29 旅の始まりDA☆
「まずは····我々に協力してくれる事、感謝するよ」
そう言って、男がふさふさの猫耳頭をぺこりと下げる。
───萌え萌えだ。
男でもこの萌え具合だ、獣人の女の子となればもっとさらに、そうめにー、萌え萌えなのだろう。
いやはや、素晴らしい世界だ·····。
ただしハゲ坊主、てめぇはダメだ。
「まぁ、仕方ないね、こればっかりは」
肩を竦めて、しょうがないアピールする俺に頷いて、猫耳男が続ける。
「近い内に、世界は揺れる。」
「んあ?」
ごめん、お茶飲んでて聞いてなかった。
なにも朝ご飯の時間に呼び出さなくてもいいでしょ?もうお腹ペコペコだ。
「····。邪悪な者が地に堕ち、世界は危機に見舞われる。」
「ほーん」
坊主が持ってきたお膳を受け取り、煮物を口に放り込む。
うまい。タケノコだ。
「そして···現在勇者は、九階梯のダンジョンの攻略の為、不在。剣聖と賢者と大魔道士も、勇者についてダンジョンに潜っている。」
この煮物うめぇな。····後でレシピ聞いとこうかな。
「·····という訳で。目下の目標は戦力を集めて、来るべき敵に備える事だ。」
「あっ····そう?」
「·····」
·····おっと。怒りでプルプルしてる。
怒っちゃう?怒っちゃう?
「我々と旅に出てもらう」
「あー·····」
怒りを飲み込んじゃったか。
しかし旅か·····。いいんじゃないのか?
どうせ暇だし───、ってかダンジョンに戻れなそう。
ここでズズっとお茶を啜る····。
開け放たれた襖の外の、淡い緑の景色が心地よい。
なんていうか、日本人の血が静まる····。
「····─── 、·····───!」
猫耳がなんか言ってるが気にしない。俺は今大いなる自然と一体になっているのだ。宇宙との交信だ。····睡眠とも言う。
「ぐぅ····」
「お、起きろぉ!!」
◇◇◇
「ほへぇー····」
目の前に敷かれた、一枚の地図を眺める。
地図には、この国の大まかな地形と、周囲を取り巻く環境が記されていた。
よく分かんない記号が多いな。
あ、味噌汁うめぇ。
「かつてこの国の西には、大規模な赤竜達の巣があった。東には人間の立ち入れないほど強力な瘴気に満ちた〝死の海〟が広がっている。
南には邪龍が巣食っていて、幾度となく送られた討伐隊の尽くを皆殺しにしている、ここ数年は大人しくしているが、いつ人里を襲撃するかわからない。」
ほーん。
めんどくさい国だな。
いろいろ大変そうだ。
「北は第九階梯のダンジョン〝神月の塔〟が道を塞いでいて、隣国との国交の大きな妨げとなっている。現在は勇者と剣聖を筆頭に、この国の最高戦力達が攻略に励んでいる。」
へぇー、ダンジョンには階梯とかあるのか····。
神月の塔か、見てみたいな····なんかこう、綺麗そう。
太陽の塔がシュッとしたみたいな?
「という訳で、現在国の戦力は大幅に減っている。今外敵に攻め入られるのは避けたい·····理解して頂けたか?」
「うんうんおっけー、まーるまる。」
了承して、本格的に食事を始める。
····だが、俺はその時とんでもないことに気づいてしまう。
「こ、これ!」
「····どうした」
「栗ご飯だ!!」
「·····。」
栗ご飯だ·····。
見間違えなどでは無い、ほんとうに栗ご飯なのだ。
茶碗に盛られた米は、確かによく見ると黄色がかっている。
大粒の栗だ。栗ご飯だ。
ダンジョンから出てよかった·····。
俺は心からそう思い、ハゲ坊主へのヘイトを少し減らした。
ハゲ坊主へのヘイト
拷問後、嬲り殺し→嬲り殺し