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「そんなものシュロス王に用がある……」
シェリーが、魔神リブロ神がこの場にいる理由を代弁しようとしたところで、シェリーは言葉を止めた。
いや、シェリーの口は動いているので、音の伝搬を阻害されたようだ。
「これは喧嘩を売られている」
カイルは空間の間にいる魔神リブロ神を探すように、辺りを睨みつける。
そのカイルの態度にため息を吐くシェリー。
「はぁ、さっさとシエロ様を呼びに行ってください。でないと再び引きずり出しますよ」
いや、子供じみた抵抗をしている魔神リブロ神にため息を吐いたのだ。
リブロ神の気配が消えたことを確認したシェリーは視線を前方にむける。
「ということで、リブロ様とシエロ様のお力を借りるということで如何でしょう?」
そこには信じられないものを見たという感じで、レイアルティス王は唖然としている。
「何か間違っていないか?」
間違っている。それは神頼みではなく、神を脅して力を貸すように言うシェリーのことだ。
「え?二柱では足りませんか?そうですねぇ」
シェリーは首を傾げながら、チラチラと周りに視線を向けている。そしてハッとしてある一点で視線を止めた。
「これは珍しいですね。ルーチェ様がいらしているではないですか」
シェリーの目には金色の髪を靡かせ、いつもと変わらない笑みを浮かべている光の女神ルーチェの姿を捉えていた。
「炎国からお離れになるとは思っていませんでした」
炎国に祀られ崇められている光の女神ルーチェ。ただ民を見守り、時々声をかけるだけの女神が、このシーラン王国の地にいるのだ。
それはとても珍しいことだった。
そしてシェリーの言葉に、光をまとい金色の輝く髪を靡かせながら、人が住まう空間に現れたのだ。
「うっ」
「これは……」
女神が放つ神力に耐えかねるうめき声が聞こえるも、女神ルーチェはそのようなことは一切気にすることもなく、シェリーの前に顕れる。
『少しやり過ぎではないのかえ?』
シェリーが行おうとしていることに注意をするためにこの場に顕れたようだ。それはそうだろう。
たかが、聖女のお披露目パーティー如きのことで、世界の認識を強引に変えようとしているのだ。
神々からすれば、たかが人の分際で、そこまで干渉すべきではないと。
「そうでしょうか?これは必要なことですよね?」
しかしシェリーは女神ルーチェから直接注意をされたにも関わらず、自分は正しいと言わんばかりに女神ルーチェに反論した。
「ただ、エリザベート様が気に入らないだけですよね?」
それもシェリーは女神ルーチェの個人的な心情が入っていると指摘する。大魔女エリザベートが気に入らない。ただそれだけだと。
『それはそうであろう?あれはナディアの恩情を無下にした者である。ナディアは許しても妾は許せぬ』
女神ルーチェは大魔女エリザベートが構築した術を使い、その孫にあたるレイアルティス王に施行させようというのがただ気に入らないという個人的なものだった。
そしてその視線をこの状況にニヤニヤと笑みを浮かべているシュロスに向ける。
『あのようなモノを復活させて如何する?あれは厄災である。多くの同胞を無に帰した厄災は抹消すべきではないのかえ?』
女神ナディアはシュロスの前に顕れることを厭うていたが、女神ルーチェは本人を目の前にして死を口にした。
いやシュロスに死は白き神より与えられない祝福をされたために、抹消という言葉を口にしたのだ。
「あ!思い出した。この神さん。喚び出してもいないのに、俺を殺そうとした神さんだ」
シュロスの言葉から女神ルーチェは太古の時代にシュロスの存在は悪害になると言わんばかりに始末しようとしたらしい。
一柱でしかない女神ルーチェが、白き神から選ばれた変革者を始末しようとしたのだ。
これは白き神の威を否定する行為だと受け止められる。
「でもさぁ、それ八つ当たりだろう?神さんの代わりに死んだ神さんは、俺が何かする前に、光の矢に貫かれて消えたよな?」
シュロスの言葉に女神ルーチェが放つ神力の量が増える。床に倒れる音が聞こえるため、この異常な空間に耐えられなくなった者がいるようだ。
そしてシュロスの言葉から、女神ルーチェの行いを肩代わりするように死んだ者がいるようだ。
「今、思うとあれって、白い神さんの忠告だよな?やり過ぎなのは神さんの方だと思う」
神々も白き神に存在を許され存在しているのだ。何かしらのルールから外れたものは、白き神から罰を与えられるのだろう。
白き神の威に反抗することは許されないと言わんばかりだ。
『どの口が言う!全ての元凶はそなたであろう!』
いつもは穏やかな笑顔を見せている女神ルーチェが怒気をはらんだ声で叫んだのだった。




