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「おお!ラ◯ュタ、そのまま!陽子さんここまでパクるのはどうかと思うよ」
フリーパスであるシュロスがいることで、普通に青いガラスの壁に囲まれた中に入った陽子の感想である。
建物に入った中で一番に目に入ったのは、太いツタのようなモノだ。それは建物の中心にあり、幾重にも重なり天井から床まで貫いている。
そして床は草の成れの果てのような腐葉土化した地面になっており、その床からは黒い石板が生えていた。
「やっぱり、水がないから枯れているじゃないか!」
腐葉土の土の上を歩き、茶色いツタを指しながらシュロスがいう。
「こういうところがバカなのですよ」
「いや、これを現実に再現できることが凄くないか?」
シェリーはクソ虫を見る目をシュロスに向け、炎王はシュロスの力の凄さを褒めている。
そんな中、シュロスは中央まで行き、目の前にあるツタを強引に引きちぎり、ここにいる者たちに見せつけるように、ツタを押し開いた。
「これがこの島の動力源だ」
それを見た陽子は、シェリーに詰め寄り『これってどうなの』と叫んでおり、炎王は首を傾げ『これだと飛行石があるのに飛べないことがおかしいってなるな』と呟いている。
それは白い光を放っている正八面体の物体だった。三角形の面がクルクルと動き、島が落ちても動力源は動いているということがわかる。
「シェリー。この力……」
何かを感じ取ったカイルがシェリーの背後から話しかける。
「白き神の力の結晶体……こんなものが空島に存在しているのですか?」
そう、シュロスであれば、青い色に再現すると思われた動力源が白い光を放っていた理由。それは白き神の力を結晶化したものだったからだ。
そしてシェリーはハッとして今は青いガラスの天井しかない上を見上げた。
「これが大魔女エリザベートが、空島の残骸から探していたものですか!それがグローリア国の神殿にあったモノですか?」
大魔女エリザベートが、ラフテリア大陸に落ちた空島の残骸に見せられた映像を何度も見ていた理由。空島の落ちた場所を割り出していた理由。
もし、シュロスが作った半永久的に稼働する動力源であり、白き神の力の結晶を得るためだったとしたらどうだろう。
何年も何百年も何千年もかけて探す価値はある。
そして、エルフ神聖王国が排除した神々の受け皿になろうとしたグローリア国。そこに創造主である白き神の力の結晶があったとすればどうだろう。
排除された神々は地上に現れた白き神の力に寄り添うようになり、人々は神々に祈り、白き神にも祈る。
その結果、魔導王国と呼ばれるほど、魔導師を排出することになり、中には特異者と呼ばれる超人を生み出すこととなる。
グローリア国だけ人が、人から逸脱した力を得ていたのが、国中に設置された白き神の力の結晶を御神体としていたからだとすれば、その異常さにも納得ができる。
だが、シェリーの問いかけには、誰も答えない。答えがないことが『是』だとも捉えられる。
そう考えれば、納得できることがある。
討伐戦時に多くの英雄を排出したシーラン王国だ。生き残ったものたちも、他の国と比べると多い。
これは獣人だからだとか、変革者のクロードが居たからだと理由付けていた。だが、少なからず白き神の力の影響を受けていたとしたらどうだ?
青狼族の中で逸脱したクロードが生まれた理由。力を持て余すほどのフラゴルが存在した理由。
そして狐族の中で、唯一九尾という存在で生まれてきたイーリスクロム。
影響がないとは言えないだろう。
だが、恐らく地上で残っているのは、今ここにある物のみ。
グローリア国の物は、勇者ナオフミが全てを破壊し尽くしたと思われる。そう、魔女の家さえないというのだから。
「これは人の目に晒すわけにはいきませんね。取り敢えず、水を精製する魔道具に繋いだら、ここは封印してください」
シェリーはこれは誰か個人に所有されると危険なものだと理解したため、ここには誰も入れないように言う。
「それでどうやって、ここと下層とをつなぐのですか?まさかその枯れたツタとかいいませんよね」
「ここは元々島の管理者しか入れねぇよ。それから木の根が更に地下に伸びているはずだったんだ」
「き?どこにこの建物に木があるのです?」
「だから水がないから枯れているんだよ。本当なら『コノキナンノキ』がこの階層の天井まで伸びているはずだった」
シュロスは水を精製する魔道具が取り外されたことが悪いから、枯れていると言っている。
「なんか呪文を唱えだしたよ。結局何の木が生えるのか、わからないよ」
「ここに木がある必要があるのか?で、何で飛ばないんだよ」
炎王は、動力源が生きているのに飛ばないことが不思議でならないらしい。
「白き神の呪が、影響しているのではないのですか?地に落ちれば飛べないというアーク族への呪いです」
「ああ、あの神なら有り得そうだ」
シェリーの答えに、炎王は大いに納得したのだった。
 




