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「あ?何で水が一滴もねぇんだ?」
何も無い柱が数本立っている空間でシュロスの声が響いた。
「水源湖の水が無くなるって、ありえないだろう!」
ここはシュロスが各島に作った水を精製する場所だった一番地下だ。そこは水というものは一滴も存在せず、ただすり鉢状の穴が開いており、その広い空間を支える柱があるのみだった。
そして、あり得ないというのは、生き物が生きていく上で、水というものは必要不可欠であり、水が枯渇する事態は、島の死を意味するのと同意義だからだ。
水は何があっても精製し続ける設定だったようだ。
「閣下。第三師団が管轄している水を精製している魔道具は、もしかしてこの場所から持ち出したのですか?」
姿も気配も感じないが、絶対に共に行動をしていると確信を持って、シェリーは声をかけた。
「さて、儂らが軍に携わるようになってから、今ある場所から動かしてないがのぅ」
イスラが言うには水を精製する魔道具は、彼らがその場所まで、移動したのではないと言われる。
その言葉は聞こえるものの、姿は誰の目にも映ることはない。
「そうなると、かなり初期の段階で移動させられた可能性がありますね」
「は?意味がわからないぞ。どうやってそれで水ができるんだ?」
「かなりの魔力を注いでいると聞きましたね」
するとシュロスは更に、意味がわからないと言わんばかりの表情をしている。
「なんだ?それ?『アクア・ラクス』は島の動力源と連結しているのだぞ?そもそも動かす必要なんてないだろう」
「陽子さん。そのセンスのない名前はどうかと思うよ」
シュロスが言った水源湖を作る装置の名を陽子は非難するも、シェリーと炎王は陽子には、言われたくないだろうという視線を向けていた。
「あ?わかりやすくていいだろうが!そうなると無理やり水を精製しているのか?馬鹿だろう」
「それはシュロス王に言われたくないと思いますよ。そもそも水の汲み上げは、どうなっていたのです?今ある地表まで組み上げる方法が無ければ、魔道具ごと運び出すという手段にでてもおかしくはありません」
かなり初期の段階からだとすると、元々ここに住んでいたアーク族が地表に運んだのではと思われる。
ならば、使えるものを運び出した可能性はある。そして、以前第三師団で話していた水を精製する魔道具だけが魔力で動く仕様だったのは、空島の動力源と連結することで動いていたからだった。
動力源が動いている限り、水は絶たれることはないと。
「うーん?基本的に地表にでているところは元々地面だったところだが……中心はいいがその周りは崩れたという感じだな……ん?もしかして通ってきたところは水路の名残か?」
「水路ですか?」
「本来なら水はここを全て水で満たして、上の穴から流れ出る仕組みだ」
シュロスはおかしな言葉を言った。この場が水で満たされるのはそういう作りだと言えるが、水が上に流れ出るといった。それは重力を無視した構造になってしまっている。
「重力の移動だよな」
炎王が、その答えを口にしていた。水路の構造に合わせて重力がかかる方向を変えていると。確かにシュロスであれば、簡単にその仕組は作れてしまうだろう。
「そうそう、水路には一定の方向しか水が流れないようにしている」
水路は一定の方向にしか流れない。それは一番下にある水源湖から水路を通って、地上に向かって流れ続け、最終的に地表にたどり着く。
「ああ、水路が壊れたから、水が他の場所から噴出したのか。それは取り外すよな」
今現在のメイルーンは第二層が坂になっていることから、平らだった部分が崩れて山のような形になっていると考えられる。そうなると、第二層の部分の水路は完全に破壊されていたとも言えるだろう。
「え?それおかしいよ。陽子さんが知っている限り、地下道には抜け道はないし、何処にも地上にはつながっていないよ」
だが、それに対して陽子が疑問を投げかける。
そもそも陽子はその地下道を使ってダンジョンを広げていった。その陽子が地上に出る穴はないというのであれば、地下道はシュロスの言っている水路とは別物の可能性がある。
「そんなもの自己修復機能が働いたからにきまっているだろう?」
「当たり前のように言われても知らないよ!」
どうやら、シュロスは空島に自己修復機能というものをつけていたようだ。
「いいか。もともと浮遊して固定されていない島に結界を張っていたとしても、嵐がくれば崩れてくるところはあるんだ!そういう細かいところを修復する機能ぐらいあって当然だろう!」
「地下道には下に向かう道はないってことは、修復機能って不完全ってことだよね!」
「一つ気になったのですが、その力を得ている動力源とは、何のことを指すのですか?」
シュロスと陽子が言い合いをしているところにシェリーが割って入ってきた。それも動力源が何かという根本的な問いだった。
 




