701
時は戻り、シェリーたちは現在光の渦の真っ只中にいた。破壊の力の暴力だと言っていい光。
「ここを壊す手間が省けました」
シェリーは神を降臨させる魔術の陣を、壊す手間が省けたと口にする。その背後には青い透明の壁があるものの、途中で途切れて光の渦に呑み込まれてしまっている。
そう、シェリーが張った結界にそって、その先が見えなくなっているのだ。
「佐々木さん。よく考えたら、ここは俺の島じゃないのか?」
すでに支えるところは床しかなくなった青い壁に背を預けて立っている奇妙な甲冑が言葉を話す。
皮と骨しかないような者がまとうような白い甲冑だ。
「ここは既に地上なので、その地を治める王の領地です。シュロス王の領地ではありません」
その言葉にシェリーは勝手に所有権を口にするなと言わんばかりに言い切った。
「いや、さっき悪の組織って言っていただろう?」
「言いましたよ。アーク族は色々やらかしてくれていますから、それよりもこの攻撃いつ止むのですか?既に五分ぐらい経っていますよね」
シェリーが言うように、広範囲攻撃としては長すぎる時間、白い光に包まれているのだ。普通はこのような攻撃は術者の魔力が足りずに、精々1分も続けば良いほうだ。
「さっき、命を対価に発動したから、10分ぐらい続く」
その答えにシェリーは隣に立っている甲冑の横腹を殴りつける。そんな術を創るなという意味だ。
「でさぁ。気になっていることがあるんだけど」
「なんですか?」
「そこの竜人からすっげー睨まれているのは気の所為か?」
「気の所為です」
シュロス王が復活し、シェリーのことを『佐々木』と呼んだ時点から、カイルはシュロスのことを敵意を持って睨みつけている。
「もしかして、俺が昔に戦いをふっかけたのを根に持たれているのか?竜人って長生きしそうだしなぁ」
シュロスは勝手に南の空島で暮らしていた竜人族に戦いをふっかけ、勝手に北に引いて行ったのだ。いや、正確にはシェリーと天空神シエロ神が絡む。そのことにより、互いが互いを脅威的と捉え、結果としてはこれ以上、空の鳥人族と竜人族は互いの領域を侵害しないことが締結された。
このときはまだアーク族と名乗っていなかったのだが、後世の歴史でこの空の大戦は竜人とアーク族の戦いと記されることとなった。
「黒の聖女。気の所為で済ますより、自己紹介した方が良いのではないのか?」
そこにまともな言葉が投げかけられた。モルテ王である。
モルテ王としても己の番と別の者が気安く話しているのを見て、カイルと同じ状態になったことが幾度かあったのだろう。
そのシュロスに人の番と気安く話すなということを教えればいいと匂わしたのだ。
「じゃぁ!俺から!」
怪しい甲冑が勢いよく右手を上げて発言する。そのシュロスにシェリーはクソ虫でも見るような目で見ていた。お前が一番に言うのかという目だ。
「俺は三神や『ガンッ!!』……佐々木さん。自己紹介しているのに」
「そっちの名前は必要ありません」
違った。いらないことを言うなという視線だったようだ。この世界での己の立場を言うようにシェリーは再度促す。
「シュロス王。今の貴方の立場です」
「え?今の……無職の甲冑シュロスです!」
シュロスは少し考えて堂々と答えた言葉は、正確ではあるものの、名前と姿しか情報はなかった。そのようなものは事前に知っている。
「じゃ,
次は俺だな。元はカウサ神教国の王太子だったが、魔人に国を破壊されたのをきっかけに、モルテ神とオスクリダー神から身体を与えられて生き返った、この国の王。名はあるが皆からモルテと呼ばれているから、貴殿もそう呼んで欲しい」
名乗っていない。それは大魔女エリザベートに付けられた名が特別だと言いたいのだろうか。
そして言葉にされるとモルテ王の経歴は凄まじいものだ。ただ、国を破壊した魔人に縊り殺されたが入っていないのは、己の過ちを認めたくないからだろうか。
「王太子!魔人ってなんだ!神の力で生き返ることってできるのか!俺も『ガンッ』……佐々木さん、そろそろヒビが入って中身が出そう」
「少し中身が出た方が、大人しくなっていいのではないのですか?それに中身は怪しい気体ですよね」
「え?見られていた?佐々木さんのエッチ……佐々木さん、膝関節を足蹴にしないでくれ、関節は弱いんだよ……ミシミシ言っている!ミシミシ言っているよ!」
シェリーは甲冑の足の膝関節の部分を片足で横に曲げるように蹴っている。人の話を聞かないシュロスにも腹が立ったが、自由の身体を得たからか、異様なテンションにムカついたのだろう。
その蹴っている足はじわじわと力を強めていた。
そんなシェリーをカイルは背後から抱きかかえ、己の腕の中に囲ってしまった。
「ちっ!」
「シェリーは俺の番だ。親しくするのは控えて欲しい」
カイルは自己紹介ですらなかった。ただ、シェリーと己の立場を示しただけだった。




