第322話 アンチもいるんスよ
その報せが届いたのは、出雲から戻って半月ほど経った頃だった。
「な、なんですってー」
「見事な棒読みですね」
アーデルハイトが見つめる先には、クリスの私物であるノートパソコンがあった。こちらの世界に来て以降、すっかりアーデルハイトのネット巡回専用機と化していたアレだ。画面に表示されているのは、とあるネットニュースの記事。その見出しには『渋谷ダンジョン、ついに攻略される』とあった。
「まぁ、時間の問題だとは思っていましたわ。そうでなければ、あの子を鍛えた甲斐がありませんもの」
「ですが、予想よりも随分早かったですね。やはり才能でしょうか」
「才能の一言で片付けるのは失礼ですわ。わたくしの指導にしっかりと付いてきたことと、あの子自身が努力を怠らなかった結果ですもの」
そう。二人の言葉からも分かるように、渋谷ダンジョンの攻略を成したのは『†漆黒†』であった。国内探索者ランキングで長年不動の一位を保ってきた『勇仲』ではない。結成からまだ数年という、まだ『若手』と呼んでも差し支えのない彼女らである。腕を組み、まるで自身が成したことであるかのようにドヤ顔を披露するアーデルハイト。組んだ腕に押し上げられ、彼女の見事な乳もまたドヤりと揺れる。
世界で三番目となるダンジョンの制覇が、またもや日本で達成された。当然ながら話題性は大きく、探索者界隈では既に大騒ぎとなっていた。アーデルハイト達が見ているのはネットニュースのひとつだが、実際にはワイドショーや新聞などでも取り上げられている程。
それもそのはず。
初のダンジョン制覇者は得体の知れない『自称異世界人』だし、二番目に至っては制覇者不明なのだ。純粋な国内探索者の手によるダンジョン制覇は、実質これが初めてのこと。加えて『†漆黒†』は軽井沢にて、人災という不運にも見舞われている。そうした逆境を乗り越えての今回だ。元々高かったパーティの人気と相まってか、それはもう大騒ぎであった。
記事のトップには、いつものように無駄に格好を付けた四人の姿が。その先頭に写っているのは、クールを装いつつも、しかしどうしても笑顔を抑えきれない様子の眼帯少女であった。
「いやースゴいッスねー。ほら、スレもお祭り状態ッスよ」
「……む。ここ、悪口もかかれている」
「まぁ、アンチなんてのは何処にでも湧くッスからね。あのパーティは言動がフザケてるもんで、それなりにアンチもいるんスよ。そのくせ容姿も良いっていうんで、殆どがみっともない嫉妬ッス」
「よかろ、レスバだ」
そう言いながら、カタカタと激しくキーボードを叩き始めるオルガン。どう考えても目出度い出来事だが、誰もが皆彼女らを褒め称えるわけではないのだ。
渋谷ダンジョンは人気の高い場所で、当然ながら多くの探索者達が通い詰めていた。彼らにはそれぞれにファンがおり、中には過激なファンも居る。特に『勇仲』などがいい例で、大和のファンと思われる者達が方方で暴れまわっていた。おそらく大和本人は、今頃自宅かクランハウスで困り顔を浮かべている事だろう。
更に言えば、ダンジョンは一度攻略してしまうとそれ以降、資源だらけになってしまうという事が判明している。人気ダンジョンであるがゆえに、魔物素材を目的としていた者達からすれば確かにデメリットではある。だが、仮に制覇したのが『勇仲』であったとしても否定的な意見は出ていただろう。結局いつかは誰かが制覇することになるのだから、遅かれ早かれでしかない。
「このままうまく行けば『封印石』の収集も楽になりますね」
「ですわね。既に淫ピーや枢さん達にもテコ入れしていますし」
試金石にするつもりで鍛えたわけではなかったが、しかし月姫は愛弟子として証明してみせた。こちらの世界の人間でもダンジョンを攻略出来ると。もしも他の者達が月姫と同じように、ダンジョンを攻略出来るようになったなら。
一体いくつあるのか、何処にあるのかも分からない、そんな『封印石』を集めるのはさすがに骨が折れる。現地探索者という手札が増えるのは、大変喜ばしいことなのだ。それを思えば、今回のニュースは異世界方面軍にとってまさに朗報であった。
「運営さんが所在を知っていれば、話は簡単だったのですけれど」
「ひゅまんの。わひゃひもうとのはんひへへいいっはいひゃった」
アーデルハイトがじろりとソファの方を見れば、そこには肉に踏みつけられて悦ぶ兎の姿が。なにやらフガフガと喋ってはいるが、最早何一つ聞き取れない。神の威厳がどうだのは皆無で、運営さんはすっかりペット枠としての生活を楽しんでいた。
曰く『妹がやったことならともかく、妹の使徒がやったことに関しては分からん』との事である。つまり封印石をこちらの世界に撒いたのは、リーヴィスではなく聖女の方だということ。間違いなく力を貸してはいるのだろうが、その詳細までは掴めない。運営さんの話をまとめればこんなところである。なんとも使えない兎であった。
「仕方ありませんわ。今後はウーヴェの手も借りつつ、これまで以上に探索者のレベルアップを図りますわよ」
「ですね。とはいえ、あくまでもそちらはついで。配信活動の方もお忘れなく」
「もちろんですわ! いずれはどこか美しい場所の土地を買い、この世界にも公爵領を作ってみせますわよ!」
拳を握り、そう決意を新たにするアーデルハイト。
確かにそれはある意味、彼女達の目指すスローライフの終着点なのかもしれない。それが本当に実現出来るのかどうかは甚だ疑問であったが。
お待たせいたしました!ここから新章になります!
それはそうと、今後は週1か週2程度まで更新頻度を落とすつもりでいます。
リアルや他の作品の都合もあり、これまでのような2日に一度、或いは毎日という頻度で更新するのは流石に難しくなってきたためです。無理をするとどうしても内容のクオリティが下がってしまうので、何卒ご了承下さい!




