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「番が変更されるって何?そもそも何で番が分かる。」
イーリスクロム陛下は立ち上がり、机越しにシェリーに詰め寄る。逆にクストはシェリーから距離をとるように壁際まで下がって行った。番持ちである彼からすれば、番が妻から別の人に変わってしまうのは避けなければならない。
「さぁ、気分しだいじゃないのですか?」
「誰の!」
「世界?創造主?神?何かよく分からないので、わたしは謎の生命体と呼んでいます。」
「神・・・。」
イーリスクロム陛下は予想もしなかった存在の名前が出て来て、唖然とした表情のまま腰を降ろした。
「神に会ったことがあると言っているのか。」
「神かどうかはわたしは知りません。」
その言葉を聞いたグレイがブルリと震えた。きっと、あの謎の生命体と同じ空間にいたときのことを思い出したのだろう。グレイの変化を察したイーリスクロム陛下はグレイに問う。
「ラースの第2公子は会ったことがあるみたいだね。どうだったのかな?」
グレイは目をさ迷わせ、シェリーにヘルプの視線を送るが、シェリーは無視する。グレイは諦め
「同じ空間に存在することが出来ない高位なる御方です。絶対的な存在。それぐらいしか分からないです。」
答えるグレイの顔は真っ青だ。
「その高位なる御方が、ステータスの変更をしたのか。なぜ聖女候補はそのような事になった?何が高位なる御方の勘にさわった?」
シェリーはため息を吐き
「言ったではないですか、気分しだいじゃないのかと。」
「その場にいた君たちなら何かわかるんじゃないのかな?」
イーリスクロム陛下はシェリーのツガイ達に尋ねた。
「さぁ。高位なる御方の心を我々がはかり知れる事は出来ないですね。」
とカイルが答える。スーウェンとオルクスは口を閉ざしたまま開かない。
「んー。アンディウムが言っていたけど、シェリー君をバ「それ以上は口にしない方が!」」
グレイが慌ててイーリスクロム陛下の言葉を遮る。グレイの感が告げるそれ以上の言葉をすることは危険だと。
「高位なる御方の事についてはこれ以上触れない方がよいですよ。忠告はしましたので、口にするならそれなりの覚悟をもって話してください。」
カイルがイーリスクロム陛下に釘を刺す。シェリーは天井を見上げる。あの謎の生命体はこの状況を楽しんで見ているのだろう。
「はぁ。竜人族にそこまで言わせる存在なのか。じゃ、なぜ番が変更されたとわかったのかな?シェリー君。」
「視れば分かりますよ。」
「答えになっていないなぁ。じゃ、僕の番はわかるのかな?」
「家庭を築いている方にツガイが誰かなんてわかってても言いませんよ。家庭のいざこざに巻き込まれたくありませんし、子供が可哀想ですよね。ああ、彼なら教えてあげてもいいですよ。」
シェリーが指をさしたのは他の兵達と同じように壁際に寄った白髪のふんわりとした髪に埋もれるような小さな耳とその上から丸くうねった角が特徴的な羊獣人だった。
「じ、自分ですか?」
いきなりシェリーから指をさされ驚いた拍子に黄色の瞳が揺らめいている。どうやら、彼は魔眼持ちのようだ。
シェリーは鞄から紙とペンを出し、何かを書いている。それを二つ折りにし、その男性の元へと行き、紙を渡そうとする前に尋ねる。
「宿経営に興味はありますか?」
「宿経営ですか?考えた事はなかったですが、それがどうしましたか?」
「ここに書かれている女性の名前は宿を経営している方の娘なのですよ。ですから将来、宿を経営してもいいと言うなら、手にとってください。興味が無いのなら、燃やします。10、9、」
いつの間にかカウントダウンが始まってしまっている。しかし、羊獣人の兵士は手を出そうとしない。いや。出来ないのだ。番というものに憧れを抱いている周りの者たちの言葉のない視線という圧力が彼に手を出させることを拒ませているのだ。
「1、0。残念でしたね。」
シェリーはそう言いながら、紙を燃やしてしまう。その光景を目の前で見せつけられた羊獣人の兵士は涙目だった。
「わたしのツガイが分かるのかという真偽は証明されませんでしたね。まぁ、どうでもいいことですので、ルナティーノ・トールモルテが暴君レイアルティス王のようにツガイを求めてこの国を亡ぼそうとも、わたしはこの国を出ていくだけですから、別にいいですよ。」
「「「よくない!」」」
「え。でも信じられないのですよね。先程から話が進まないので、帰ってもいいですか?」
「話を複雑化をしているのは問題児です。」
ルージオネにシェリーが悪いと言われた。




