表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
27章 魔人と神人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

782/861

771

「という感じで、話ができなくてね」


 ラースはそう言いながら、シェリーに向かって肩をすくめる。

 断続的に何かを叩く音は聞こえているものの、シェリーとラースがいる場所には至って穏やかな時間が流れていた。


『これでも竜人が百階層に入ってきてから時間遅延をかけて、二週間引っ張った私を褒めて欲しいぐらいだよ」

「そもそも私を強制的に眠らせる必要が無かったと思います」


 ベッドから身を起こしたシェリーは、そもそもここに来る理由が無かったことに不快感を露わにしている。


「あるよ」


 だが、ラースはそれを否定した。


「シェリー。君は無理やり人格をわけていた。それがつい最近、再び強引に一つに戻ったよね」


 シェリーの人格。それはシェリー自身のことを『わたし』と呼び、十歳の子供のようにオリバーに泣きついたシェリー。

 そして、『私』と自身のことを呼び、前世の記憶から構築された大人の佐々木。


 力を制御するため、子供の力しか出せないシェリー。そのシェリーが勝てない敵と戦うため刀を手にした佐々木。


『ツガイ』という存在が現れるまで、彼女達の役割は上手く回っていた。全ては弟であるルークの平穏のために魔王を倒す。


 だが、彼女達の生きる理由になっているルークが学園に行き、神の采配で『聖女のツガイ』が集まり、世界が混沌に侵食されていくなか、彼女達のバランスが崩れてしまった。


 シェリーではどうしても勝てず考えが至らないことを、佐々木がカバーすることが顕著に出てきてしまったのだ。


 力の制御など甘い言葉を言っている場合ではない。だが分けた人格を一つに戻すなど普通はできない。

 だが、ここに神の力が加われば別だ。


 白き神の介入により、二つの人格は混じり合い、シェリーであり佐々木である『聖女シェリー』に戻ったのだ。


 だが、分裂した人格が、魂が、何の影響も無く、混じり合うのかという疑問も出てくる。


「シェリー。君がその後ゆっくりと時を過ごしていれば、何も問題はなかったのだよ。しかし、あっちこっちに行って、次元の悪魔を倒すまでに至っただろう?穢れの浄化は聖女に負荷がかかっている。それがわからない君ではないと思うのだけど?」


 穢れの浄化が聖女に負荷がかかっているとはどういうことなのか。

 その問いにはシェリーは答えない。ただラースの赤い目を何も感情が浮かんでいないピンクの目で見ているだけだ。


「穢れは人の心の悪。そう教えられていた。しかしその真実を君は知ってどう思った?」


 真実。そんなものは無かったはずだ。人の悪心が世界に影響を及ぼしている。そうであったはずだ。


「ラース様がおっしゃっているのは、悪魔という存在限定でしょうか?」


 悪魔限定。それは人が悪魔化した次元の悪魔の元は神の慣れの果てであろうという予想と、大魔女エリザベートが世界の浄化機構だと予想したダンジョンの力を奪いとって成り上がった完全体の悪魔。

 そして次元の悪魔の核は浄化しなければ、世界に還ることはない。


「人の心の闇はどこから生まれた?」


 だが、ラースは別のことを聞いてきた。人が抱える人の闇はどこから生み出されたのかと。


「恐怖。怒り。嫉妬。欲望ですか?」

「違う。それは今の現状で生み出される闇だ。そうではなく始まりだよ。何事にも始まりがある」


 始まりとは……その言葉にシェリーの表情がピクリと動いた。そのシェリーの脳裏にある言葉が浮かんだのだ。


『よくも悪くも世界に影響を与えてくれた』という白き神の言葉だ。


「シュロス王による、神殺しですか」

「そうだね。全ての元はそこに繋がるのだよ。地上に落とされた神の成れの果てが引き起こしたものが、どのようなものだったのか語るものは残されていない。だが、それが始まりだ」


 語る者は居ない。いや、残すすべが無かったとも言える。

 シェリーが見たラフテリア大陸に残された空島の残骸のように、映像にて残したのであればまた別であろう。若しくは竜人族のように長命な種族でもいれば可能だっただろう。


 誰も落神が地上にもたらしたものが、どのようなものだったのか語る者がいなかった。この時代に唯一の歴史として残されたのが竜人族のセイルーン竜王国とアーク族の空島の歴史だけだ。

 そして二つの大陸に空白の時代が存在することとなった。


「神々の間では暗黒の時代と言われて誰も語らない闇の部分だね」


 神々の言葉を聞くことができるシェリーが知らないということは、神々も口を噤むほどだったということだ。


「しかし、これが神々の力を得るきっかけともなったのだから、皮肉なものだね。あっ、長話しすぎたかな?空間に亀裂が入ってきたよ。竜人族は怖い怖い」


 ラースは青い空に黒くひび割れが入っているところを見て苦笑いを浮かべた。ダンジョンの方からカイルが強引にここに来ようとしている影響だ。


「シェリー。聖女の役目は何?」

「世界の浄化です」

「そう世界。神の成れの果ての浄化。白き神が世界を創る上で世界を動かすために創った神。たかが、人である聖女に浄化ができると思っている時点で、この話は破綻しているって気付いていたかな?」

「そんなもの。聖女に魔王を倒せとい言われた時点で破綻していることに気がついていますよ」


 だから、シェリーは。佐々木は。力を願ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ