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第311話 ぶっ飛ばすでない

 凡そ一発の銃弾が引き起こしたとは思えない、凄まじい爆風だった。無垢の庭園(イノセンス)による障壁が無ければ、間違いなく四人とも吹き飛ばされていたであろう。


 周囲の花はどこかへ消し飛び、爆心地ではすっかりと土が剥き出しになっている。そんな無惨な花畑と同様に、八岐大蛇もまた無惨な姿になっていた。八つある首のうち、二本を残して全てが消滅。残った二本の首も辛うじて原型こそ留めてはいるが、しかし他と似たような惨状である。おまけに、どういうわけか再生が始まっておらず、動く素振りもない。


「やったぜ」


「やったぜ、ではありませんわよ……!」


 あわや大爆発の直撃を受けるところだったのだ。アーデルハイトはぷりぷりと頬を膨らませ、まるでコンガでも演奏するかのようにオルガンの頭を叩く。フィジカル弱者なオルガンはガタガタと震えだし、終いには白目になっていた。


「……マジで死んだと思った」


「ホントにね……」


 最も悲惨な目に遭ったのは(くるる)茉日(まひる)の二人だろう。だが今回の功労者は彼女達だと言っていい。死と隣合わせという恐怖と戦いながら、クソみたいなお荷物エルフをここまで連れて来たのだから。


「ところで、どうして再生が始まりませんの? どれほどわたくしやクリスが攻撃しても、先程まではすぐに復活していましたのに」


「錬金術はすごい」


 いろいろあった過程はともかくとして、八岐大蛇は現在、確かに沈黙していた。アーデルハイトの言葉通り、先程までは元気に再生を繰り返していたにも拘らず、だ。間違いなくオルガンの放った銃弾──ほとんど砲弾か爆弾とでも呼ぶべき代物であったが──が原因なのだろうが、しかしその効果がどういったものだったのかは、オルガン本人にしか分からない。そのうえで、オルガンは説明を面倒がり端折った。つまり真相は闇の中、というわけだ。


 そうこうしている間にクリスと、そして彼女が持つカメラ────つまりは視聴者達が合流する。コメント欄を流れる言葉は、驚きと笑いが丁度半々くらいであった。前者は初見、或いは異世界方面軍の配信を見るようになって、まだ日の浅い者達。後者はもちろん、異世界方面軍古参リスナー達である。


:なんで何事もなかったみたいな顔してるの、この人達

:まーた懲りずに怪しい攻撃したな?

:すぐそれ

:すーぐ爆破

:おらっ! ちゃんと解説しろ駄エルフ!

:伊豆のローパーくんの時、似たような光景見たぞw

:実際の出来事に対して、演者とコメ欄の反応が何一つ噛み合っていない件

:なんで君たち、今のを見てそんなに冷静なのw

:ワイ、異世界初心者達の混乱具合で酒を飲む

:俺も最近その楽しみ覚えたわ。いいよな


 そんな中、ぴくりとも動かない八岐大蛇を、アーデルハイトが剣先で突付く。


「えい、ですわ」


 表皮がパリッと香ばしく焼け、どことなく美味しそうな気配すら漂わせていた()()が、アーデルハイトの突付きをきっかけに崩壊してゆく。頭部から順にぼろぼろと、所々には熱と焔を残しながら。それはまるで、朝まで燻っていた熾火おきびのようだった。


:そんな適当にw

:道端のウンコじゃないんだからさぁ……

:アデ公って剣聖なのに、意外と雑に剣使う時あるよなw

:前はヒトデ突付いたりしてたよねw

:イノセンスくんも心做しか落ち込んでる気がする

:結局今回はただのボス戦で、ギミックは関係無かったんかな?

:ただのボス(クソ強

:今のがただのボス戦に見えたのなら、キミはもう手遅れだ

:Welcome to ISEKAI

:っていうか今回も素材ロストじゃね?

:素材ロストは基本戦術よ


「そ、そういえばそうですわ……! また素材を回収し損ねましたわ……」


 そう言って頭を抱えるアーデルハイト。

 しかし敵の強さや、それに伴う派手な戦闘を考えれば、ある意味仕方のない部分ではある。彼女が戦ってきた魔物達は、どういうわけか殆どが新種、或いはイレギュラー的な魔物ばかり。現代の探索者では凡そ太刀打ちの出来ない、それこそ、討伐には数十年単位の時間が必要であっただろう魔物たちだ。


 そんな魔物から採れる素材など、殆どオーパーツに等しい。加工技術が追いついていない事は勿論のこと、現代では解析すら出来るか怪しいところである。無論、魔物研究を進めるのには大いに役立つ事だろうが────そんなことはアーデルハイト達の知ったことではない。彼女達は研究の為にダンジョンへ潜っているのではなく、暇つぶしとお金稼ぎのために潜っているのだから。


「……でもまぁ、よく考えると別に構いませんわね! 怪しい素材なんて面倒なだけですしおすし」


「肉の角は結局、売れませんでしたからね……まぁ厳密には、売れるまでに時間が掛かり過ぎて、その内に失われたというのが正しいのですが」


「あんな面倒なやり取りは、二度とゴメンですわ」


 こう言うと夢のない話ではあるが、どれだけの値が付くか分からない未知の素材よりも、既に値段が確定している素材の方が、彼女達にとっては嬉しいというわけだ。異世界方面軍で唯一、オルガンだけは未知の素材も欲しがっていたが────今回は自分でふっ飛ばしたのだから自業自得である。


「ねー! アーちゃーん! そんなことより、早く聖剣とかいうの見よーぜー!」


 そんな折、少し離れたところから(くるる)の声が届いた。死線を潜った恐怖から、どうやら立ち直ることが出来たらしい。随分とまぁ、気持ちの切り替えが早いことである。


 しかしそれもその筈。現代を生きる探索者達にとって、イベントバトル後の戦果確認タイムは、他の何よりも心が躍る瞬間なのだ。むしろ、この瞬間の為にダンジョンへ潜っているといっても過言ではない。おまけに今回の戦果は、恐らく世界初の発見であろう『神器』である。この場に居たのが(くるる)でなくとも、きっと同様の興奮を抱いていただろう。


 そんな(くるる)に急かされるように、一行は件の『聖剣』前へと集合する。そうして近くで見て、アーデルハイトは確信する。やはりこれは『神器』であると。


「初めて見るタイプの聖剣ですわね……いえ、むしろこれは『聖刀』とでも呼ぶべきですの? まぁ、わたくしは『刀』の定義なんて知りませんけれど」


「そもそもの話、神器を何度も見たことがある人間なんて、お嬢様を除けばそうそう居ませんがね……」


 腕を組みながら小首を傾げるアーデルハイト。これが『神器』であることはもはや疑うべくもないが、しかしこれはどう表現してよいものか。遠目に見た時は分からなかったが、僅かにだが刀身に『反り』がある。


「パッと見は完全に日本刀だよね!! なんかよくわかんないけど、白黒でカッコいい! 中二心をくすぐられるデザインだよね!」


「出雲神話モチーフのギミックダンジョンだったし、やっぱり天叢雲剣……!? いや刀なんだっけ? どっちでもいいよもう!」


「どっかに保管されてるやつとは別物ってことだよね!? いいぞいいぞー! ダンジョンっぽくなってきたァ!」


 何処か煮えきらない態度の異世界勢とは異なり、日本人である(くるる)茉日(まひる)は興奮しきりであった。まだどういった『神器』かも分からないというのに、勝手に盛り上がって大喜びする始末である。とはいえ、それは二人に限った話ではなく、視聴者達の様子も似たようなものであったが。


「ねぇねぇ! 神器っていうのは確か『契約』? をするものなんでしょ!? 早くやってみてよ!!」


 そうするのが当然とばかりに、(くるる)がアーデルハイトへと向き直る。


「少し落ち着きなさいな。いいですの? 『神器』というものは、それ自らが所有者を選びますの。見つけたからといって所有者になれるとは限りませんのよ?」


「まぁ、先程の戦闘が所有者を選定するための儀式だったと思えば────少なくともこの場の誰かしらは、問題なく契約出来る筈ですが」


 そう。

 あちらの世界に於ける普通(?)の『神器』とは、()()()()()()であった。発見し、試練を乗り越え、そうして最後は結局運ゲーなのだ。アーデルハイトのように、神器の方から寄ってくるような存在は特例中の特例である。


 今回の『聖刀』は、試練という名のボス戦を一行に与えた。つまりは通常のパターンである。試練を乗り越えたこの場の全員に、契約の可能性があるということだ。


「え、じゃあ何? 私達が選ばれる可能性もあるってコト!?」


「そういうことになりますわね」


「マジかー!! いやでもよく考えたら私、刀なんか使えないじゃん! じゃあやっぱアーちゃんじゃない!? もうこの際誰でも良いから、とにかく契約シーンを早く見せてくれー!」


 そうして、誰が最初に挑戦するかを決めようとしていた時だった。盛り上がりを見せる(くるる)達へと水を差すように、何処からか聞き覚えのない声が聞こえてきた。


「のぅ……盛り上がってるところ悪いんじゃけども」


 それは鈴を転がしたような、可愛らしい少女の声色だった。当然ながらこの場にいる誰のものでもなく、イヤホン越しの(みぎわ)でもない。突如として聞こえてきた謎の声に、一行がそれぞれ顔を見合わせる。しかし全員がかぶりを振り、自分ではないと主張する。


「……? 誰の声ですの?」


「はて……」


「ふむり……ダンジョンにひそむ亡霊が出たか」


 気配に敏感なアーデルハイトやクリスですら、その声の出どころが分からない。当然オルガンにも分かるはずがなく、酷く適当な事を言い出す始末であった。そんな怪訝そうな顔を浮かべながらも、しかし冷静な異世界勢とは異なり、(くるる)茉日(まひる)は慌てて周囲を見回していた。


「待って、私そういうの苦手なんだけど」


「やめてやめて! 私も、ホントに無理だから!」


 どうやらオルガンの適当な発言を真に受けたらしい。ダンジョンの奥深く、それも怪しい鳥居を抜けた先での出来事だ。幽霊が苦手だという二人は各々の肩を抱き、顔を青く引き攣らせていた。


「誰ですの!? 姿を見せなさいな!!」


 アーデルハイトが剣を抜き、声を張り上げる。

 するとやはり何処からか聞こえてくる、聞き慣れない声。


「いやいや、わしさっきからココにおるし」


「何処ですの!? 早く出てこないとぶっ飛ばしますわよ!」


 きょろきょろと、まるで警戒でもするかのように、周囲を油断なく見渡すアーデルハイト。


「待て、ぶっ飛ばすでない。もうちょい右じゃ。そうそう、そんでもうちょい下」


「むむっ……そこですわね!? 一体何者ですの!?」


 そんな何処か馬鹿っぽいやり取りを経て、アーデルハイトは声が指示する方へと視線を向ける。それは件の『聖刀』が突き刺さった根本の、丁度台座がある部分であった。そんなアーデルハイトの視線に釣られるように、他の面々もそちらへと目を向ける。


「わしじゃ」


 そこには、小さな白いウサギが一羽が居た。

 今更見紛うはずもない。アーデルハイト達をここまで導いた、例のウサギであった。


「……」


 ダンジョン内に訪れる静寂。

 そのあまりの出来事に、誰もが沈黙していた。


「もしもーし。わしの声聞こえとる? あ、もしかしてあれじゃろ? わしのあまりの愛くるしさに声も出ん感じのやつ?」


 そんな静寂の中、少々ウザめの声だけが小さく響く。

 ウサギの口は動いていない。だがその小さな身体と短い手足で、精一杯のアピールを繰り返していた。そしてその次の瞬間────


「あっ」


「むぎゅお」


 小さな白ウサギの頭部を、肉が前足で踏みつけていた。


あけましておめでとうございますわー!!

本年もわたくしをよろしくお願いしますわよー!!

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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