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「意味がわからない。それに神がそこまで我々に干渉するなどありえない」
レイアルティス王はシュロスのゲーム脳で構築された魔術は理解できたが、シェリーの言いたいことがわからなかったようだ。
確かに説明不足ではある。
それに神々は人々に干渉してくるのは些細なことであり、世界に影響を及ぼすほど力を貸してくれるとは思っていないようだ。
そのレイアルティス王の言葉を聞いたイーリスクロムは顔を顰めている。
シェリーに関わると、神という存在が大いに干渉してくるのだ。
主神である白き神にしろ、星の女神ステルラにしろ、魔神リブロにしろ、これまでイーリスクロムの前に普通では姿を顕さない神々が降臨したのだ。
そのようなことは無いと言いたいが、歴史上に名を残す暴君レイアルティス王にイーリスクロムが発言できるものではなく、空気のように気配を絶っていた。
「そうでもねぇぞ。ここは神さんの箱庭だ。神さんが許せば、なんでも叶う」
レイアルティス王の言葉にシュロスが答える。この世界の基盤を作ったと言っていいシュロスがだ。
そのシュロスが神が許せば、全てが叶うと口にした。シュロス以外の者が口にしたのであれば鼻で笑うところだが、神に神という概念を植え付け、世界に様々な変革をもたらしたのだ。
シュロスが言葉にすると、それなりに説得力があった。
「ようはどう問いかけるかだと思う。色々失敗したが、佐々木さんから言われて、きちんと明確に問いかけないと駄目なんだなってわかった」
「それはシュロス王が馬鹿だったということですね」
「佐々木さん、ひどっ!」
そのことは神という存在が複数存在するとは知らなかったシュロスの思い込みから起こった勘違いだった。
だが、今回は神々に願いを叶えてもらうというものではなく、レイアルティス王が施行する術に対して不足している力を神々に補ってもらおうという魂胆だ。
シェリーは簡単に神々の力で補えばいいと口にしたものの、実際には正に神頼みをするしかないのだ。
力を貸してくれなければアウト。
術式は完成しない。
「しかしレイアルティス王もこのような曖昧な状態で術を発動するのも、納得していただけないでしょう。万全を期したいというのは理解できます。ということで」
シェリーはそう言って、カイルの腕を振り切って、背後の扉の方に跳躍した。そして突然空間に手を突っ込む。その手に何かを掴んだ動作をしたかと思えば、黒い物体を引っ張りだしたのだ。
「覗き見しているぐらい興味津々なら、手伝ってくれますよね?リブロ様」
黒いローブを身にまとわせた魔神リブロ神だった。その容姿はフードを深く被っており確認できないが、項垂れている様子から不本意ということがありありと見て取れた。
何が不本意か。
「のぅ。わざわざ引っ張りださなくてもよかろうに」
人前に自ら顕れたのではなく、シェリーの手によって引っ張り出されたことだ。
「お主に言われなくとも、力を貸すことはわかっていたはずであろう?まぁ、ワシの力など大したことはないがのぅ」
以前、シェリーから言われたことが響いているのか、リブロ神はイジケている。
「いい加減に鬱陶しいと思っていたのです。モルテ王の城でもウロウロしていましたよね?それからチョロチョロと目の端に映って、言いたいことがあるなら言ってください」
モルテ王の城ということは、大魔女エリザベートの遺産を受け取っていたときのことだろう。だが、シェリーの言葉から想像するに、それからストーカー並にリブロ神はついて回っていたようだ。
「いやぁ、ほら。あれじゃろう?」
何があれなのかはわからないが、とても言いにくそうである。魔神リブロ神とあろう者が、何を言い淀むことがあるのだ。
「アレでもソレでもいいので、言ってください」
「ワシは神としては、まだ若輩者であるからのぅ。恐れ多いというものじゃ」
それだけを言って、魔神リブロ神は空間に解けるように消えていった。
「初心ですか?恥ずかしがり屋ですか?だったら、シエロ様ぐらい連れて来てください」
『いや、ワシは若輩者であるゆえに、シエロ神にお声がけなど……』
「赤い鉱石を対価に差し出すので来るように言ってください」
『それぐらいなら、そなたが言えば……』
「ちっ!」
シェリーはグチグチという魔神リブロ神に向かって舌打ちをする。姿は見えないが、シェリーからはその姿ははっきりと見えているのだ。
「シェリー。リブロ神が力を貸してくれるのはなんとなくわかるけど、なぜシエロ様に頼むの?」
カイルは今までなら、ここにいるイーリスクロムやクストのように床に跪いて、神の姿など確認できなかったが、今回はリブロ神が顕れた早々にシェリーを再び抱え込んでいた。
そしてシェリーが天空神であるシエロ神の力を借りたいという理由を尋ねたのだ。
「あと、リブロ神がついてきていた理由は何かな?」
カイルは、今は見えなくなっているリブロ神に向かって殺気だっているのだった。




