコーヒーやお茶などが残るのみとなっていた。アーデルハイトは久しぶりの外食に大層ご満悦の様子で、優雅に紅茶を飲んでいる。正真正銘の公爵家令嬢だというのに、随分と安上がりなことである。


「で、まァそういうこったよ」


 そんな中、レベッカが煙草を燻らせながら、指でテーブルをこつりと叩く。

 

「成程、つまりはコラボの再オファーというわけですね」


 今回彼女らが異世界方面軍を呼び出した理由とは、つまりそういうことであった。以前、アーデルハイト達が『魅せる者(アトラクティヴ)』と初めて出会った時。オファーの話自体はその時にもあったが、まだまだ異世界方面軍が弱小配信者だったことや、ウーヴェ絡みの面倒事など、なんだかんだと理由をつけて断ったのだ。


 以降はレベッカがウーヴェに弟子入りし、腕を磨く事に夢中となっていたこともあり、コラボ云々の話が出ることはなかった。だがここに来て再び、オファーの話がやってきた。


「まァ、まだまだ姫さんや旦那には及ばねェかも知れねェけどよ……そろそろ足を引っ張らねェ程度には動けるだろうって、旦那からお墨付きが出たワケよ」


 レベッカがそう言いながらひらひらと手を振る。それを受け、アーデルハイトがちらりと厨房の方へ視線を送る。そこには無表情のまま、ただ黙々とチャーハンを炒めるウーヴェの姿があった。


 アーデルハイトが紅茶を飲みながら思案する。ウーヴェの実力とストイックさはアーデルハイトも知るところであり、弟子だからといって情に流されるような男ではない筈だ。あの修行ジャンキーのウーヴェが言うのであれば、恐らくは本当に『使えるようになった』のだろう。


 たかだか一年程度で何が変わるのかと、あちらの世界に居た頃ならばそう考えていたことだろう。強さとは一朝一夕で身につくものではなく、日々の鍛錬と血の滲むような努力、そして死線を潜った経験こそが重要なのだから。


 だがこちらの世界には『レベルアップ』なる怪しい現象が存在している。こと身体能力という点に関してのみ言えば、たった一年で『使える』ようになったとしても不思議ではない。なにしろアーデルハイトの弟子、月姫(かぐや)がそうなのだから。アレもこの一年で随分と強くなった。つい先日、ダンジョンをクリアして見せたのがその証左である。もちろん、魔法を始めとした様々な異世界技術のおかげもあるだろうが。


 アーデルハイトがちらりと、上目でレベッカを見やる。

 成程確かに、初めて出会った頃とは随分と雰囲気が違う。恐らくは月姫(かぐや)と同程度、或いは下地と経験の分で、僅かながら月姫(かぐや)に先んじているかもしれない。であればこそ、今回のオファーには断る理由がなかった。


「よろしいのではなくて? 初めて出会った時と比べて、わたくし達の状況も立場も変わっておりますし、何より――――随分と強くなったようですわ。ウーヴェもあれで意外と、ちゃんと師匠が出来ますのね」


「おっ、姫さんからそう言われるのはなんだかんだでやっぱ嬉しいねェ」


「見違えましてよ。始めの頃はただの『粗野でガサツなヤンキーゴリラ』といった印象でしたけれど……今はあちらの世界の冒険者と比べても、ほとんど差がありませんわ」


「あァン……? ンな風に思ってたのかよ……」


「少しだけですわ」


 アーデルハイトが目を閉じ、紅茶を口に含む。

 現代に於ける探索者の実力向上。これはアーデルハイトやウーヴェといった、異世界人がこちらの世界に齎した変化のひとつだ。その他、莉々愛(りりあ)に行ったポーション製造技術の贈与などもある。それらは意図して行ったことではあるが、果たして正しい行いだったのかどうかは今でも分からない。


 異世界の力が加わることにより、本来想定されていたシステムを覆してしまうこともあるだろう。例えば運営さん(オルヴィス)が用意していた試練のように。二つの世界のパワーバランスがどうのこうの、などというのはファンタジーではよくある話。そこのウサギ(オルヴィス)が何も言わない以上、恐らくは大丈夫なのだろうが――――ひとつの世界に影響を与えたという事実は、アーデルハイトを以てしても少々重いものらしい。


 ともあれ、だ。

 そんなあれこれなど、考えたところで分からない話。本当にマズければ運営さん(オルヴィス)から警告が出るだろう。アーデルハイトはそう考え、悩むことを放棄した。


「それで? 何か企画は考えてありますの?」


「おうよ! アタシらは探索者だぜ? そりゃあ当然、ダンジョン配信だろうがよ。ンでもって、今をときめく異世界方面軍と『魅せる者(アトラクティヴ)』の初コラボだ。盛大にやンねーとなァ!」


 そうして一行は、コラボに向けた打ち合わせを開始する。

 本来であれば、食事を済ませた後はさっさと退店するべきなのだが――――客引き効果が絶大なおかげか、東雲店長から文句を言われることは終ぞなかったという。




       * * *




 とあるダンジョンで、探索者達が会話をしていた。


「ふぅ……今は何階層だったかな」


「今の階層主で二十階層突破よ、大和。このダンジョンでは新記録ね」


「よしっ。最近はアーさ――――異世界方面軍や『†漆黒†』に、勢いで負けていたからね。ここらで僕らも目立っておかないと」


「まーなー、あいつらマジで勢い半端ないもんなー」


「あたし達もここらで一発、ダンジョン制覇しておきたいよね」


「そうだね。別に勝った負けたをするつもりはないけれど、僕にも長年トップを張っていた意地がある。年長者としての威厳を見せるためにも、ここでびしっと決めておきたいね」


「あら。年長者っていう程、歳を取ってるわけでもないわよ?」


「あ、いやゴメン。別にそういうつもりじゃあなくって……」


「いいわよ別に。確かに私はもう29だし、あの子達に比べればオバサンみたいなものだもの。ええ、ええ。怒ってなんていないわ」


「え、えーっと……そう! 休息! ほら、みんな階層主戦で疲れたよね? うん、よし、ここらで休憩にしよう!」


「おっ、じゃあ飯にしようぜー!」


「うんうん。じゃあ早速――――ッ!?」


「ん? 大和? どうかした?」


「なんだよ急に黙って――――……は?」


「なになに、どうした……ちょッ、何よアレ!? あんなの見たこと無いッ!! っていうか一体何処から――――」


「休憩中止!! 全員撤退!! 急げ! アレはどう見たって手に負えない!!」


「ちょ、待って!! まだ装備置きっぱなしだって!」


「クソ、何なのよコレは!?」


「いいから早く走れ!! 死にたいのかッ!?」


 そうして帰還した彼らが齎した情報は、すぐに全国の協会へと共有された。これにより当該ダンジョンは一時閉鎖。協会によって急遽、対策本部が発足される事態にまで発展する。しかしそれまでに発生した被害は凄まじく、たった一体の魔物が齎した被害としては過去最大のものになったという。

たまには台詞ばっかりで表現してみるなり

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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剣聖悪役令嬢、異世界から追放される 勇者や聖女より皆様のほうが、わたくしの強さをわかっていますわね!

― 新着の感想 ―
勇仲普通に強いですね。 他作品だとパーティー全滅するんでしょう。そして大和は絶対に死ぬ。 大丈夫、大和!仇はアデ公がうってあげます!(まだ死んでねえ)
いまは、人生50年でもなし、29はおばさんじゃあないよね!(確信)
チャーハンってレンジでチンじゃないんだ
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