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「必要ありませんので、わたしは私として変わりはないです」


「そうかな?実際に会って見れば違うと思うよ。ほら、あの厳ついギルドマスターも(つがい)とラブラブじゃないか」


 その言葉を聞いてシェリーは笑った。冷淡に全てがバカらしいと言わんばかりに笑った。あのルーク以外が無関心のシェリーがだ。


「カイルさんもツガイに幻想を抱いているんですか」


「幻想?憧れの間違いだよね」


「ひとつ真実を教えて上げましょう。番狂いの勇者ナオフミの話を」


「ああ、最近の話だよね。15年程前に数年で大陸の6分の1を焦土化した話は知っているよ。その頃はあちこち旅をしていたからね。番の聖女を失なった勇者が狂って暴走したことに真実もなにもないよね」


 勇者という存在が狂って力を振るうということは、それは力の暴力と言っていいのだろう。カイルが言う大陸の6分の1を焦土化したというのが本当であれば、それは勇者ではなく別の名を与えるべきだ。そう破壊者か、殺戮者か。

 シェリーはカイルの言葉を否定しなかった。勇者が番である聖女を失って暴走したことは誰しも知る事実だ。


「そうです。勇者ナオフミと聖女ビアンカは番。魔王を討伐したあと屋敷を与えられ共に暮らしていた。そこに魔王討伐の仲間であった魔導師オリバーが聖女を拐い、勇者ナオフミは狂った。数年間大陸中を暴れまわり誰も止めることができず、大陸の6分の1を破壊し、そして力尽きた、と物語には記してありますね。そこに魔導師オリバーも聖女ビアンカの番だったという要素を足したらどうですか」


「は?」


 何を言っているのだろう。番は唯一で己の対。番が2人存在することはないのだ。


「勇者と聖女が先に出会い、番の儀式をしたことで本人もまわりの者も2人が番だと認識した。しかし、魔導師は自分こそが聖女の番だと思っていた。魔王を倒し時間が経てば聖女も目が覚めるだろうと」


「なぜ、魔導師オリバーは番だと勘違いした?」


 勘違い。それはあり得ないことだが、勘違いをしない限り、番が重複することはない。それが一般常識である。


「勘違いではないですよ」


 しかし、シェリーは否定をした。あり得ないことが実際に起こったのだと。


「おかしいな。シェリーなぜそこまで確信がある。その頃まだ産まれていないんじゃないのかな」


()は会いましたから、13年前に勇者と聖女と魔導師の狂った人達に会って視たのですよ。ツガイが誰か」


「会っただけで他人の番を知るすべはないはずだよ。もし、そんなことができるのであれば皆が幸せになれると思うよ」


 見るだけで誰の番が誰とわかれば、確かに全てが丸く収まるだろう。しかし、現実はあまりにも厳しい。一生かけても己の番に会えないことは多々あるのだ。


「普通であれば。しかし、わたしは他人のステータスを視ることが出来るのですよ。そこにはツガイまでも記載されています。13年前、勇者ナオフミは魔導師オリバーの隠れ家を見つけることができ、魔導師オリバーは首を切られ殺された。そして()は聖女ビアンカを取り戻そうとした勇者に教えて上げたのですよ。『聖女の番は勇者ナオフミと魔導師オリバーと賢者ユーリウス』だとね。その時の勇者の顔は見ものでしたね。一瞬焦って、殺戮者の様な形相で出ていきましたから。そして、数日後には賢者の死が世界中に駆け巡ったことを聞いたとき、殺したのは勇者だと確信しました」


「番が三人…」


 確かあのとき大陸の東側で勇者が暴れていたため、カイルは大陸の西側にいた。その国には賢者が住んでいる塔があり、多くの賢者の弟子たちも住んでいたが一夜のうちに崩壊し、賢者と弟子全てが死亡したという事件があった。

 当時、実験の失敗や魔術の失敗で塔が崩壊したのではと憶測がとんだが、誰も大陸の東側で暴れていた勇者が賢者を殺すとは、思ってもみないことだ。


「ツガイが1人だとの思い込みが、ツガイへの独占欲が、生んだ悲劇だと思いま…。なぜ、()はこんなことを話している?こんなこと誰にも話す気はなかったのに····まさか!干渉されている?」


 シェリーにしては饒舌にしゃべっているかと思ったらいきなり顔色を変えて頭を抱えこんだ。


「あなたはいったい誰?」


 シェリーは目の前にいるカイルに疑問を呈した。睨み付ける眼差しはカイルのすべてを見透そうとしているかのようだった。



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