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【カクヨムコン9受賞】剣聖悪役令嬢、異世界から追放される~勇者や聖女より皆様のほうが、わたくしの強さをわかっていますわね!~【書籍版発売中!】  作者: しけもく
冬のアレ編

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第260話 ふぁっきゅー

「というわけで、謎の役職を頂きましたわ」


 帰宅して早々、留守番組へと本日の出来事を報告するアーデルハイト。一方の留守番(みぎわ)と留守番エルフは、じっとりとした瞳をアーデルハイトとクリスに送っていた。


「ほーん」


「ほーん」


 ソファにどっかりと、非常に偉そうな態度で座る留守番組の二人。その傍らでは肉がしきりに鼻をひくひくとさせている。落ち着かない様子でじたばたしているその様子は、どこぞの飼い犬そのものであった。もはや野生は失われていた。


「戦技教導官といっても、特別何かを強制されるワケではないそうですわ。殆ど名誉職のようなものだとか。『たまにでいいので教導の場を設けて欲しい』とは言われましたけど───この世界の探索者達が強くなるのは、わたくし達にとっても都合がいいですものね」


 この言葉からも分かるように、アーデルハイトは花ヶ崎刹羅の提案を受け入れていた。以前の彼女であれば『お断りですわ!』などと言っていたかもしれないが、既に状況は変わっている。彼女たちは可及的速やかに『封印石』を集めなければならない。逆を言えば『封印石』さえ手に入ればそれでいいのだ。


 そうである以上、探索者の育成は異世界方面軍としての目的にそぐう。国内に十五もあるダンジョンのうち、どこから『封印石』が発見されるのか分からないのだから。アーデルハイトだけで全てを回るには時間が足りないが故、手は多ければ多いほど良い。月姫(かぐや)に魔法を教えたのには、実はそういった側面もあったりするのだ。


 無論、そのための取引は既に刹羅と交わしている。ダンジョンを制覇した際に『封印石』が発見された場合は、無条件で異世界方面軍に引き渡す。その代わり、アーデルハイトは探索者達の戦闘能力向上に協力する。『封印石』の実物を見たことがない刹羅は怪訝そうな顔をしていたが、ともあれそういった内容で契約は結ばれた。その『鍛える候補』というのもアーデルハイトが選んで良いらしい。謂わばあちらの世界で騎士団員相手にやっていたことを、こちらの世界でも同様に行うだけだ。そう考えれば、取引としては悪くない。どうしても面倒な場合は、最近ゲットした中ボスに丸投げしておけばいいだろう。


 そういった旨を要点だけかいつまみながら、アーデルハイトは態度の悪い二人へと説明した。


「ほーん」


「ほーん」


 しかし、留守番組の二人は未だに不機嫌そうである。心なしか肉と毒島さんも荒ぶり始めていた。それもそのはず、アーデルハイトとクリスの二人は焼き肉帰りである。


「ところで、そのだっせぇシャツはなんスか?」


「これはクリスの私物ですわね。何故か着せられましたの」


「ほーん。人の金で焼き肉、ねぇ……?」


「な、なんですの?」


 その自己主張の激しい黄色い謎シャツ。そして全身から立ち上る、隠しきれない煙の匂い。それが意味するところはひとつ。つまり───。


「ウチらを差し置いて焼き肉行ったッスね!?」


「ふぁっく」


 ばんばんとソファを叩きながら、(みぎわ)がアーデルハイト達を糾弾する。どこで覚えてきたのやら、隣のエルフもがっつりと両手で中指を立てている。肉と毒島さんなどは、煙臭いアーデルハイトの身体をいよいよよじ登り始めていた。どうやら(みぎわ)達が不機嫌だった理由は、アーデルハイト達だけが焼き肉にいったことが判明したからだった。しかし、アーデルハイトたちも負けじと反撃に出る。


「貴女がたの方から、留守番を申し出たではありませんの」


「付け加えるなら『めんどいからパース』とも言ってましたね」


 もともとインドア派の(みぎわ)と、外に出ることすら嫌がるものぐさエルフだ。講習会などという面倒なイベントに、彼女たちが進んで参加する筈もなく。その結果高級焼肉を逃した、というのが今回の顛末である。つまりはただの自業自得であった。


「ぐぬぬ……やだやだ! ウチも焼き肉食べたいッス!」


「ふぁっきゅー」


 ぐうの音も出ない正論パンチに、いよいよ駄々をこね始める(みぎわ)。位置を変えて中指を立てるエルフ。しかし当然、アーデルハイト達が何も用意していない筈はない。留守番をしている二人のため、しっかりとお土産を用意していた。


「では、お土産のお弁当は要らないということですね」


 そんなクリスの一言に、(みぎわ)は普段見せない程の俊敏な動きで正座へと移行。もみ手をしながら媚を売り始めた。隣のエルフもすぐさまそれに倣う。


「やだなぁクリっさん。ちょっとした冗談じゃないッスか。ノーブルジョークってヤツっスよ、へへっ」


「へへっ」


 あまりにもあまりなその変わり身の早さに、アーデルハイトとクリスは溜め息を吐き出す。そうして、いい匂いの漂う焼肉弁当を二人に手渡した。彼女たちにも一応の罪悪感はあったのだろう。尤も、帰宅する直前まで二人とも忘れていたのだが。


「今回はそれで我慢して下さい」


「焼き肉はまた、全員で行けばいいですわ」


 こうして、近い内に全員で焼き肉を食べに行く約束をし、漸く今回の騒ぎは終結を見せたのであった。


「はい、肉と毒島さんはこちらをどうぞ。シャトーブリアンを買ってきましたよ」


「待てぇい!!」




       * * *




 その後日。


「というわけで、貴方にもそのうち手伝って頂きますわよ?」


「ふん、断わ───」


「そんな権利、中ボスにはなくってよ」


「く……無念」


試合に負けた手前、何も言えないウーヴェであった。そうして『どうせ彼も身分証無いんでしょ?』と、刹羅が事前に用意してくれていた探索者証を手渡されるウーヴェ。


「たっぷりこき使って差し上げますわ」


「……最悪だ」

焼き肉なんてもう何年も行ってないですねぇ……

人のお金で焼き肉が食べたい

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剣聖悪役令嬢、異世界から追放される 勇者や聖女より皆様のほうが、わたくしの強さをわかっていますわね!

― 新着の感想 ―
納豆エルフのふぁっきゅーは異世界一かわいいが 絵面がポプテピピックの表紙の モザイクを貫通する中指立てハンドサインを連想してしまった。
書籍化されてやって来る印税という名の他人の金じゃダメなんですよね? 開き直って他人の金で焼肉食べたい‼️という動画を出してスパチャを期待するとか? 自爆で終わりそうだけど(ボソッ)
確かに自分達から言った結果とはいえ、 お土産の落差がどっちがついでにってレベルにはっきりと値が違うww
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