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はっ。嫌な夢を見た。動機が激しく胸が苦しい。物理的に・・・?
シェリーは布団をめくり胸元を見ると、黄色と黒の斑の毛が埋もれていた。シェリーはその毛を掴み、引き剥がし、ベッドの外へ蹴り落とす。
「なぜ、脳筋猫がわたしの部屋に入ってきている!」
「それはシェリーが無意識でペンダントを取っちゃったからだね。」
後ろからカイルの声がして、抱きしめられた。
「カイルさんも「イル」・・イルもなぜ、いつも居るのですか。」
「昨日の夜中本当に大変だったのだよ。シェリーはぐっすり寝ていたけどね。」
これは、シェリーが起きなかったことへの嫌みなのだろうか。どうやら、寝ながら邪魔になったペンダントをシェリーが無意識で取ってしまったために、オルクスが暴走を起こし、シェリーの部屋の結界を壊して乱入してきたらしい。
グレイとスーウェンが止めに入ったが、暴走したオルクスには敵わず、シェリーに向かって行ったところで、寝ぼけたシェリーに頭を掴まれアイアンクローを掛けられてオルクスが大人しくなり、シェリーが目覚めた状態になったというらしい。
グレイとスーウェンが?部屋を見渡すと行き倒れたグレイとスーウェンがいた。そして、ベッドの端から手が伸びてきて、「番だ。やっぱりシェリーが番じゃないか。」と言いながら起き上がってきたオルクスがいた。
「取り敢えず出ていってください!」
シェリーの怒声が響き渡る。
本当に帰ってきた早々騒がしい、1ヶ月程しかたっていないが、ルークと過ごしてきた日々が懐かしい。
今朝見た夢に嫌な予感を覚える。島国なので、よっぽどのことがない限り、こちらからあの国に出向くことはない。あの鬼族もあの島からは出ることはない。5人目のツガイだ。これはあの謎の生命体が何かを仕出かす予兆なのか。
そして、朝食が終わったことを見越したかのように玄関扉のドアノッカー音が響き渡る。
「お久しぶりです。初代炎王様から緊急の要請です。」
玄関に立っていたのは、薄い水色の髪に黄色い目の背中には髪と同じ色の一対の翼が生えた女性が立っていた。彼女の一族は王族直属の命を受け持ち各地に飛んでいく、言わば外交官の役割を担っていた。そんな彼女が炎王からの手紙を持ってきたのだ。それも江戸時代に使われていた巻き紙方式の手紙だ。
「受け取りを拒否することはできますか?」
「できません。」
「わたしは居なかったことに「できません。」」
「ちっ。」
手紙を玄関で受け取り持ってきた女性に
「受け取りましたので、お帰り下さい。」
「中身を確認してください。そして、このまま炎国に行くか。返事の手紙を書くかどちらかです。」
手紙を見る。表にはデカデカと毛筆でシェリーちゃんへと日本語で書かれていた。裏の折り目から中身を取り出し、手紙を読むとどうやら奥さんが一ヶ月程前から寝込んでしまってから目覚めないので助けてほしいとの内容を長々と書かれていた。
「光の巫女様にお願いしてください。」
確か、炎国には光の魔術が使える光の巫女と呼ばれる一族がいたはずだ。
「巫女様にお願いしましたが、どうやら複雑化した呪いの類いらしく、自分では手が負えないと申されまして。」
呪い・・・まさか。
「最近、ここ一ヶ月程に人族の方に会われましたか?何か、食べ物か飲み物を持って。」
「ええ、私どもがよく使用しているフィーディス商会の者ではなく。南方の商人の者が来ました。珍しい果物から作った酒だと言われて、しかし、その場にいた者、毒味も含めて飲みましたが何もありませんでした。」
「赤い食べ物などは?」
「あ、確かに元になった果物だと言われた果物は赤く、それは確かに召し上がっていらっしゃいました。」
あの国までマルス帝国の手が伸びてきたのか、何が目的だ?この件も早急に対処しなければならないが、教会の件もある。
「わたしは、別件があり早急には対処できません。その呪いを解く薬を作れる人物を紹介することはできます。」
「初代様はあなたに来てほしいと言われています。」
優先順位から言えば炎国に行くことが優先されるのだろが、あの聖女擬きを放置するのも危険を感じる。軍部に相談するか。
「こちらもいろいろありまして、今すぐには決められません。明日、炎王宛の手紙を用意しますので、取りに来てもらえますか?」
「王太子殿下宛の手紙もお願いします。」
「・・・関係ないですよね。書くこともありません。」
女性はシェリーの手を握り絞め
「お願いします。一度初代様にだけ手紙を渡したら、それはもうお怒りで、手がつけられなくなってしまったのです。」
「一度、炎王にいただいた物に対してのお礼の手紙を書いただけではないですか。全く王太子殿下は関係ないですよね。」
「本当にお願いします。初代様だけに渡すと初代様が殿下をおちょくって遊ばれるから余計に被害が甚大に」
炎王が悪いようだ。首を縦に振らないと女性は手を離してくれなさそうなので
「手紙は書くことがないので、物でいいですか?」
「なんでもいいです。」
やっと、女性から手を離して貰えた。女性は明日の同じ時間に来ると言い去っていった。
「シェリー。王太子殿下と言う人とどういう関係?」
背中から、低い地を這うような声が聞こえ、凍るような冷気を感じた。
来ていただきましてありがとうございます。
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前話に引き続き、別の連載中の小説を読んでいただいている読者様にはネタバレ要素がだだ漏れで申し訳ございません。




