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「あと、俺が全然知らない話をしているのだけど、情報を共有してくれないか?」
グレイは離さないと言わんばかりに、シェリーを抱えたまま尋ねる。
確かに三日程しかグレイはシェリーと離れてはいないが、シェリーとしてはとても濃厚な日々を……いや、いつもと変わらず忙しい日々を送っていた。
「知らなくても問題ないと思います」
シェリーは問題ないと口にする。それは話すのが面倒になっただけではないのだろうか。
ただ死んだ魚の目をしているシェリーの心情は窺いしれない。
「え?問題あると思う」
「今話しても無駄なので別にいいではないですか」
無駄。それは同じことをツガイの彼らに話さなければならないということだからだろう。同じ話を何度もしたくないと。
「それに本人に会った方が一番いいです」
「え?アーク族の王にそんな簡単に会えるのか?」
「オリバーが地下に住む許可を出したから屋敷の地下にいます」
「え?屋敷の地下?いったい何がどうなってそんなことになったんだ!」
「成り行きで……」
説明が面倒なのか、適当に返事をするシェリー。いや、無言の帰りたいオーラが出ているので、全てを置き去りにして戻る算段でも考えているのだろうか。グレイの腕から逃れようと身を捩っている。
「用件は終わったので帰っていいですか?」
いや、知らない神の名前を当たり前のように出された時点で、シェリーの頭の中にはさっさと帰ることしかなかった。だからグレイに対する返事も適当だったのだ。
「ちょっと待って、シェリーがゴールだと言ったよね?だから目印としていてもらわないと困るんだよ」
「私は全く困りません」
シェリーは残りの三人は置いて帰る気満々だ。
「もうちょっと待って、調整中だから……もう少し」
何を調整中なのかわからないが、ラースはシェリーを引き止める。
その時、穏やかな空島を模したような空間に稲光が通り抜けた。だが、光は発せられたものの、その後に続く爆音のような雷鳴は響かない。
「行けたじゃないか!」
代わりという風に、勝ち誇ったような声が聞こえてきた。それは雷光が通り抜け土埃が舞い上がっている場所からだ。
その土煙の間から見えるのは黄色と黒の斑の髪。
「行けたではないですよ。それは力技でいっただけで制御も何もできてはいないではないですか」
その勝ち誇った声を諌めるような声が現れる。そちらに視線を向けると、スーウェンが空島の地に足をついたところだった。
「そうだ。それでは飛んだというよりも、突き抜けたという方が正しい」
そして、スーウェンの隣にリオンが同じように地面に降り立つ。
なんというかタイミングが良すぎるという具合だ。
いや調整中とラースが言っていたということは、ラースが長々と話していた時間さえも、時間遅延が発生していた可能性がある。
「あ!シェリー!」
スーウェンとリオンからダメ出しをされているというのに、オルクスはグレイに抱えられているシェリーの元に駆けつけた。
「グレイ。シェリーを離せ」
「嫌だ。シェリーは離さない」
数日間離れていただけだが、シェリーへの独占欲が増しているような感じだ。
「ご主人様。おまたせしてしまい申し訳ございません。流石に馬鹿二人の面倒を見ながらだと三ヶ月も掛かってしまいました」
スーウェンは女神ナディアに第一階層に強制的に戻らされてから、根気よく突進型の二人の手綱を握っていたようだ。
しかし、スーウェンから気になる言葉が出てきた。
スーウェンたちは三ヶ月かけて第百階層までたどりついて、次元の違う神界の一部であるこの場所までたどり着いたということだ。
「馬鹿とはなんだ。突っ走しっていたのはオルクスだけだ。シェリーただいま」
グレイとオルクスが睨み合っている横から、リオンがシェリーをかっさらって抱き上げる。それも馬鹿はオルクス一人だけだったと言い訳をしながら。
「は?魔眼に操られていたリオンに言われたくないな」
「シェリーを返せ!リオン」
「そんな失態は忘れた。それからグレイ、シェリーは俺のだ」
「ご主人様。時間はかかりましたが、魔眼の耐性は得ることはできましたよ」
ツガイが全員そろったところで、シェリーは周りの騒がしさにため息を大きく吐き出す。
だがそのシェリーの視界が大きく揺れた。
「一番ではないヤツが偉そうにいうな」
我慢の限界にきたカイルが、世界最強種の力技で鬼族であるリオンからシェリーを奪い取ったのだった。
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【モブ令嬢は皇子のスパイ】
(あらすじ)
王太子殿下の誕生日パーティーで私は元婚約者に会ってしまいました。
今は公爵令嬢の侍女ですので、もう関わりたくないし、新たな婚約者もいるのに……なんてことを言い出すのですか!
「その口を閉じなさい!」
拳を振るい強制的に騙させれば、思っていた以上に飛んでいってしまいましたわ。
どうしましょう?
元婚約者に鉄槌を下したところから始まる物語。
……あらすじに題名要素が全くない!
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