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第10話:子爵令嬢、料理で成り上がる

 

 上流貴族なら誰でも知っているし憧れるような有名料理店のオーナーシェフから「弟子にしていただきたい」と懇願され、わけが分からず目を白黒とさせたわたくし。


 その場にいるロゼッタ様、アルバート様、それにエドワードに相談し、すったもんだの挙句に厨房で料理補助員として働くことになりました。


 なにしろ、提示されたお給金が素晴らしくお高かったので。


(これなら週三で働けば、いい食材を買えますし、エドワードとのデートで一方的に奢られるがままというのもなくなりますわ)


 打算、打算、打算でございます。

 哀しいかな庶民でございますので、わたくしお金で転びます。ころころと。

 何しろ上流貴族の方々が集う学園生活はとにかくお金がかかりますし、女王陛下からいただく奨学金や実家からの仕送りだって簡単に手をつけるのははばかられますし。


 ああ、申し上げるのを忘れておりました。この時、わたくしの料理が成功した理由をアルバート様から教えていただきました。わたくしの激辛魔法を無効化すればいいそうで。なるほど、盲点でした。

 ついでに魔法封じの石をいただいた(使い捨てですのでこの代金もツケで支払う約束を交わしました)ので、今後はまともな料理を作れることに。



 それからは、まさに怒涛の日々。



 早朝に料理の仕込みをし、日中はブリシュタット魔法学園に通って授業を受け、お昼はロゼッタ様と、おやつの時間はエドワード様とお食事。


 学校が終わってから夕方まではエドワードといちゃいちゃ。一緒に勉強を教えてもらったり、たわいないお話をしたり、公園を散歩したり、街を散策したり。


 手を繋いだぬくもりが温かくて、胸までほっこりとするよう。とても幸せでございます。


 後日、ロゼッタ様にお付き合いの状況をあれこれお話すると『お子ちゃまか』なんて呆れられましたが……はて?


 十分に恋人らしいお付き合いだと思うのですが。


 それはともあれ。


 夕方から夜にかけては、魔法料理店の厨房でメイド服を着て調理補助をしております。


 肉を炒め、旨味が引き立つように火加減を調整しながら焼いて、適度なタイミングで塩や香辛料をまぶしたり。お魚を捌いて煮込んで灰汁を抜き、野菜と卵白を投入後に浮いた脂を丹念に取り除き、さらに煮込みつつブイヨンを注いでコンソメポタージュにしたり。


 ごくごく普通の主婦のするような手順で、ごくごく普通に料理を作っているだけなのですが。


「す、すげえ……」

「これ、本当にあのお嬢さんが作ったのか……?」

「師匠が兜を脱ぐわけだぜ……」


 オーナーで総料理長ロビンソン様のお店で働くシェフの皆様方が、わたくしの料理をそう評価されるのは一体どうしてなのか。


 なんというか、こう……。


 これまでのわたくしの料理の評価と言えば『食えるものを作れ』『食材で遊ぶな』『いい加減にしろ』『物には限度があるだろう』『拷問になら使えるかもしれない』と、さんざんだったわけで。


 それに対して今の料理の評価は『神の味だ』『今まで食べた中で一番美味い』『どうやって作ったんだ、何か特別なものが入っているのか』『自分の店を開いてほしい。絶対に毎日通う』『弟子にして下さい。貴女は料理の神だ』とまあ、ひいきの引き倒しとでも申しましょうか。


 わたくし、普通に作っているだけなのですが……。


『料理の神基準の普通だよそれは』


 なんて、エドワードも言ってくださるわけでして。ともあれ、美味しいという評価は本当のことのようで何よりです。


 わたくしが働き始めてから、もともと繁盛していた月光の魔法料理店のお客様はさらに増えることになりました。予約は半年先までびっしりになり、わたくしもてんてこまい。


「シェフを呼んでください。このローストビーフが絶品だ。挨拶したい」

「かしこまりました」


 なんて流れで、わたくし何度もご挨拶をすることになったり。

 月光の魔法料理店の客層は裕福かつ舌の肥えた上流階級の方々ばかりで、お陰様で人脈がものすごくできてしまいました。


 なにせ、『怪我や病気をしたら頼ってください。あなたのローストビーフが食べられなくなるなんて耐えられない』だとか『このクラムチャウダーを食べられるのなら何でもします』だとか『金貨百枚でレシピを教えて欲しい』だとか、ひっきりなしで。


 繰り返しますがわたくし、普通に料理を作っているだけなのですが……。


 そういう流れですから、神の味(面はゆいですが皆さんそうおっしゃるので)を食べられるという噂が女王陛下のお耳に届き、コース料理の一切を作って欲しいとロビンソン様に頼まれたのですが……。


「無理ですわ!? あの女王陛下が食べられる料理を、このわたくしがなんて! 恐れ多すぎます!」


 しがない子爵家の娘。節約が頭の上からつま先まで染み付いているわたくしには、家庭料理を作れても王族の口に合うような豪華な料理なんて作れるわけがありません。


 いえまあ、エドワードにはたくさん料理を作っておりますが、あれは何の変哲もないお菓子や簡単な料理でいいということですので例外ということで。


「師匠ならできます」


 ロビンソン様、力強く断言なさいました。

 魔法料理店のスタッフの皆様方、そろって頷かれました。



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