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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
27章 魔人と神人

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「正月早々、何だって!その正月早々に陽子さんは死にかけているんだよ!」


 陽子は遠く離れた炎王に連絡を取っている。本当になりふり構っていられないのだろう。

 もう室内がいつぞやか見た光景と同様に凍りついていた。


「ささっちがいつも買っているスパイスを持ってきて!今すぐに!……え?何でも屋じゃないって?本当に陽子さん、凍死寸前!現状回復には必要なアイテムなの!」


 陽子が必死すぎる。いや、現にシュロスは凍りついたまま動けなくなっている。違った。床から伸びる謎の鎖にグルグルに胴体と腕が一緒に巻かれており、その鎖から解放されようともがいていた。

 超越者であるシュロスの動きを止める鎖はいったいどこから出てきたのだろうか。


「ささっち!エンエンが持って来てくれるから、作って!」


 陽子はそう言ってキッチンの方に指を差したところで、シェリーの姿がかき消えた。いや、強制的にキッチンに移動させたのだ。このような強引なことができるのも、ダンジョンマスターである陽子だからだろう。


「竜の兄ちゃん!ささっちのお手伝いをして!」


 声をかけるものの、陽子はカイルの方のは視線は向けなかった。それは触らぬ神に祟りなしと言わんばかりの扱いだ。

 そして冷気がふっと和らいたところで、陽子は大きくため息を吐き出す。


「死ぬかと思った……」

「ヨーコ。さっさとそれを渡し給え」

「はっ!どうぞお納めくださいませ!」


 オリバーは、いつまでその手に持っているのだと言わんばかりに、イライラ感を隠しもせずに言う。すると陽子は両手で持った古めかしい本を突き出し、頭を深々と下げた。


 陽子から分厚い本を受け取ったオリバーは、楽しみだと言わんばかりに口角を上げ、ダイニングテーブルの席について、本を広げ目を通し始める。


「おい。これお前の所為だろう」


 ホッと一息ついた陽子に更に声を掛ける者がいた。謎の鎖に巻かれているシュロスである。


「陽子さんは悪くないからね!こんなところで火を出そうとしていた馬鹿を止めたんだからね!そんなことをすれば、大魔導師様を更に怒らせるだけじゃない!」


 どうやらシュロスは凍っていく鎧をなんとかしようと、火を出して氷を溶かそうとしていたようだ。そこを陽子が慌てて止めた結果が鎖に巻かれたシュロスの姿だったのだ。


「それにしても、ここのやつら、おかしすぎるだろう!」


 陽子が手を振ったことで、鎖が砂のように崩れていく様を見て、シュロスは文句を言っている。生物として存在していることが、一番おかしいシュロスがだ。


「俺は超越者に至った者なのに、何故、細い鎖が切れないんだ!」


 確かに、陽子はダンジョンマスターだとしても、超越者を超えられるのかという疑問がでてくる。レベルが存在しない陽子にあるのは、ダンジョンの格だ。その格が一番高いのは勿論、女神ナディアが作ったドルロール遺跡のダンジョンだ。神が作ったダンジョンはこの世界には一つしかない。

 その次が神に至ろうとする者であるユールクスが、ダンジョンマスターである王の嘆きのダンジョンだ。


 その二つのダンジョンは別格だと言っていい。


 それに比べれば、陽子のダンジョンは発現してたかが数百年程度、赤子のようなものだ。


 では何故、シュロスの動きを止めることができたのか。


「え?脳筋共対策は万全だよ」


 そう、シーラン王国の近くに出現してしまったが為に、出来て間もなくダンジョンを半壊させられた経験から、力のゴリ押し対策は万全だった。


「脳筋。いや、魔術も封じただろう!」

「それは最近、鬼の兄ちゃんやエルフの兄ちゃんがやらかすから、対策を立てたね」

「え?鬼っているのか?」

「……どこの田舎から出てきたわけ?陽子さんでも知っているのに?」


 陽子の対策は万全だった。

 しかしシュロスは別のことが気になった。鬼がいるのかと。


 しかし、シュロスは蛇人はいると認識していたということは、鬼族はその昔は存在しなかったのだろうか。


「田舎じゃないけどな。それに、あの綺麗な顔をしたヤツ」

「大魔導師様だよ!ささっちの保護者だからね!」

「え?とーちゃんなのか?全然似てねぇ。ってことは佐々木さんは知っているのか?あれ、死人(しびと)だろう?」

「……」


 シュロスはオリバーのことを指して、死人と言った。どう見ても生きている人間だ。普通に話しているし、食事もとる。地下に引きこもって昼夜逆転の生活を送っているが、別に陽の光が駄目というものでもない。


 そして、その言葉にオリバーは目を落としている本から視線を上げた。


「なぁ、あんたは俺のことを生きることも死ぬことも許されない者と言ったが、それはあんた自身じゃないのか?」


 するとオリバーは馬鹿を見るような視線をシュロスに向ける。


「白き神から呪縛された君と比べれば、可愛らしいものだね。俺は役目を終えれば解放される。だが、君の魂は生と死の狭間を揺らいでいる。死した身でこの世に縛られている俺とは違う」


 オリバーは己を死んだ者と自覚し、死人が生きるように強制されていると言った。それは聖女であるシェリーに隷属するという形でだ。


 ならば、シェリーが疑問に思っていたことが解決する。何故、シェリーのスキルである『亡者(もうじゃ)の強襲』でロビンが現れていたことだ。


 ロビンも死した身でラフテリアに隷属されたため、死人が現世に引き止められていた。だから他の英雄たちと同様にシェリーの前に現れたのだった。



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