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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
28章 穢れと鬼

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 門をくぐった先にある庭は日本庭園を模倣したように、大きな池があり、綺麗に剪定された木々が植えられていた。大きな岩も転がっているので、屋敷の方からみるとなにかの風景を現しているのだろう。


 そして、その屋敷といえば、炎国特有の日本家屋だった。


 ただ、シェリーからみれば、真っ暗な闇の中を進んでいるように、黒いモヤで何も見えていなかった。


「取り敢えず、この敷地の中心点に連れて行ってください。話はそれからです」


 何も見えていないシェリーがため息を吐きながら言った。もちろん炎王に対してだ。


「あ、ここで靴を脱いでくれ。此処から先は土足禁止だ」


 炎王が屋敷に入ったところにある土間で立ち止まる。


「え?靴を?」


 驚くグレイ。今まで炎国に来てもそのようなことを言われたことがなかったからだ。


「ミレーテでもたまにあるぞ。土足厳禁っていうところ」

「炎国は一般家庭ではこの造りが多いな」


 しかし、アマツと炎王の影響があるギラン共和国と炎国では、普通にあるようだ。

 あのオルクスが炎王の言葉に戸惑いなく従っている。

 リオンは言うまでもないが、スーウェンは戸惑いながら周りの者たちに視線を巡らせていた。


 まちまちの反応を示す者たちを見て、苦笑いを浮かべる炎王。

 アマツと炎王の影響力の範囲が見えてしまう。


「ブーツぐらい自分で抜ぎます!」


 そこに焦点が全く合っていないシェリーの声が響く。

 どうやら本当にシェリー自身のことも見えていないのか、手探りでブーツの紐を探っていたのだ。

 カイルはそれを手伝っているのだが、シェリーは自分ですると口にする。が、そもそもカイルに抱えられている状態なので、上手く紐が解けないのだ。


「本当に見えていないのか。佐々木さんの見る世界が違うのは、やはり聖女だからなのか?」

「シェリーに触れるな!」


 困っていそうだから、手を貸そうとする炎王に威嚇するカイル。そのカイルに対して両手を上げて苦笑いを浮かべる炎王。


 無理を言って来てもらった炎王としては、このシェリーの状況に対して手を貸そうとしただけだったのだ。しかし、竜人の番への固執に触れてしまったようだ。


「カイルさん。人様の屋敷を凍らせないでください。寒いです」


 外は真冬並みに雪景色が広がっており、ただでさえ寒いのだ。そこにカイルが威嚇のために冷気を出していれば、直接シェリーに被害が及ぶことになっている。


「ごめんね。シェリー」


 すぐに笑顔になり、シェリーに謝るカイル。


「最近のカイルってヤバいよな」

「力の加減を間違っていないか?」

「毎回これだと、いつか氷漬けになりそうだ」

「思ったのですが、力の制御が出来ていないのではないのですか?」

「「「は?」」」


 一瞬にしてカイルは玄関口を氷漬けにした。その被害に他の四人も遭っている。

 これはワザとだと言えるかもしれないが、そこにスーウェンが力の制御ができていないのではと口にする。

 それは流石にないだろうと、いう声が重なる。


 いや、絶対にワザとだろうという声だ。


「あ、やっぱりそうなのか?」


 そこにスーウェンに同意する言葉が降ってきた。炎王である。


「ステータスが一気に跳ね上がったよな。それはどうしたのかと思ってはいたんだが」


 他人のステータスが見れる炎王は、カイルの状態を分かっていたらしい。

 ここ最近のカイルは、感情がやけに表に出ていたが、一気にステータスが上昇したことで、何かのタガが外れたのだろうか。

 しかし、何が原因というのだろう。


「ラース様に、あんなことを言うからですよ」


 どこにも視線が合っていないシェリーが、自分でブーツを脱ぎながら言う。

 陽子も指摘していたが、ここ一か月ほどで大きく影響が出てきているのだろう。


『全てを破壊する力を』


 カイルは人神ラースに願ったのだ。

 己の限界を壊す力をと。


 だが、その所為か制御の甘さが浮き彫りになっているようだ。


「彼らの足止めはワザとだよ。炎王にはしていないからね」


 しかしカイルは笑顔できっぱりという。四人への嫌がらせだと。


「カイル!てめぇ!」

「いい加減にしろよ!」

「ふざけるな!」

「え?これワザとなのですか?」


 最近のカイルの態度が露骨になっていることには変わりない。


「できれは、ここから先はこういうのは控えて欲しいな。シエンには強すぎる力だからな」


 炎王はこの屋敷にいる者は弱っているものなので、竜人の力が強すぎると一言忠告をした。

 上がってくるように示唆して、炎王は木ではない床の上を進んでいく。


 シェリーが見えていれば、畳だと分かっただろう。足音を吸収する床に、この屋敷の住人に配慮したものだろうと受け取れる。


「ここが敷地の中央だと思うのだが」


 そして炎王は薄暗い部屋の中に立っている。周りは引き戸に囲まれて日の光が入ってこず、炎王が掲げた燭台だけが光源だった。


 あの炎王が魔術を使わずに、火を掲げているのだ。

 それほど、この場所は普通ではないということだった。


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