表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【カクヨムコン9受賞】剣聖悪役令嬢、異世界から追放される~勇者や聖女より皆様のほうが、わたくしの強さをわかっていますわね!~【書籍版発売中!】  作者: しけもく
冬のアレ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

267/367

第265話 ミギーの水色パンツ

 暦の上では既に十二月に入っているというのに、今年の冬は随分と温かかった。雪などはまだまだ気配も見せず、路面の凍結などは当然のように無い。


「わたくしが一番乗りですわー!」


 アーデルハイトはヘッドスライディングで勢いよく滑り込んでゆく。そのままコタツを貫通したアーデルハイトは、上半身がコタツ布団から出る、まさに丁度の位置でピタリと停止した。


「二番乗りー」


 そんなアーデルハイトの真似なのか、続けてオルガンがヘッドスライディングを敢行する。しかし運動神経皆無のクソ雑魚エルフは、当然の様にフローリングへと腹を打ち付け悶絶する。残念ながら、コタツまではまだまだ遠かった。


「ぬおお……」


「何してんスか……」


 ゴロゴロと転がるオルガンを眺めつつ、(みぎわ)もまたいそいそとコタツへ入ってゆく。異世界方面軍で唯一の日本人であり、コタツにも馴染みの深い(みぎわ)だ。幼い頃から慣れ親しんだ暖房器具だけに、今更コタツに興奮することなどない。


 だが異世界出身のアーデルハイトやオルガンからすれば、コタツはなんとも風変わりな暖房器具であった。なにしろあちらの世界の暖房器具といえば暖炉か、或いは、こちらの世界でいうところのストーブらしき魔導具くらいのものだった。熱を放つテーブルに足を突っ込むなどと───そんなもの、ワクワクせざるを得ないではないか。


「ぬくぬくですわ!」


「海外の人にもコタツって評判いいらしいッスからねぇ……まぁ、物珍しさもあるとは思うッスけど」


「わたくし、もうここに住みますわ!」


 帝国時代から寒さに弱く、つい先程までも毛布に包まっていたアーデルハイト。冬ともなれば、暖炉の前から動かなくなる事も多かった。そんな彼女にとってコタツとの出会いは、最早悪魔契約と同義であった。もぞもぞと身じろぎしながら、首下までコタツに潜り込むアーデルハイト。そんな彼女を見て、丁度お茶とみかん籠を運んできたクリスが苦言を呈した。


「いけませんよお嬢様。コタツで寝ると風邪をひいてしまいます」


「あら、わたくしは無敵ですから問題ありませんわ」


 クリスの忠告もなんのその。アーデルハイトはより一層コタツへと潜り込み、遂には頭の先まですっぽりと隠れてしまう。大きめのコタツを購入したとはいえ、大人一人がすっぽり入り込めば流石に狭い。加えて、いつの間にか侵入していた肉が猛烈に場所を取っていた。そうしてアーデルハイトと肉による占領戦が幕を開ける。


 コタツの中でドタバタと暴れ始めた一人と一匹を他所に、コタツ経験者のクリスと(みぎわ)はのんびりとお茶を啜り始めた。


「その『コタツで寝ると風邪を引く』ってやつ、実は都市伝説らしいッスけどね」


「そうなのですか? 以前の職場に居た方がそう仰っていたので、てっきりそういうものかと思っていました」


「科学的根拠はないらしいッスよ。睡眠の質が落ちるとか、脱水症状がどうとか、いろいろと理由付けは出来るみたいッスけどね」


 そんなどうでもいい会話をしつつ、(みぎわ)がみかんへと手を伸ばす。慣れた手つきで素早く皮を剥き、一粒ちぎって口へと運ぶ。まったりとした空気の中、家族でコタツに入ってみかんを食べる。これこそ日本の冬なのだと、しばらく実家に帰っていない(みぎわ)は昔を懐かしんだ。そうして漸くコタツまで這いずってきたオルガンの口へ、みかんを一粒投入する。


「……んまい」


「でしょ? ほら、さっさと入った入った」


「んむり」


 まるで芋虫のような動きで、オルガンがコタツへと足を入れる。アーデルハイトと同じく寒さに弱い───冬のみならず、全ての環境に弱いのだが───オルガンは、より深くへと侵入を試みる。そうして、縄張り争い中の一人と一匹に弾き飛ばされていた。


「ぬわー」


「ああもう……お嬢様、そろそろ出てきて下さい。テーブルが揺れてお茶が零れそうです」


 流石にそろそろ、ということでクリスがアーデルハイトへと退出を促す。そうして出てきたアーデルハイトの髪はもさりと膨らんでおり、肉との激しい戦いを物語っていた。


「ふぅ……ミギーの水色パンツが丸見えでしたわ」


「何を今更───おぉぃ! 何見てんスかコラァ!」


 如何に女同士と謂えども、恥ずかしいものは恥ずかしい。羞恥で顔を真赤にした(みぎわ)が、アーデルハイトへとみかんを投げつけた。しかしアーデルハイトにそのような攻撃が通用するはずもなく、綺麗に剥かれたみかんは簡単にキャッチされてしまう。まるで『ご苦労さまですわ』とでも言わんばかりに、みかんを口に運ぶアーデルハイト。


「あら、甘くておいしいですわ」


「きぃー!!」


 冬コミまで残り僅か。

 本来ならば忙しくて仕方ない筈の時期に、いつもどおりの時間を過ごす異世界方面軍であった。余談だが、肉の相方である毒島さんは朝からずっと巣───穴だらけとなった試供品の肉クッションだ───の中でとぐろを巻いていた。どうやら冬眠する訳では無いらしいが、彼女もまた寒さに弱い様子であった。つまりペット枠も含めれば、異世界方面軍の半数が冬に弱いことになる。これは近頃波に乗っている彼女たちの、意外な弱点であった。




追記 少し前にコタツ回を書いたのをすっかり忘れておりました

ので、若干の修正を加えております


サブタイでワクワクした人は変態です(確信

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

書籍情報です!

カドカワBOOKS様の作品紹介ページ

こちらはAmazon様の商品ページです
剣聖悪役令嬢、異世界から追放される 勇者や聖女より皆様のほうが、わたくしの強さをわかっていますわね!

― 新着の感想 ―
ミギー、それパンツじゃない可能性あるんじゃない? 上記のような自己欺瞞のペルソナを貼り付けられれば、恥辱を覚えることもないよ。たぶんね
連載あいかわらず楽しいです。 ※ミカンは「一粒」ではなく、「ひと房」じゃないかなぁ、と。 まあ、些細なことですが(^^;
エッッッッ! 毒島さんって雌だったん? 見逃したのかなあ・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ