706
シュロスはこの世界を『神の箱庭』と答えた。その答えが出てきたということは、シュロス自身、この世界が別の世界だと認識しているということだ。
にも関わらず、シェリーのことをNPCと言葉にした。これはシュロス自身の中ではどう折り合いをつけていて、このような答えを出したのだろうか?
「シュロス王。貴方はまだPlayerですか?」
「おぅ?何?その選択肢?ここでログアウトする選択肢が出てくるのか?しかし、俺の身体はもう無いだろう?ってことはだ。ここでログアウトすれば、戻る身体がなくて死ぬってことか……」
違った。シェリーの未だにプレイヤー気分でこの世界で生きるつもりなのかという質問に対して、シュロスの中では死ぬか生きるかの選択肢になっていた。
己の身体は死んでいることは認識しているものの、この世界には精神体だけで存在し、ゲームのプレイヤーとしていると思い込んでいる。
流石、ゲーム脳のシュロスと言えばいいのだろうか。ということは、前世の名を名乗ろうとしたのは、シェリーの『佐々木』と名乗っていることに、合わせようとしただけなのかも知れない。
そこでシェリーは別の質問をした。
「この世界での死の概念は何ですか?」
「またまた難しい質問だなぁ。佐々木さん」
シュロスは、腕を組んで少し考えるように、首をかしげながら答える。中身が怪しいモヤが詰まった甲冑に、脳などないだろうに、人としての行動パターンを再現している。
「肉体の死と精神の死は違う。肉体は朽ちても、また新たな身体を得れば、再び生を得られる」
「輪廻転生の概念ですか?」
「そうだけど、神さんには会ったことがあるから、存在するのはわかるが、地獄があるかはわからないなぁ」
神には会ったことがあると、何気なく口にしているシュロス。その神を殺し続けてきたという罪悪感は皆無のようだ。
「では精神の死とは何ですか?」
「無かな?でもさぁ、心ってそんな簡単に無くならないよな。たぶん、形がなくても在り続けるんだろうなって思う。強い奴の精神は勿論、個として存在しているぞ」
そこまで聞いたシェリーはカイルの腕から飛び降りて、シュロスの膝関節に回し蹴りを入れた。
「いきなりなんだ?佐々木さん!関節は弱いって言っているだろう!」
「青い核を壊されるのと、どちらがいいですか?」
「壊すのはやめてくれ」
シュロスはそう言って、胸に露出している青い魂の容れ物を白い怪しい金属の中に隠した。それも機械的な動作ではなく、金属の中に沈み込むように、隠したのだ。
「なんです?それ?液体金属ですか?」
「カッコいいだろう?変形自由なんだぜ!」
シュロスは手を突き出して、そのまま振るうと、肘から先が剣のような細く長い剣身になっていた。
「はぁ、どうでもいいです」
「酷い。佐々木さんが冷たい。いつもだけど」
会うたびにシェリーに白い目を向けられているシュロスは、己の新しい身体を自慢したかったようだが、毎回向けられている冷たい視線に、うなだれている。
そして、シュロスの言葉に反応したカイルはスッとシェリーを抱き寄せた。シュロスが言った『いつも』という言葉が気に入らなかったのだろう。
「佐々木さんの彼氏。心が狭すぎないか?」
「それは、無視でいいです」
「え?佐々木さん。彼氏にも塩対応なのか?それはちょっと可哀想」
「シュロス王。黙らないとその魂を浄化しますよ。未練も想いも残らず綺麗さっぱり魂すらも残らないほどに」
すると、うだうだと言っていた甲冑はピタリと動きを止め、直立不動の鎧標本のようになった。
先ほどの魂の昇華を目の前で見たのだ。シェリーが自称聖女ではないと理解したシュロスはシェリーがやると言ったらやると直感的にわかったのだろう。
「ちっ!やっぱり全ての元凶だった。これを本人に別の認識を埋め込ませたら、世界の概念はかわりますか?」
『え?もう世界に定着しているから、無理だよ』
そう、悪心という人の想いがとどまり続ける理由も、シェリーが喚び出す英雄クラスの過去の人物たちも、ゲーム脳のシュロスがそうだろうという思い込みが、生み出したものだった。
いや、シュロスが己の肉体の限界を感じた時点で、精神体だけでも世界に留まるシステムを構築してしまったのが、全ての原因だった。
そして、白き神はシュロスが世界を変革させたため、世界の概念を変えることはできないと言葉にした。
「あ!神さん!」
「黙れ!」
「違う!神さんに文句を言わせてくれ!俺は永遠の命を願ったのに!叶えられていないじゃないか!」
しかし、シュロスの言葉に白き神は答えなかった。その己の姿が答えだと言わんばかりに。
「だから、私は言ったではないですか。神に願ってはならないと」
呆れていうシェリーは、カイルにガシリと捕獲されていたのだった。
宣伝をさせてください!
月末に白雲のデビュー作である書籍が発売されます。
今開催中のネット小説大賞の第11回で金賞をいただいた作品です。
【私の秘密を婚約者に見られたときの対処法を誰か教えてください】
貴族の令嬢がお金を稼ぐために、平民の冒険者のフリをして、冒険者ギルドに向かうと、そこには婚約者が!
令嬢が好き過ぎる騎士と斜め上に構えてしまう令嬢の冒険譚(笑)
予約注文受付中(6月27日発売)
Amazon
https://amzn.asia/d/0dytXqi
Rakutenブック
https://books.rakuten.co.jp/rb/17867125/
イラスト:Ema3様
@ema3art(https://x.com/ema3art)
ぜひぜひお手にとっていただけると、嬉しく思います。電子書籍版には特典もありますので!たぶん
 




