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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
27章 魔人と神人

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「で、いい加減に帰っていいと思うのですが?」


 シェリーの言葉は勿論、()の世界に帰りたいということではなく、仮初の魔女の家で倒れたまま、ここに意識だけを連れてこられたのだ。それは元の身体に精神を返して欲しいということだ。


『えー!せっかく来たのだから、もっと見ていっていいよ』


 白き神はシェリーに気になる空島の中を探索していいと言っているが、シェリーはいつもの帰りたい病を発症しているかのように、イライラ感を出して口にする。


「帰してください」


 そして踵で青いガラスのような床を割らんばかりに、足音を立てながら歩き出す。ここに居座っても何も変わらないことはシェリーもよくわかっているので、外に出る扉に向かった。


 そう、シェリーは床も壁も扉も天井もガラスのような透明な石でできている建物の中、壁にぶつかることなく進んでいる。

 シェリーもまたゲームで見たことあるマップ機能を使って進んでいるのだ。この不思議な空間でシェリーのスキルが普通に使えている。それもまた奇妙だった。


 外に出るための最後の扉。シェリーの目には青みがかったガラスの向こうには、ガラスを更に青くさせている空と白い雲が映っていた。

 扉の前に立ったシェリーを送り出すように、両側にスライドしていく城の扉。

 そのシェリーの黒髪が爆風の熱をもった風に煽られた。


 先程までガラスの向こうは青い空だったはずだ。しかし、目の前は赤い空が広がっている。


 機能性を何も持っていないガラスの城の下には街が広がっていたようだが、それが炎の海に呑まれ、空には翼を持った者たちが武器を片手に戦っていた。


「私は帰して欲しいと言ったのです。誰が、次のステージに移行しろと言ったのですか!」


 ここに姿を現さない白き神に文句を言うシェリーだが、言っても無駄なのは重々承知している。だが、言わなければもっと腹の虫が収まらないのも事実。


 何も返事がないモノに、更に文句を言っても仕方がないと、シェリーは大きくため息を吐き出し、自分の心の怒りを抑える。


 そして、目の前の光景を観察しだした。燃えている街を消火している様子は見られない。そして空にはロビンのところで見た魔道兵が飛び交い、竜人の兵士に向かって攻撃しているも、一対一では敵わず、魔道兵10体で竜人を一人地に落としているという感じだ。

 はっきり言ってアーク族の分が悪い。

 いや、ここまで追い詰められている時点で竜人族の強さというものが、他の一族と比べて逸脱しているということだ。


 シェリーは空から下に視線を向ける。この場は目立つように高台の上に建っているらしく、高台の下には多くの翼を持った者たちが集まっている。この意味がなさない城を避難所として駆け込もうとしているのかと言えばそうではなかった。

 何かに祈るように城に向かって拝んでいる。


 その光景にシェリーは意味がわからないという視線を送っていた。火の手が背後に迫って来ているというのに、なぜ火の手が届かないであろう、この城に避難してこないのかと。


「佐々木さん!」


 そこに上空からシェリーに声を掛けるものが居た。シェリーはその視線を下から上に持ち上げる。


 シェリーの視界に映ったのは戦闘中とは思えないほど、真っ白な衣服をまとったシュロスがいた。分厚い上質な衣服には金糸の刺繍がされ、汚れなど何一つ、ついていなかった。


「佐々木さん、あれから随分経つのに、全然変わらないんだな」


 人の生死がやりとりされている戦場にいるとは思えないほど陽気な声で、全く関係ないことを言ってきた。


「そういう感じですので」


 シェリーは適当に返事を返す。シュロスと言えば、先程まではひょろい麗人という感じだったが、今では王という威厳だろうか貫禄が出てきている。


「普通に人っぽいのに、聖女様となれば、100年ぐらいは何も変わらないんだな」


 どうやら、先程会ったときから、100年という歳月が経過しているらしい。


「やっとこれでエンディングを迎えられるだろう?」


 この100年間、シュロスの中ではゲームを攻略し続けていたらしい。


「さぁ?それで白き神の声は聞くことができたのですか?」


 シェリーはエンディングを迎えられるかという問いには、濁して答えた。そして、その代わりというように、別の質問を返したのだ。


「おっ!それ気になる?」


 周りでは爆発し熱風が吹き、空から地に落ちて行くモノがおり、何かにすがるように必死に祈る者たちがいるにも関わらず、シュロスはシェリーとの会話の方が大事と言わんばかりにシェリーの隣に降りてきた。


「その前に、ここに居ていいのですか?貴方は王になったのですよね」

「ん?ああ自動機械兵に改造した奴らが戦ってくれるから、大丈夫だ」


 あの可哀想な魔道兵が生まれたのは、シュロスのゲーム脳が、民を民として見ていない結果だった。



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