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『うむ。あれはステルラのやりすぎだったところもある』
闇の神オスクリダー神も、星の女神ステルラのわがままの加護は行き過ぎだったことを認めていた。
だからこそ、死の神モルテ神経由で、シェリーに加護を抑える加護という特殊な物を与えたのだ。
「それでこの場に姿を見せてくださったということは、オスクリダー様も力を貸していただけるということでしょうか?」
『是である。元々はステルラが言いだしたことの故』
白き神の世界において、力を持つ神が二柱が力を貸すと名乗りを上げたのだ。竜人族が信仰する天空神シエロ神。そしてモルテ国の民が信仰する闇の神オスクリダー神だ。
あと、魔術に傾倒する者であれば、信仰する魔神リブロ神もだ。
「レイアルティス王。これで如何でしょう?」
シェリーは振り返って、レイアルティス王に確認する。これほどの力を持つ神が、力を貸すというのだ。文句はないだろうと。
だが、尋ねられたレイアルティス王は未だに円卓の上におり、頭が痛いと言わんばかりに手を当てたまま、しゃがみ込んでいた。
「どうかされましたか?まだ力が足りませんか?そうなると……ナディア様もルーチェ様もシュロス王の所為で、力はかしてくれなさそうですし、あと力を持つのはモルテ様になってしまいますが、辺り一帯に死を振りまかれても困りますよね?これ以上は難しいと思います」
シェリーは困ったように首を傾げている。
信仰を集めている神の中では、これ以上は望めないと言葉にした。中でも死の神モルテ神が地上に化現しようものなら、この王都メイルーンに死が撒かれることになるだろう。
「しかし望まれるのであれば、白き神の『ちょっと待とうか』……」
レイアルティス王はシェリーの言葉を遮った。そう、これ以上の神の力を望むのであれば、白き神に力を貸してもらうしかないという言葉をだ。
「何ですか?」
「その前に、この状況がおかしいと思わないのか?」
レイアルティス王はシェリーを睨みつけるように言う。
だが、シェリーからすればいつものことなので、全くおかしいとは思ってはおらず、カイルもシェリーと共に過ごすようになってから、神という存在がよく顕れるようになったので、そういうものだろうと、納得していた。
そして、シュロスは神殺しとシェリーから言われるほど神を手にかけてきたので、神の化現することには問題視はしていない。
「そうですね。そもそも死者であるレイアルティス王がいることが、おかしいということですね」
「……それもだが違う」
シェリーのスキルの能力によって、レイアルティス王は現世に化現しているため、普通ではないとは言える。
だが、レイアルティス王としては別のことに対して物申したいようだ。
「レイアルティス王にとって、何が不快なのかはわかりませんが、そもそも私の行おうとしていることに、世界が否定していれば、レイアルティス王は世界の記憶の海に還されているでしょう」
所詮レイアルティス王は、シェリーの能力によって、この場に存在している不安定な者でしかない。そのレイアルティス王に行わせようとしていることに、白き神が否と唱えるのであれば、天津の時のようにスキルの強制解除が行われているだろう。
「これは世界も認めていることです。なので、グチグチと言っていないで、さっさと術の施行をしていただけませんか?」
白き神が認めているかどうかは、確認をとっていないにも関わらず、シェリーは今から行おうとしていることに正当性をもたせた。
人々の意識を変えるという普通であれば避難されることに、神の威が示されたかのように言い切ったのだ。いや、神の威というのであれば、星の女神ステルラの威とも言える。
「死した我が身が一番不可解なのは理解している。だが、私が神に願ったときは、誰も応えてはくれなかったというのに……」
やはりレイアルティス王としては、シェリーの呼びかけで、神々がこの地に化現したことに、納得できなかったのだろう。
「え?何を言っているんだ?」
レイアルティス王の嘆きにシュロスが疑問を投げかけた。
「神さんってそんなものだろう?呼びかけるだけで、神さんたちが顕れるのは、聖女の佐々木さんだからに決まっているじゃないか」
「聖女だからか。そう言われると納得せざるを得ない」
聖女であることで納得できると言いながらレイアルティス王は大きくため息を吐いた。それは、己の番であるシェリーメイのことを思い出してのことだろうか。
「わかった。『心神の改変の呪』を行おう」




