異世界からの帰還
薄汚れた駅のホームに降り立つと、馴染みのある町の夜の風が前髪を撫でた。
懐かしさが胸をつき、思わず足が止まる。背後で扉が音を立てて閉まり、振り返ると灰色に近いにぶい銀色の電車が滑り出していった。
半年以上前に乗った電車だ、とぼんやりと考えながらそれが見えなくなるまで見送った。
信じてもらえないだろうが、…いや、これを読んでいるあなたは信じてくれる人なのかもしれない。
私は佐原深幸、19歳の大学1年生。
異世界に転移して冒険を繰り広げ、たったいま戻ってきた。
使い古したお気に入りのリュックサックのポケットからスマホを取り出し画面をつけると<9月23日(月)23:57>と表示された。私の記憶が確かなら向こうの世界に転移したのは今日の夕方だった。こういう状況に陥った人はこう考えるものなのだろうな、と思い、私も考えてみたーー夢を見てたんだろうか?
考えた瞬間おかしくなって、ひとりで笑ってしまった。
夢じゃなかったことなんて頭と体の全部がわかっている。
「やっとあんたのお守りから解放される日が来た。ぜってー戻ってくんなよ」と言ったにくたらしい顔を思い出す。「本当にありがとね、元気でね、」と初めて涙を見せた人も。
あの人たちが私の夢だったわけがないのだ。
そして、二度と会えないということを受け入れるには、まだ記憶があざやかすぎる。
…帰ろう。
私は涼しい空気を思いきり吸い込み、一人暮らしのアパートに向かって歩き出した。
部屋の電気をつけ見慣れた家具が照らし出された瞬間、急に疲労感を感じてベッドに倒れこんだ。
かろうじて電気を消し、私は深い眠りに沈んでいった。
半年間のことをたくさん夢に見た。あちらの世界で出会った人、経験したこと、美しかったもの、つらかったこと……