涼風さんのポーカーフェイスが見たくて
温かみのある格子戸を横に開くと、店の照明に負けないくらい眩しい笑顔が飛び込んで来た。
「めんそーれ」
今日は新入社員の歓迎会。幹事を買って出た俺が厳選した居酒屋に皆で来ている。
外観同様に提灯が吊るされたりして、大衆酒屋のようにノスタルジーな雰囲気を漂わせる内装。
何といっても、このBGM。三線の音色が気分を盛り立てる。
「せぇんぱいって、本当ハシビロコウみたいに表情変わんないれすよねぇ?」
「おいおい分かってないなぁ~ヒックッ。そのお堅い感じがいいんだよヒックッ」
分かっていないのはお前だ。というかまず新入社員の君も分かっていない。
そんな俺の胸中をよそに、二人は涼風さんについて好き勝手に話し始めた。つーか飲みすぎ。
「涼風さん。その、あんまりお酒飲まないイメージだけど、大丈夫?」
「うん。ありがとう」と言って、涼風さんは目を優しく細めた。
ほら、全然ハシビロコウじゃない。
「料理はどう?」
「すごく美味しいよ。ついついお酒が進んじゃうのも分かるくらい」
そうして涼風さんは、向かいに座る酔っ払いの二人と周辺に視線を滑らせた。
「このゴーヤチャンプルーも、私が作るのと全然違うの。ああ多分これだ。スパムが入っているからかな?」
「でもきっとそれだけじゃないよね……」と、しみじみ考え込む涼風さん。
可愛いな。今日はお酒の力もあって、普段よりも多弁だ。
でも普段だって同じなんだ。ただあまり声に出さないだけ。涼風さんは仕草だったり行動に表すから。
「このミミガーっていうの興味あったんだぁ。あとこれも」
言い終わって、さっきよりももっと目を細める涼風さん。
あれ? 結構酔っぱらっている感じ?
「せぇんぱい可愛い~。温泉に浸かった林檎くらい顔が赤いれすよ~」
「なんかエロぃヒックッ。ねぇちょっとそれ、あ~んして食べさせてよヒックッ」
「は?」と、俺は思わず声にする。
というか温泉に浸かった林檎くらいって何だよ!
小首を傾げるも、素直に海ぶどうをつまんで箸を差し出す涼風さんに俺は焦った。
「あはは。せぇんぱいたちラブラブ~」
間に合った。
箸はヒックッヒックッ煩い同僚ではなく、俺の口に。
ねぇ涼風さん。社員旅行が中止になっちゃってガッカリしていたから、気分だけでもと思ってここを選んだんだ。
もし二人だけで沖縄行こうって言ったら、そうやって今みたいに目を丸くして驚く?
それとも、いつものような照れ隠しのポーカーフェイス?
あ、涼風さんその顔……。